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46話
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時間はまだ、太陽も登ってこない午前四時ごろ。
普通なら寝ている時間なのだろうが、なんとなく確信があり、紙袋を手にしたシシーがララの部屋のドアをノックした。と、すぐに開く。
中からは、パジャマの着崩れたララが出てきた。
その姿を確認して、開口一番シシーは、
「勝った」
と報告する。
「そんなの知ってた」
と、シシーにとって嬉しいことをララは言ってくれる。
手にした紙袋をシシーは開き、ラム肉のサンドイッチと、黒胡麻をまぶしたチャバッタを見せる。すでに冷めている。買ってから一時間以上経っているのだから、それはそうだ。
「約束だったから。朝食。買ってきた。二四時間カフェ。本当は行くはずじゃなかったんだけどさ、自分で行っちゃった」
週末、地下鉄ウーバーンも二四時間運行している。そのため、ミッテ区のカフェまで行き、そのまま帰宅ということが可能となっていた。いつもなら寝てしまっている時間に地下鉄に乗り、街を歩き、買い物をする。少し、悪いことをしたような気がして、ドキドキした。
しかし、ララは朝食には目もくれず、シシーの腕にしがみついた。
「そんなのいいから、コーヒーと、シシーがいてくれれば」
言われて嫌ではないが、シシーは反応に困る。約束を守っただけなのだが、どうやら必要なかったのかもしれない。何のために買いに行ったのか、と心の中で苦笑した。
「せっかく買ってきたんだから、食べてよ。チェスやって、ウーバーンに揺られて、歩いて、もうクタクタ」
実際、今倒れたらそのまま寝てしまいそうだった。シャワーを浴びて、体を清めてからベッドで寝たい。だから、さっさと食べて、ララには寝てほしい。お肌がどうとか言ってなかったっけ?
興奮気味に、眠気など吹き飛んだララがまくし立ててくる。
「でも今日は土曜日だから、学校はないんでしょ? ずっと一緒にいられる?」
そんな無茶な。眠いんだって。髪の毛の一本から爪先まで全部が否定している。
「いられない。やることはあるから。チェスだって考えたいし。なにより眠い。ララだって今日は仕事じゃないの。休み?」
彼女のスケジュールまで知らないが、だいたい土曜はいない気がする。今日は違うのかな。
「今日は休みだから、家でゴロゴロか買い物。外に行こう」
違うのか。
「いいよ。後でね」
寝て起きて少しして。そしたら外に出て、買い物でもしようか。お金も入ったし、たまには自分で自分のものでも買おう。
「……なんか、シシー変わった?」
と、ララに言われて驚いた。
「ん? なんで?」
なにか変わったのかな。自分ではわからない。触れられるのは嫌だし、なにが変わったんだろ。本当に変わったのかな。
「前だったら、絶対に断ってた。嬉しいけど、少しビックリ」
そう言われればそうかもしれない。でもなんで断らなかったんだろう。自分でも不思議だ。
「どうかな。そりゃ毎日少しずつ変わるよ。成長してるといいんだけど」
と、返したけど、人間進歩するんだから、昨日とだって違う。そういった意味では変わったかもしれない。と考えていたら、後ろからララに抱きつかれた。
「? なに?」
驚いたけど、もう面倒なのでほっといた。でもすぐ離れた。
ララはなんか不満そうな顔をしている。
「前だったら、冷めた目で突っ返してた。絶対変わったよ。でも」
満面の笑みに変わり。
「嬉しいほうの変わり方」
もう一度抱きついてきた。
そしてさらに次は、一瞬、溜めてからすりつくように、ララはシシーの胸元に抱きついた。どちらが年上かわからない甘え方だ。
仕方ないな、なにが変わったのかわからないけど、ララの髪に触れ、
「そっか。喜んでくれたなら」
頭を撫でる。
「俺も嬉しい」
そう、優しく微笑んだ。
普通なら寝ている時間なのだろうが、なんとなく確信があり、紙袋を手にしたシシーがララの部屋のドアをノックした。と、すぐに開く。
中からは、パジャマの着崩れたララが出てきた。
その姿を確認して、開口一番シシーは、
「勝った」
と報告する。
「そんなの知ってた」
と、シシーにとって嬉しいことをララは言ってくれる。
手にした紙袋をシシーは開き、ラム肉のサンドイッチと、黒胡麻をまぶしたチャバッタを見せる。すでに冷めている。買ってから一時間以上経っているのだから、それはそうだ。
「約束だったから。朝食。買ってきた。二四時間カフェ。本当は行くはずじゃなかったんだけどさ、自分で行っちゃった」
週末、地下鉄ウーバーンも二四時間運行している。そのため、ミッテ区のカフェまで行き、そのまま帰宅ということが可能となっていた。いつもなら寝てしまっている時間に地下鉄に乗り、街を歩き、買い物をする。少し、悪いことをしたような気がして、ドキドキした。
しかし、ララは朝食には目もくれず、シシーの腕にしがみついた。
「そんなのいいから、コーヒーと、シシーがいてくれれば」
言われて嫌ではないが、シシーは反応に困る。約束を守っただけなのだが、どうやら必要なかったのかもしれない。何のために買いに行ったのか、と心の中で苦笑した。
「せっかく買ってきたんだから、食べてよ。チェスやって、ウーバーンに揺られて、歩いて、もうクタクタ」
実際、今倒れたらそのまま寝てしまいそうだった。シャワーを浴びて、体を清めてからベッドで寝たい。だから、さっさと食べて、ララには寝てほしい。お肌がどうとか言ってなかったっけ?
興奮気味に、眠気など吹き飛んだララがまくし立ててくる。
「でも今日は土曜日だから、学校はないんでしょ? ずっと一緒にいられる?」
そんな無茶な。眠いんだって。髪の毛の一本から爪先まで全部が否定している。
「いられない。やることはあるから。チェスだって考えたいし。なにより眠い。ララだって今日は仕事じゃないの。休み?」
彼女のスケジュールまで知らないが、だいたい土曜はいない気がする。今日は違うのかな。
「今日は休みだから、家でゴロゴロか買い物。外に行こう」
違うのか。
「いいよ。後でね」
寝て起きて少しして。そしたら外に出て、買い物でもしようか。お金も入ったし、たまには自分で自分のものでも買おう。
「……なんか、シシー変わった?」
と、ララに言われて驚いた。
「ん? なんで?」
なにか変わったのかな。自分ではわからない。触れられるのは嫌だし、なにが変わったんだろ。本当に変わったのかな。
「前だったら、絶対に断ってた。嬉しいけど、少しビックリ」
そう言われればそうかもしれない。でもなんで断らなかったんだろう。自分でも不思議だ。
「どうかな。そりゃ毎日少しずつ変わるよ。成長してるといいんだけど」
と、返したけど、人間進歩するんだから、昨日とだって違う。そういった意味では変わったかもしれない。と考えていたら、後ろからララに抱きつかれた。
「? なに?」
驚いたけど、もう面倒なのでほっといた。でもすぐ離れた。
ララはなんか不満そうな顔をしている。
「前だったら、冷めた目で突っ返してた。絶対変わったよ。でも」
満面の笑みに変わり。
「嬉しいほうの変わり方」
もう一度抱きついてきた。
そしてさらに次は、一瞬、溜めてからすりつくように、ララはシシーの胸元に抱きついた。どちらが年上かわからない甘え方だ。
仕方ないな、なにが変わったのかわからないけど、ララの髪に触れ、
「そっか。喜んでくれたなら」
頭を撫でる。
「俺も嬉しい」
そう、優しく微笑んだ。
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