学校のアイドル的美少女と付き合ってるヤンキーが彼女のパンツを僕にくれたから履いてみた

かめのこたろう

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「オメーよぉ……」


 とても意地悪な顔をしていました。
 本来の凶暴性と短絡性をたっぷりと乗せた残虐な笑み。
 己よりも格下の存在を、遥か高みから見下ろして軽蔑して嘲笑する絶対的強者の態度。

 機嫌が良い時とはまるで違う、彼のもう一つの側面がいかんなく発揮されていました。
 僕の早瀬さんへの気持ちを知ったときの「なんか悪かったな」なんて口にしていた時とはまるで別人です。
 いや、本来はこちらの方が彼の本質だったんでしょうが。
 ああいうごくごく稀に見せる気まぐれな真摯な態度こそ、滅多に見ることができない彼の別人格だというだけ。

 一見、なんら気にしてなさそうに見えた早瀬さんとのことに、実はそれなりにムカついてたりイラついてたりしたんでしょう。
 思うままに感情をぶつけて憂さ晴らしする矛先を探していたのがはっきりと伝わってくる、そんな様子でした。

 そしてその時初めて、僕は二人の間に何があったのかと一瞬気になったのですが、それも続く言葉を受けてすぐに消え失せます。


「アイツのこと、まだ好きなんだべ?」


 僕は何も答えられません。
 唸ることもできませんでした。

 あっくんはイラつき半分、愉しみ半分といったサディスティックな笑みを浮かべながらさらに言います。


「告ってみたらイけんじゃねーの? 今ならアイツ、フリーだからよ!」


 最後の言葉が終わる前に、「もう我慢ならない」といった感じで盛大に笑い出しました。
 完全に人を馬鹿にして傷つけて笑いものにする、下品な笑い方。
 「絶対無理だろ?」とか「笑わせんじゃねーよ」といった気持ちが隠されることなく赤裸々にはっきりと乗せられていました。

 本当だったら僕は彼の意図したとおりの反応、馬鹿にされて笑いものにされたと感じ、それなりに傷ついたり塞ぎこんだりするはずでした。
 やられ続けるうちに自然と身に着けた防衛的対応、諦観の混じった悲しみに襲われて、ああこの時間が早く終わらないかなと願い続ける……。
 それが本来の在り方だったはずなんですが。


 早瀬さんに告白……。


 突如、鬱々としていた僕の脳裏に一線の閃光が迸りました。
 その言葉に喚起されたヴィジョンが明確に描かれ、意識がすべて持っていかれました。


 これまで考えたこともない、早瀬さんへの直接的なアプローチ。


 まともに話したこともない、まず間違いなく相手にされていないし彼女の眼に僕なんてこれっぽっちも映っていない。
 成功する可能性なんて皆無。
 やるだけ無駄なことはわかりきっている、完全に無意味な仮定。

 およそ運動も勉強もできない、見た目も悪いクラスの落ちこぼれ、彼女だけでなく誰にもまともに相手にされていない自分。
 受け入れられるわけがありません。
 我ながら荒唐無稽すぎて、冒涜的とすら感じます。
 あまりのリアリティの無さに質(たち)の悪い冗談としか思えないはずでした。

 しかし今、ヤンキーの八つ当たりじみた悪意たっぷりの悪ふざけが、僕の中に生み出したもの。
 およそ、人知の及ばぬめぐりあわせと偶然が気の遠くなるほど積み重なって最後に至った神秘の果実。

 
 この僕が早瀬さんに告白するという、ありえない発想。


 僕の意識が完全に囚われて持っていかれているのを単純に自分の意地悪で意気消沈したと思ったのでしょう、あっくんはゲラゲラ笑いながら言いました。
 

「ウッソ、嘘だって! マジでそんなことさせねーから安心しろよ! 完全にイジメだもんなぁ? そんなダセーことできねーヨ!」


 パンパン僕の肩を叩いて笑い転げます。
 終いには腹を抱えながら、涙を浮かべてヒーヒー苦しそうにしている始末。

 彼にはその時、僕の中で起こっていた激しい内部現象なんて想像もできなかったに違いありません。
 
 放課後の教室。
 彼女と僕。
 緊張と静寂で埋め尽くされた空間。
 均衡が破られるその時。

 なによりも誠実で神聖なはずの儀式のイメージ。


 そして僕がズボンの中で纏っている小さなピンクのパンツ。


 早瀬さんの下着を身に着けたまま、彼女に告白をする。
 僕がそのヴィジョンに完全に埋め尽くされて染め上げられていく間、あっくんの悶えるような息切れの音がずっと横で続いていました。
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