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 もちろん、とても褒められた行為ではありません。
 正直、気持ちが悪いという感情もあったし、軽蔑する想いもありました。

 まず性的な嫌がらせとか、不法侵入とかそういう事態なことなのは間違いありません。
 いくら可愛い後輩で憎からず思っていても、すぐにその場で糾弾して𠮟りつけるべきではあったのでしょう。
 彼のためにも、毅然とはっきり「こういうことは絶対駄目」っていうべきだったんです。
 もちろん「二人だけの秘密にしておくから」と付け加えることを忘れずに。

 そうすればもうそれで終わりのはずだったのです。
 少し気まずくはなるかもしれないけれど、私の方が大事(おおごと)にさえしなければ、致命的なことにはならないはずでした。
 どれだけ直後は恥ずかしくばつが悪い感じになっても、時間と共に緩和され希釈されて果てにはこそばゆい感覚だけをもよおさせる想い出の一つになっていく程度のこと。
 以前と全く同じとまではいかずとも、まだ関係修復は可能だったんだと思います。
 水泳という素晴らしいスポーツを通じて心を通わせた仲間なんだから。
 この程度の事で簡単に破綻して崩壊してしまうような安易な関係じゃなかったと私は信じています。

 でもそんな明るく健全な未来を選択しなかった理由は自分自身、よくわかりません。
 背後から忍び寄って、「何やってるの?」と両手で彼の肩を抑えるように動きを封じたときの自分の心理はとても言葉にできるようなものではありません。

 ただ、それまで全くそういう目で見ていなかった後輩の「男性」の部分を初めて目の当たりにして、もっとよく確認してみたいという知的好奇心みたいなものに憑りつかれていたようでした。
 ビクッと震えて硬直し、「ひゃぅっ!」っとなんとも情けない声を出して私の水着を抱えたまま固まった彼のジャージの股間を見た瞬間、はっきりとこの不貞者、不埒で破廉恥な後輩に罰を与えてやりたいと思いました。

 許せない気持ちが溢れました。
 それまでの信頼関係を踏みにじって汚されたような失望。

 純粋無垢の友情のような仲間意識を一方的に破棄された怒りが滾々とこみ上げてきました。

 こちらを見ることもできないのでしょう、俯きながら「あっ……、はっ……」とがたがた震え始めます。
 その情けなく身勝手な振る舞いにさらに感情は逆なでされます。

 がっしと逃げられないように両手で肩をつかんだまま、私は言いました。
 

 「私の水着で何やってるの?」


 彼はますます体を震わせながら「せっ、センパ……っ」とか「ちっ、ちがうんですっ」とか言い始めます。
 どうやっても言い逃れも誤魔化しもできないこの状態で。
 何が違うんだと、あんまり論理がめちゃくちゃなことに思わず可笑しくなったのを覚えています。


 「何も違わないでしょ。いやらしいことしようとしてたんでしょ?」


 はっきりと言ってやりました。
 すると黙り込んでしまいます。
 完全に断言されて二の句が告げられなくなったという感じでした。
 もう彼は俯いてぶるぶる震えるだけの情けない生き物になったようでした。

 終いには「許して」とか「ごめんなさい」とか蚊の鳴くような声で、延々とつぶやき始める状態に。

 私はもう絶対に許せなくなっていました。
 どうにかして自分が汚されたことの代償を払ってもらおうとそう思い始めました。

 だから今一番彼がやらされたくないこと、私に言われたくないだろうことをしてやろうと心に決めたのです。


 「何をしていたのか正直に言ってよ。じゃないとセンセイとか学校に報告することになっちゃうから」
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