165 / 220
2019年 10月28日
しおりを挟む題名からのエロ期待で結局最後まで読んじゃったマンガといえば、上條淳士センセイの「SEX」を超えるものがあるならばどうか教えてほしいものです。
今は亡き週刊ヤングサンデーは当時の青年向けマンガ雑誌(ヤング~ってつく系のやつ)の中でも特にエロ期待を持たざるを得ない雑誌だったと思います。
というのも、本エッセイでも何度か取り上げた遊人センセイの「Angel」が載ってたから。
あまりの過激さにPTAが騒ぎ出して社会問題にまで発展し、一連の性表現規制の発端になるような伝説的エロマンガを掲載していたんだから、自然と読む方の意識もそれに引きづられてしうまうのはむしろ当然。
遊人センセイがヤングサンデーという雑誌のイメージ全体を牽引してしまっていた、まさしく看板作家看板作品としての役割を担っていた時代だったと思います。
だから読者が「次はどんなエロ作品がでてくるのかな?」、「Angelよりも過激だったらいいな」って毎週毎週新作が発表されるたびにドキワクしちゃうのもしょうがありません。
そんなところに「SEX」なんてもろな題名の作品が出てきたら、もう期待するなというのが無理です。
それもバンドマンのサクセスストーリーを描いて大ヒットした傑作「TOY」で既にその画力もストーリー性の評価も不動のものにしていた、当時ノリにノッてる一流作家がそんなものを始めますって言うんだから。
掲載予告で提示された「カホ」のイメージヴィジュアルを見て前作から全く衰えていないどころか、さらに洗練された流麗な画力を確認して否応も無く興奮が最高潮を迎えちゃったのもやむをえないでしょう。
そうして上條淳士センセイの「SEX」は多くの読者の過剰なほどのエッチな期待を一身に背負って(たぶん)連載が始まったわけですが。
結論から言うと、「SEX」は全然エッチじゃありませんでした。
遊人センセイの「Angel」と比べるなどもっての外、ちょっとしたお色気的エッチ系少年漫画程度のエロみもほとんどない……、というより「卑猥」とか「官能」という概念とは対極にあるような。
そんな作品だったのです。
連載初回の第一話、予告でお披露目されたセーラー服の美少女が登場してワクテカしたのが多分ピーク。
続く第二回、第三回と話が展開していくごとに膨らみきって爆発しかけていたエロ期待はどんどんしぼんでいき、やがてはすっかり消えうせていきます。
でも読者は何故か自分達のエロ期待が裏切られたにも関わらず読むのをやめませんでした。
いや、やめられませんでした。
そこに描かれた、「都会の白昼夢的、乾いた幻想」みたいな雰囲気にコロっとやられちゃったんです。
沖縄や横浜、東京という象徴的な都市のアーティスティックなイメージショットの数々
煌びやかな繁華街や整備された駅前、住宅地、対比されるように描かれる裏路地や貧民街など無国籍的な雰囲気が漂う雑多な町並み、現代都市の表と裏。
意味深で謎めいた若い男女のやりとり。
決して多くないセリフに濃密に凝縮された都会的で現代的、そして幻想的なシャープな感性。
バイオレンスな雰囲気を纏いながらも、どこか享楽的で生々しさがない、むしろ耽美な。
その只管どこまでも「クールでカッチョイイ」を極めたような内容にいつしか夢中になっちゃったんです。
それまで耽溺していた「Angel」とまったく違う、「淫猥」とか「官能」とかいうのとはどこまでも対極的な美的価値観を不意打ちで食らってすっかり参っちゃったんだと思います。
全然違うものを想定して期待していたのが見事に肩透かしされた上に、完全に油断して無防備になっていたところをガツンとカウンターをやられたというか。
そうして読み続けていた「SEX」は徐々に掲載がまばらになり、中途半端なところで連載中断してしまい、その後はしばらく「すぐに再開するだろ」程度に思ってたのが全然音沙汰内ままいつしかすっかり忘れ果てていたわけですが。
ついこないだ十数年の時を経て再開し、やっと終わったことを知ってとうとう読み終えることができました。
そして相変わらずの「現代的でシャープな感性」、「都会の乾いた幻想みたいなカッチョイイ雰囲気」を再確認しましたよと。
1980年代末から90年代初頭の作品のはずなんですが、何故か古臭さがまったくありません。
むしろ現在のものよりも「先進性」のようなものを感じさせられる気がします。
「SEX」は何時見ても新しく、カッチョヨく、そして全然エロくない作品でした。
あれだけ溢れんばかりのエロ期待を手酷く裏切られたにも関わらず、最後まで読ませた力とは一体なんだったのか。
その源泉を辿ることでまた新たなエロス領域に至れそうな気がしないでもありません。
エロを知るためにはエロくないものを知ることも必要なんだと思います。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ずっと君のこと ──妻の不倫
家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。
余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。
しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。
医師からの検査の結果が「性感染症」。
鷹也には全く身に覚えがなかった。
※1話は約1000文字と少なめです。
※111話、約10万文字で完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる