Giftbiene【ギフトビーネ】

文字の大きさ
上 下
79 / 209
Qxd5

79話

しおりを挟む
「入って。座って」

 またしても不安定な感情で、箇条書きのようにイクスは単語を羅列する。シシーの背後に立ち、威圧するように中へと促す。

 魔の棲家へとシシーは足を踏み入れる。軋む床板と、ブーツのコツコツという音が、普段の何倍も響く気がする。ゆっくり歩いているつもりだったが、すぐにテーブルのところへ着いてしまった。

「……」

 部屋の中を見回すと、それ以外に物がなにもない。天井も一部剥がれ、裏が見えている。ネズミの仕業だろうか。とりあえず、かなり劣悪な環境であることは間違いない。月明かり以外の光源もない。

「なあ。強い相手ってのは——」

「僕だよ」

 玄関のほうからゆっくり時間をかけ、少年が歩み寄ってくる。深く被ったフードを外し、ロングスカートのままで。コツコツと音を立てながら。

 ひとつ深呼吸をし、睨むようにシシーは問う。

「……お前、男か、女か。どっちだ?」

 髪は短く切り揃えられているが、どちらとも取れる中性的な顔立ちと声。どちらでもないし、どちらでもある。シシーは舌打ちをした。

 その不機嫌を、イクスと思われる人物は、微笑みで返す。

「どっちでも。キミがどんな風でも愛せるように」

 なんとなく、目の前にいる蜂は自分と同じ。そんな感触をイクスは持っていた。やっと会えた、そんな同族意識。

 しかし、その月明かりに照らされた、その美しい顔を顰めたシシーは、差し伸べられた手を払いのけるように、吐き捨てる。

「いい趣味をしてる。対局しないなら帰るぞ」

 付き合いきれん、と落胆する。期待した自分が愚かだった。今から帰れば一九時頃には着くか、と計算する。

 まず名乗ること。その約束を守ろうと、イクスらしき人物が口を開く。

「自己紹介がまだだったね。僕は——」

「『オー』、だろ?」

 腕を組み、目を瞑りながらシシーが先に答える。苛立ちを隠さず、右手の人差し指はトントンと二の腕を叩く。

「……なんでそう思うの?」

 オーと呼ばれた少年は、目を見開いて驚いたが、すぐに笑みを浮かべて答えを求める。

 くだらん、と小さく呟き、シシーは解を提供した。

「ティック・タック・トゥ。丸罰ゲーム。なにかしら意味があると思っててな。おそらくは二つでひとつ、なにかを示しているというところまでは行き着いた」

 最初から胡散臭さを感じていた。それが、少年の反応で確信に変わる。当たってほしいとは全く思っていなかったが。

 さらに少年は問いを加えた。

「そもそもさ。なんで僕がティック・タック・トゥだと思ったの?」

 そこが問題。少年としては、なにもボロは出していなかった、と手応えはある。後学のためにも、と余裕のある笑みで求めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...