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しおりを挟むその日、学校のプールに併設されている教官室で部活のコーチとセックスしてきた後のことでした。
後輩の彼が私の水着に顔を埋めているのを見つけてしまったのは。
今日の練習が終わってもう数時間が経ち、誰もいないはずの暗い更衣室のベンチに独り蹲(うずくま)るように座る影。
不審者の類(たぐい)かと思い一瞬身を強張らせましたが、すぐに見慣れた後輩の一人の背中であるとわかりました。
男子にしては小柄で華奢、それでいて肩幅だけが広いその体つき。
部活で毎日見ている、それなりに苦楽を共にしてきた可愛い後輩の一人に間違いなかったので大きな叫びをあげるとか、思い切り逃げ出すといった過激な行動にはなりませんでした。
それでも場所はとっぷり日の暮れた学校のプールの女子更衣室。
部活のメンバー全員が帰った後、誰もいないはずのそこに男子部員がいるという状況が尋常であるはずがありません。
意味不明で不気味なのは変わらなかったので、幸いこちらに背を向けて全く気が付いていなさそうだから、ゆっくりと恐る恐る近づいて行ったのです。
本当なら距離を置いたところで声をかけるとか、音を出すとか何かしらやり方はあったのでしょうけど、「一体何を?」という好奇心のようなものが勝ったみたいでした。
それに、強化選手として毎日みっちりしごかれて身体が出来上がっている私。
万年補欠の、毎日皆勤賞でいじましい努力だけは認めている彼に何かされる危険もさほど感じなかったのでした。
わずかにも音をたてぬよう、細心の注意を払って忍び足で近づいていきました。
彼は更衣室のベンチに座ったまま、一心不乱に背を丸くして何かをしています。
そうして彼が女子の水着を抱えて、その感触や匂いを確かめるように手や顔を擦りつけているのを確認した時には、それが自分のものだということも同時に知ることになったのです。
大会用の専用競泳水着、普段の練習ではめったに着ないから更衣室の一角に保管しているそれ。
黒と紺色の色彩で大胆に股間を強調するようなデザインのハイカット、伸縮性には少し劣るけど練習用とは比べ物にならないくらい薄く光沢のあるスベスベでつるつるの布帛製。
このタイプを使っていたのは自分だけなので、見間違えようがありません。
今年からはスパッツタイプのものに切り替わりつつあったので、もうほとんど廃棄寸前のはずのものでした。
自分の競技人生を永年支えてくれた愛着と思い出だけで置いておいた程度の。
私自身、ほとんど忘れていたその存在を彼がなぜ知っていたのかなど疑問は数限りなくありましたが、さしあたり出くわしたこの事態に感情の処理が追いつきません。
後輩の男子が夜の女子更衣室で自分の競泳水着を抱きしめて、たぶん恍惚としている……。
そんな場面にいきなり出くわしたら、一体どんな反応をするのが正解だったのか後から冷静になって振り返ってもよくわかりません。
少なくともこの時の私を覆い尽くした感情は混乱以外の何物でもありませんでした。
「わー」とか「きゃー」とか 叫ぶでも無し。
思いっきり攻撃的な気分になって、蹴り飛ばしたり張り飛ばしたりするでも無し。
ただただ唖然とするしかなかったのでした。
ひたすら「何故」という疑問が浮かび続けていました。
でも異性経験が全くないわけでもないので、だいたいそういうことかという理解も徐々に沸いてはきたのです。
部活を通じて深まった、一回り年上のコーチとの関係。
肉体を含めて、一通りの異性経験はしているという自覚はありました。
何しろその日も、すっかり常態となってしまった部活後の逢瀬を楽しんでいたわけなので。
だから後輩の彼が私に想いを寄せていたんだという、予想だにしていなかった事実も徐々に受け入れていったようでした。
さらには向けどころのない欲求を、こんな風にはらしてしていたのだということさえも。
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