Giftbiene【ギフトビーネ】

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49話

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「ウルスラッ!」

 耳元で大きな声が発せられて、私、ウルスラ・アウアースバルトは、やっとのことで薄目を開けた。見知った天井。引っ越してきたときから付いている、この部屋だけ、高さを調整できるライト。ドイツのアパートは天井まで三メートル以上あるところが多く、賃貸であろうと勝手にDIYしてしまう。前の住人がきっとやったのだろう。

「……いいところだった……気がする」

 深くは覚えていない。だが、もう少しで自分に自信が持てる、なにかが手に入る、そんな夢だった。気がする。少し心臓がドキドキしている。きっと、これは母親に大きな声で起こされて、その驚きではない。と思う。

「学校に間に合うかどうかより大事?」

 母が問うてくる。布団を被っていて見えないが、きっと呆れた顔なのだろう。

「大事」

 反抗的に私は返してしまう。アラームでは無理だったようで、もし母が起こしてくれなかったら、色々と問題はあるのだから、感謝はしたい。でも、もうちょっと私の夢の空気を読んでほしい。

「そう、ならまだ寝てな」

 早々に諦めて母は部屋から出て行く。

「そうする」

 と、これまた反抗的に私は了承する。してしまう。

 バタン、という扉の閉まった音の後、数秒の間、無になる。なにも考えない。でも浮かんでくるのはあの方。不機嫌な私は、また目を瞑り、意識を飛ばす。夢でならまた会えるかもしれない。今度こそ、噛んでもらえるかもしれない。どんな声を自分はあげるのだろうか。でも、母がまた起こしに来てくれたら、今度こそ起きよう。

「……」

 待つ。そろそろ起きたいから、来てほしい。

「……」

 待つ。

「…………あーもう!」

 痺れを切らして自分から起きる。なんだ、やればできるじゃん。いや、世間的にはできてないほうか。

「地味」

 洗面台の鏡に映る自分に感想を伝える。クマができて色気のない目元、少しひび割れた唇、消えかかった眉。もっと事細かく説明したいが、時間がないので急いでシャワーを浴びる。湯気で少し曇った鏡に映った自分。

「ちょっとだけ派手」

 自分の胸の大きさには自信ある。とはいえちょっとだけ。ちょっとだけ。首から上にモザイクをかけたら、そしたら選ばれる可能性は一パーセントくらい上がるかもしれない。選ばれるってなに?

 浴室から出て体を拭くと、また洗面台の鏡の私。改めておはよう、とか言ってる場合ではなく、浴室から出たら三〇秒以内には保湿したい。ドイツの空気は非常に乾燥しているし、水も硬水。しっかりと保湿しないと、すぐにガサガサになる。化粧水、そしてセラム。髪を乾かす。朝はバタバタだ。もっと早めに起きればいいだけなのだけど。

 今日は朝食は時間がないのでドリップコーヒーのみ。相変わらずお湯の量は失敗。ダメか。いつものこと。でも、いい夢が見れた気がするから、今日はイーブン。むしろちょっといいかも。いや、最高の気分!
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