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Qxd5
79話
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「入って。座って」
またしても不安定な感情で、箇条書きのようにイクスは単語を羅列する。シシーの背後に立ち、威圧するように中へと促す。
魔の棲家へとシシーは足を踏み入れる。軋む床板と、ブーツのコツコツという音が、普段の何倍も響く気がする。ゆっくり歩いているつもりだったが、すぐにテーブルのところへ着いてしまった。
「……」
部屋の中を見回すと、それ以外に物がなにもない。天井も一部剥がれ、裏が見えている。ネズミの仕業だろうか。とりあえず、かなり劣悪な環境であることは間違いない。月明かり以外の光源もない。
「なあ。強い相手ってのは——」
「僕だよ」
玄関のほうからゆっくり時間をかけ、少年が歩み寄ってくる。深く被ったフードを外し、ロングスカートのままで。コツコツと音を立てながら。
ひとつ深呼吸をし、睨むようにシシーは問う。
「……お前、男か、女か。どっちだ?」
髪は短く切り揃えられているが、どちらとも取れる中性的な顔立ちと声。どちらでもないし、どちらでもある。シシーは舌打ちをした。
その不機嫌を、イクスと思われる人物は、微笑みで返す。
「どっちでも。キミがどんな風でも愛せるように」
なんとなく、目の前にいる蜂は自分と同じ。そんな感触をイクスは持っていた。やっと会えた、そんな同族意識。
しかし、その月明かりに照らされた、その美しい顔を顰めたシシーは、差し伸べられた手を払いのけるように、吐き捨てる。
「いい趣味をしてる。対局しないなら帰るぞ」
付き合いきれん、と落胆する。期待した自分が愚かだった。今から帰れば一九時頃には着くか、と計算する。
まず名乗ること。その約束を守ろうと、イクスらしき人物が口を開く。
「自己紹介がまだだったね。僕は——」
「『オー』、だろ?」
腕を組み、目を瞑りながらシシーが先に答える。苛立ちを隠さず、右手の人差し指はトントンと二の腕を叩く。
「……なんでそう思うの?」
オーと呼ばれた少年は、目を見開いて驚いたが、すぐに笑みを浮かべて答えを求める。
くだらん、と小さく呟き、シシーは解を提供した。
「ティック・タック・トゥ。丸罰ゲーム。なにかしら意味があると思っててな。おそらくは二つでひとつ、なにかを示しているというところまでは行き着いた」
最初から胡散臭さを感じていた。それが、少年の反応で確信に変わる。当たってほしいとは全く思っていなかったが。
さらに少年は問いを加えた。
「そもそもさ。なんで僕がティック・タック・トゥだと思ったの?」
そこが問題。少年としては、なにもボロは出していなかった、と手応えはある。後学のためにも、と余裕のある笑みで求めた。
またしても不安定な感情で、箇条書きのようにイクスは単語を羅列する。シシーの背後に立ち、威圧するように中へと促す。
魔の棲家へとシシーは足を踏み入れる。軋む床板と、ブーツのコツコツという音が、普段の何倍も響く気がする。ゆっくり歩いているつもりだったが、すぐにテーブルのところへ着いてしまった。
「……」
部屋の中を見回すと、それ以外に物がなにもない。天井も一部剥がれ、裏が見えている。ネズミの仕業だろうか。とりあえず、かなり劣悪な環境であることは間違いない。月明かり以外の光源もない。
「なあ。強い相手ってのは——」
「僕だよ」
玄関のほうからゆっくり時間をかけ、少年が歩み寄ってくる。深く被ったフードを外し、ロングスカートのままで。コツコツと音を立てながら。
ひとつ深呼吸をし、睨むようにシシーは問う。
「……お前、男か、女か。どっちだ?」
髪は短く切り揃えられているが、どちらとも取れる中性的な顔立ちと声。どちらでもないし、どちらでもある。シシーは舌打ちをした。
その不機嫌を、イクスと思われる人物は、微笑みで返す。
「どっちでも。キミがどんな風でも愛せるように」
なんとなく、目の前にいる蜂は自分と同じ。そんな感触をイクスは持っていた。やっと会えた、そんな同族意識。
しかし、その月明かりに照らされた、その美しい顔を顰めたシシーは、差し伸べられた手を払いのけるように、吐き捨てる。
「いい趣味をしてる。対局しないなら帰るぞ」
付き合いきれん、と落胆する。期待した自分が愚かだった。今から帰れば一九時頃には着くか、と計算する。
まず名乗ること。その約束を守ろうと、イクスらしき人物が口を開く。
「自己紹介がまだだったね。僕は——」
「『オー』、だろ?」
腕を組み、目を瞑りながらシシーが先に答える。苛立ちを隠さず、右手の人差し指はトントンと二の腕を叩く。
「……なんでそう思うの?」
オーと呼ばれた少年は、目を見開いて驚いたが、すぐに笑みを浮かべて答えを求める。
くだらん、と小さく呟き、シシーは解を提供した。
「ティック・タック・トゥ。丸罰ゲーム。なにかしら意味があると思っててな。おそらくは二つでひとつ、なにかを示しているというところまでは行き着いた」
最初から胡散臭さを感じていた。それが、少年の反応で確信に変わる。当たってほしいとは全く思っていなかったが。
さらに少年は問いを加えた。
「そもそもさ。なんで僕がティック・タック・トゥだと思ったの?」
そこが問題。少年としては、なにもボロは出していなかった、と手応えはある。後学のためにも、と余裕のある笑みで求めた。
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