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ぺたんこ胸のエルフ娘は今度こそオークに勝つ自信があるみたいです②

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「出て来い、オークども! 今日こそ止めをさしてやる!!」

 ヘレンさんは自信たっぷりで呼ばわった。
 心の余裕が声にもあわられている。
 今までにない力強さに満ち溢れていた。
 むしろ”わたしを恐れて出てこなかったら……”なんて危惧さえしていた。

 だから何時も通りずらずらとオーク達が姿を現したときには、安堵の息さえ吐いたのだ。

「むふー、逃げずにやってきたか。その度胸は褒めてやろう。だがお前たちも今日で終わりだ!!」

 鼻息を尊大に出して、言ってやった。
 ぺたんこの胸もそりっぱなしだった。
 そして次に続くボスオークの態度もそれを助長したのだ。

「あわわわ、最強戦士のヘレンさんとかいうエルフじゃないかぁー」

 明らかに怯えている。
 ふふふ、まあ仕方がない。

「またあの恐ろしい技を使われたら、たまらん!」

「なんだ、化け物! 逃げるのか? まあわたしを恐れる気持ちもわかるがな! だがもう逃げてもむだだ! どこへ行っても必ず見つけて仕留めてやるぞ!!」

「うぬー、やむをえん、やるしかないか! だがただではやられはせん! やられはせんぞー!」

 怯えたモンスターはやっと近づいてきた。
 いつもどおり一対一で来るようだ。

「ふっ、なんだお前一匹でいいのか? わたしは他も一緒でかまわんぞ」

「やせてもかれてもこのボスオーク! 誇り高き雑魚モンスターとしての矜持はすてておらん! たとえ勝てなくても己の全てをかけて相手してくれる!!」

「その気持ちだけは見上げたものだな。褒めてやろう! 行くぞ!」

 そしていつものへろへろ剣戟が始まる。
 いつもどおりふらふら近寄って。
 ぶうんと大振り。
 ボスオークはぎりぎりでよけて、「うおっ」とか言う。
 数回繰り返しているうちに、今度はピシッとヘレンさんの方に一撃がかする。

「おっと、なかなかやるな! だがその程度ではわたしは倒せないぞ!」

 何しろ自分には奥の手があるのだ。

 必殺「時間差ブレード」。

 たぶん自分が無意識にまとっているオーラとか気とか、そういう感じの神秘の力が剣をふるうたびに相手に向かっているに違いない。
 全然自覚はないけど。
 でも前回のあの結果から疑うべくもない。
 
 きっと、凄まじく高度な領域に至ってしまった達人というのはそういうものなんだと思う。
 よくわからずに強力な技とか術を気が付いたら身にまとってしまっていた、そんな感じ。
 少なくとも自分が魔術に関して天才なのは間違いないんだから。
 思わぬ形で剣の天賦が発揮されたとしてもなんらおかしくなどない……ような気がする。

 だからちょっとかすったくらいではどうともない。
 おっぱいを包む薄布が少しずれたような気がするけど動じない。

「やーーーーっ!!」

 意気軒高、再びふらふらと銅の剣を振り回していく。

「ぐぐぅ、くおおお! うおぉーーー!」

 その追い込みにボスオークは何だか必死でつらそうな感じだった。
 必殺時間差ブレードがすでに発動しかかっているのを確信する。
 少なくともヘレンさん当人は自分が優勢なのを確信していたし、さらに言えばもう完璧に勝ったつもりだった。
 ピシッ、ピシッと何度か反撃がかすってきても全然気にもしなかった。


「うりゃーーーーっ!」
「ぐえええええっ!!」

 ピシッ、ピシッ。
 ひらり。

「とりゃーーーーーっ!」
「うぎゃああああああっ!! ……うひひっ」

 ピシッ、ピシッ。
 はらり。

「えりゃーーーーーーっ!」
「なはーーーーーっ! ……ムフフっ」

 ピシッ、ピシッ。
 ぴらぴら。

「だりゃーーーーーーっ!」
「んほーーーーーーっ! ……ウホホっ」

 ピシッ、ピシッ。
 はらはら。


 何時しかすっかり鼻息荒く、赤く血走った目をして苦しそうにしているボスオーク。
 食い入るようにこちらを見つめている。
 その瞳にあるのはとうとう引導を渡されてしまうことの絶望か。
 はたまたモンスターという呪われた生にふさわしい、正義の断罪者たる自分への憎悪と怨恨か。

 たとえどちらでも関係はない。
 互いの存在をかけ、雌雄を決するために刃を交わし、どちらか一方が倒れ伏す。
 勝利者はただ一人。
 それが運命(さだめ)というものなのだ。

 と、ごくごく私的なただの個人的都合で始まった戦い(?)に、めいっぱい壮大で仰々しい感動的なイメージを載せて自己陶酔に浸るヘレンさん。
 「ああ、わたしって今確実に輝いてる……」と、すっごくいい気分を堪能していたその時。

 相変わらず必死な形相でこちらを凝視しているボスオークと、どうも視線が合っていないことにやっと気が付いた。
 これから倒されることの恨みでも怒りでも怖気でも、なんでもいいから宿敵たる自分の顔をこそ思いっきりにらみつけているはずだと思い込んでいたのだけれど。

 ……なんだか、その視線の向き先は少し下の方を向いているような。

 もはや勝利を確信していたから、その違和感が無視できなくなる。
 ほとんどあと一歩ですべてが終わる、そう思ってたからこそボスオークの不審な様子が気になってしまう。

 そうしてつられるようにボスオークの凝視している方向をちらっと確認した。
 するとそこには綺麗になだらかな平たい自分の体。
 どこもおかしなところなどない、いつもの見慣れた胸と腹、そしてあんよがその先に。

 あれ、でもどこか違和感が?
 いったいなんだろう??

 別に足もおなかも特に異常はない。
 傷一つない、昨日お風呂で洗ったときそのまんま。
 胸だってそうである。
 ちょっと小さいだけで決してないわけではない、というより他の女の子がみんな大きすぎるだけでこれがきっと普通なんだと必死で思い込もうとしている、不本意ながらもいろいろ複雑なものがあって短くない付き合いのおっぱいも。

 恥じることなく一切隠すことなく堂々とさわやかな風と太陽の光にその姿をさらして輝いている。
 唯一、そこがおっぱいなのだという確実な証拠である先端のピンクのぽっちまで。


 んん?


「っっっっっっっっ!! うっきゃーーーーーーーーーーっ!?」


 彼女はそうしてようやっと自分の絶壁胸が完璧に全開丸出しにされているのに気が付いたのであった。


………

「ぐぇへへへへへっ! いいもんたっぷり見せてもらったぜーーーっ!!」

「はわわわわ……」

 たっぷりと目的のものを堪能できたボスオーク。
 茫然自失としているヘレンさんに、「ありがとう」と「さようなら」の意味を込めて勝鬨を上げた。

 ああ、また一つオーク人生の宝物が増えたと。
 やっとミッションコンプリートした「ちっぱいの夜明け」作戦の思い出に想いを馳せる。
 間違いなく今までで一番困難な作戦だった。
 一度は諦めて、挫折するという敗北の苦みさえ味わった。
 それ故にこそ、不可能を可能にした達成感に満たされる。
 俺はこの瞬間のために生きている。
 勝利の美酒のなんと甘いことか。

 だがここで終われないのがオークの上に立つ、指導者たるものの宿命。
 部下たちもすっかり堪能して満足したのを確認し、とりあえず今日はこんなところだろうと引き上げ始めたときには。
 ”次はどうやって丸め込もうかな?”と新たな作戦へと意識は移っていた。

 ボスオークの戦いは終わらない。


 一方、それからしばらく。
 やっとショックから立ち直り、とぼとぼと家路をたどるヘレンさん。
 身体が動くようになった頃にはすっかり日が暮れていた。
 もはや滲む程度じゃ飽き足らない、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながらひたすらの自問自答。

 何故、技が発動しなかったのか?
 何故、あんな風に丸出しにされるまで、いや、丸出しのままで気が付かなかったのか?

 悔やんでも悔やみきれない。
 勝利を確信して他のなにものも見えなくなっていた自分が恥ずかしいやら恨めしいやら。
 なによりまんまといっぱい食らわせられたオーク達への怨念がどろどろと渦巻いたり、ドバっと吹き上がりそうになったり。

 今日は冒険者酒場に行く気にもならない。

 やがて借家のロッジには。
 荷造りを解いてジャムの瓶を棚へと戻すヘレンさんの姿があった。
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