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第5章

頼子の幸せ

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頼子はベッドに入ると右手を恵子の腕枕にして、恵子を抱き寄せました。
「何かすごく懐かしい。あの頃は恵子ちゃん、まだすっごく小さかったのに、今では私とほとんど変わらないね。もう体全体をギュッと抱きしめることは無理ね。」
頼子は自分が小学生で、恵子が幼稚園児だったころを懐かしく思い出していました。
ちょうど恵子のお嫁さん発言で貴浩と恵子がギクシャクした時も、頼子が恵子を抱きしめて慰めていました。

「頼子さん、ごめんなさい。頼子さんの顔を見たら、抱きしめてもらいたくて。」
まだ涙が止まらない恵子です。
「いいのよ、恵子ちゃん。気にしないで。私でよければいつでも抱きしめるわよ。」
「頼子さん、ありがとう。」
恵子は頼子にしがみ付くように寄り添い、泣きました。
頼子は恵子の髪の毛を優しく撫でて、そしてギュッと抱きしめました。

「恵子ちゃん、詩絵美ちゃんを愛しているのね。」
「私、レズビアンなんです。」
「実は私もよ。女同士の恋はなかなか難しいわ。」
恵子は驚きの表情を見せながら、黙って頷きました。

「恵子ちゃんは詩絵美ちゃんを愛してるけど、詩絵美ちゃんは貴浩を愛してるのね。そして貴浩は恵子ちゃんを愛してる。見事に一方通行ね。本当にうまくいかないものね。でも昨夜は詩絵美ちゃんと一夜を過ごしたんでしょ?」
「ええ、このベッドの上でこのタイツを履いたままセックスもしました。」
予想していたとはいえ、ストレートに言われると、頼子は少しショックです。
「そっか、詩絵美ちゃん、恵子ちゃんとのセックスを受け入れてくれたんだ。詩絵美ちゃんにとっても恵子ちゃんは特別な人ではあるんだ。」

特別な人=愛する人ではありません。
詩絵美にとってあくまでセックスをする間柄の人ということを恵子も分かっています。
「詩絵美ちゃんはただ単にセックスのパートナーとして恵子ちゃんを見ているわけではないんじゃない?」
「それは私も分かるんです。ずっと一緒にいて欲しいって言ってくれたんです。でも愛してくれている訳じゃない。」
恵子は頼子と向かい合いながらも、やや俯きに話します。
頼子は恵子の髪の毛や頬を何度も優しく撫でました。
恵子の目から溢れ出ていた涙は今は止まっています。

「恵子ちゃんは詩絵美ちゃんに自分の気持ちは伝えたの?」
恵子は首を横に振ります。
「本当は告白したいけど、そうすると全てが壊れてしまいそうで。」
「それはそうね。でも詩絵美ちゃんは分かってるんじゃない?」
「気付いてると思います。」
「分かっていて、セックスもしたんだ。でも詩絵美ちゃんが愛しているのは貴浩。詩絵美ちゃんとしても曖昧なままにしておきたいだろうね。」
「だから辛いんです。」
恵子は頼子を力強く抱きしめてきました。

「私も同じよ。」
「頼子さんも片思いなんですか?」
「今はそうよ。相手に伝えたいけと、伝えると関係が壊れそうだからね。私の場合は相手は気付いていないけどね。」
「私たち似たもの同士ですね。」
ようやく恵子に笑顔が戻ってきました。

「頼子さんに抱かれていると、なんかホッとするんです。心が落ち着くんです。」
「私も同じよ。恵子ちゃんを抱いていると、優しくて嬉しい気分になるわ。それに今日は恵子ちゃん、素敵なタイツを履いているし。」
「頼子さんもタイツ、好きですか?」
「正直に言って白いタイツが大好きよ。だから今日は白いタイツの恵子ちゃんにちょっと興奮しているのよ。」
「頼子さん、すっごく嬉しい!私も白いボディタイツの頼子さんに興奮しています!」
2人は顔を見合わせて笑い、ギュッと力強く抱きしめ合いました。

頼子は恵子を愛しています。
恵子も頼子に愛ではありませんが、憧れの気持ちを抱いています。
2人は抱きしめ合う中で、徐々に気分が高揚してきました。
恵子は頼子にタイツを擦り合わせます。
脚と脚、体と体のタイツが擦れ合い、心地よい快感に包まれます。
恵子はさりげなく頼子の胸の膨らみに、自分の胸の膨らみをタイツ越しに擦り合わせました。
お互いの胸がビクッと反応します。
「ああっ、頼子さん」

頼子は恵子の喘ぎ声に涙が出そうなくらい嬉しく思い、恵子の背中からお尻を激しく愛撫しました。
そして恵子の右頬に頬擦りをして接吻し、右の耳たぶを咥え、耳の中に舌を入れました。
「あっ、ああっ、頼子さん、ダメ、ああっ」
恵子はとろけそうな快感に襲われ、頼子に力強くしがみついてきました。
頼子は左手で恵子の背中からお尻、右の太ももをタイツの上から愛撫して、同時に右耳から右頬、そして右の頸を順に舐めていきました。
恵子は頼子の責めに、かなり感じています。
「うっ、あっ、ああっ、頼子さん、イヤ、ダメ、ああっ」

恵子は気持ちが昂り、憧れの頼子の責めに今日はこのまま頼子にされるがままでいたいと思っていました。
頼子もこのまま恵子とセックスへ持ち込みたいと考えていました。
「恵子の体が欲しい」
頼子が囁こうとした瞬間、頼子のLINEが鳴りました。

LINEは坂上からでした。
体調不良でアルバイトの欠勤が出たので、緊急で手伝ってくれないかという内容でした。
さすがに放っておけません。
頼子はすぐ行くと返信しました。

「頼子さん、今日は行っちゃいや。」
恵子は涙を浮かべて引き留めようとします。
「お願い、今日はずっと側にいて。」
頼子はその言葉が嬉しくて涙が出てきてしまいましたが、恵子に悟られないようにそっと拭いました。
「恵子ちゃん、明日、もう一度来るわ。」
恵子はガッカリした様子です。
頼子も明日になったら恵子の気が変わってしまうかもという不安はありましたが、カフェの坂上が困っているのを放ってはおけません。

「明日、絶対来て。頼子さん、必ず待ってるから。」
恵子は頼子にしがみついたままです。
「大丈夫よ。明日の夜に来るわ。」
「じゃあ、夕食を用意して待ってますね!必ず来てくださいよ!」
恵子の満面の笑みに頼子は涙を堪えながら、恵子を抱きしめました。
頼子が恵子の口元へ唇を動かすと、恵子は目を閉じました。
しばらくの間、2人の唇がそっと重なりました。

恵子はタイツ姿のままで、頼子の姿が見えなくなるまで手を振り続けました。
頼子は湧き出てくる幸せの気持ちをグッと抑えて、カフェに向かいました。

すぐに恵子はベッドの上で、予期していなかった幸せの余韻を噛み締めながら、オナニーをし始めました。
ただ、自分が詩絵美と同じ立場になりつつあることには、まだ気付いていませんでした。



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