Giftbiene【ギフトビーネ】

文字の大きさ
上 下
59 / 209
exd5

59話

しおりを挟む
「……ありがとう……!」

 絞り出すように、母に感謝した。全然布団から出てこない私を、母は怪しんだだろうか。それとも、なにか察してくれたのだろうか。

「明日は早く起きなさいよ」

 それだけ言って、ドアを閉めて出て行った。

 また、真っ暗闇になる。でも、温かさは残っている。

「うん、うん……!」

 聞こえてはいないだろうけど、明日の朝は早く起きる。約束する。そして、勉強も頑張る。嫌いなものも残さず食べる。今までは結構適当だったけど、お母さんの誕生日には、必ず喜んでもらえるように。

「うん、うん……!」

 もう一度約束する。いつか、落ち着いたら今回のことを話そう。そうだ、一緒に旅行にも行こう。書店のアルバイト代で賄う。そのために頑張る。宣言しよう。お母さんから貰ったこの身体を大事にする。朝も早く起きて、勉強も頑張って、残さず食べて、笑顔を絶やさず、それからそれから——

「だからおじさん、言ったんだがね。もうやめときなって」

「……最、悪」

 マフラーを売ったお金で挑んではみたが、結果、負けた。全額、初日のおじさんにまた。勝ってマフラーは買い戻せばいい。そう考えてはみたが、結局ダメだった。昨日、なんの宣言してたっけ? 思い出せない。

「残念ながらギャンブル依存だ。かわいそうに。おじさんの知り合いにもいるけど、難しいんだこれが。ま、頑張って」

 おじさんは応援してくれた。優しい人。しかもなんだろう、情けをかけてくれたのか、その中から五ユーロ、私にくれた。帰りの電車代かな。やった、もうひと勝負できる。

「……あー……ハハハ……」

 最低だ。わかってはいる。最低の人間だ、私は。でも自然と笑いが込み上げてくる。仕方ないじゃないか、込み上げてくるんだから。

「……助けて……」

 誰に助けを求めてる? 誰? 誰かいたっけ? ていうか、なんでこんなことしてるんだっけ。誰のためにこんなこと始めたんだっけ。もういいか、誰でも。誰でもいい。

「……助けてよ……」

 目の端から涙と、口の端から涎が垂れる。でも笑えてくる。力なくイスにもたれかかった。ライト、眩しいな。こんな眩しかったんだ。ずっと俯いてたからわかんなかった。どうでもいいや。

 ふと、ライチの香りがする。

「楽しそうだね。混ぜてよ」

 そんな時、後ろから、誰かに声をかけられる。楽しそう? そう見える? でも、その声に聞き覚えがあった。嘘。そんなことありえない。そう思い、振り返る。

「え——」

「スタッドポーカーか。なるほど」

 時が止まる。ありえない。この方は、こんなところには相応しくない。いるわけがない。でも、今、いる。目の前に。なんで? どうして? それよりも——

「いや、あの、これは——」

 見ないで。お願いだから、汚れた私を見ないで。あなたの隣にいたい……そう、あなたの隣にいたくて。見つめてほしくて。でも、今の私は……お願い、見ないで……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...