エロスな徒然

かめのこたろう

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2019年 10月28日

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 題名からのエロ期待で結局最後まで読んじゃったマンガといえば、上條淳士センセイの「SEX」を超えるものがあるならばどうか教えてほしいものです。


 今は亡き週刊ヤングサンデーは当時の青年向けマンガ雑誌(ヤング~ってつく系のやつ)の中でも特にエロ期待を持たざるを得ない雑誌だったと思います。
 というのも、本エッセイでも何度か取り上げた遊人センセイの「Angel」が載ってたから。
 あまりの過激さにPTAが騒ぎ出して社会問題にまで発展し、一連の性表現規制の発端になるような伝説的エロマンガを掲載していたんだから、自然と読む方の意識もそれに引きづられてしうまうのはむしろ当然。


 遊人センセイがヤングサンデーという雑誌のイメージ全体を牽引してしまっていた、まさしく看板作家看板作品としての役割を担っていた時代だったと思います。


 だから読者が「次はどんなエロ作品がでてくるのかな?」、「Angelよりも過激だったらいいな」って毎週毎週新作が発表されるたびにドキワクしちゃうのもしょうがありません。
 そんなところに「SEX」なんてもろな題名の作品が出てきたら、もう期待するなというのが無理です。
 それもバンドマンのサクセスストーリーを描いて大ヒットした傑作「TOY」で既にその画力もストーリー性の評価も不動のものにしていた、当時ノリにノッてる一流作家がそんなものを始めますって言うんだから。

 掲載予告で提示された「カホ」のイメージヴィジュアルを見て前作から全く衰えていないどころか、さらに洗練された流麗な画力を確認して否応も無く興奮が最高潮を迎えちゃったのもやむをえないでしょう。


 そうして上條淳士センセイの「SEX」は多くの読者の過剰なほどのエッチな期待を一身に背負って(たぶん)連載が始まったわけですが。

 結論から言うと、「SEX」は全然エッチじゃありませんでした。
 遊人センセイの「Angel」と比べるなどもっての外、ちょっとしたお色気的エッチ系少年漫画程度のエロみもほとんどない……、というより「卑猥」とか「官能」という概念とは対極にあるような。

 そんな作品だったのです。

 連載初回の第一話、予告でお披露目されたセーラー服の美少女が登場してワクテカしたのが多分ピーク。
 続く第二回、第三回と話が展開していくごとに膨らみきって爆発しかけていたエロ期待はどんどんしぼんでいき、やがてはすっかり消えうせていきます。

 でも読者は何故か自分達のエロ期待が裏切られたにも関わらず読むのをやめませんでした。
 いや、やめられませんでした。


 そこに描かれた、「都会の白昼夢的、乾いた幻想」みたいな雰囲気にコロっとやられちゃったんです。


 沖縄や横浜、東京という象徴的な都市のアーティスティックなイメージショットの数々
 煌びやかな繁華街や整備された駅前、住宅地、対比されるように描かれる裏路地や貧民街など無国籍的な雰囲気が漂う雑多な町並み、現代都市の表と裏。
 意味深で謎めいた若い男女のやりとり。
 決して多くないセリフに濃密に凝縮された都会的で現代的、そして幻想的なシャープな感性。

 バイオレンスな雰囲気を纏いながらも、どこか享楽的で生々しさがない、むしろ耽美な。


 その只管どこまでも「クールでカッチョイイ」を極めたような内容にいつしか夢中になっちゃったんです。


 それまで耽溺していた「Angel」とまったく違う、「淫猥」とか「官能」とかいうのとはどこまでも対極的な美的価値観を不意打ちで食らってすっかり参っちゃったんだと思います。
 全然違うものを想定して期待していたのが見事に肩透かしされた上に、完全に油断して無防備になっていたところをガツンとカウンターをやられたというか。


 そうして読み続けていた「SEX」は徐々に掲載がまばらになり、中途半端なところで連載中断してしまい、その後はしばらく「すぐに再開するだろ」程度に思ってたのが全然音沙汰内ままいつしかすっかり忘れ果てていたわけですが。
 ついこないだ十数年の時を経て再開し、やっと終わったことを知ってとうとう読み終えることができました。
 そして相変わらずの「現代的でシャープな感性」、「都会の乾いた幻想みたいなカッチョイイ雰囲気」を再確認しましたよと。
 
 1980年代末から90年代初頭の作品のはずなんですが、何故か古臭さがまったくありません。
 むしろ現在のものよりも「先進性」のようなものを感じさせられる気がします。

 「SEX」は何時見ても新しく、カッチョヨく、そして全然エロくない作品でした。


 あれだけ溢れんばかりのエロ期待を手酷く裏切られたにも関わらず、最後まで読ませた力とは一体なんだったのか。
 その源泉を辿ることでまた新たなエロス領域に至れそうな気がしないでもありません。


 エロを知るためにはエロくないものを知ることも必要なんだと思います。
 
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