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所属タレントを喰いまくってる芸能事務所社長が成立した不同意性交罪の内容を確認して安心する話

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 行きつけのホテルにあるカフェで貧乏人には一生縁がないだろう複雑な味わいのコーヒーをすすりながら、俺はタブレットのモニタから視線を外さずに独り静かに勝利の凱歌を上げていた。


 実際のところ、ホッとしたというのが正直な感想だった。
 少なくとも俺がこれまでやってきたやり方なら全然問題なさそうだなと、安堵と嗜虐的な高揚感で胸がいっぱいになった。

 見た目だけは折り紙つきな、タレント志望の若い女を堪能する愉しみ。
 自分なりに情はあるし、見込みがあればちゃんと売り出して成功させることも厭わない、可愛い奴らとの飽くなき情事。

 人生のそれなりのウェイトを占める俺のライフワークが今後も続けられそうな展望に、啜っている液体の味が普段より三割増しに美味く感じるのもしょうがないだろう。


 恐らく、空転する使命感だけは常人離れしたアンポンタンどもが雁首並べて只管ずれまくった思考を駆使して必死で創り上げたのだろう、新法はまったく予想以上に穴だらけで有名無実としかいいようがない内容だった。
 強制性の根拠として同意の有無だけにフォーカスしたアプローチなんて、きちんと注意深く悪意をもって計画的に凌辱をこなそうとしている人間にはなんらの実効性もないというのが世間とやらも立法府の人間も相変わらず想像すらできない無能ばかりらしいことを確信して内心のほくそ笑みが止みそうもない。

 実際に本人が望んでいようといなかろうと、形だけの同意を形成することなんて大して難しいことではない。
 明言することなくそれとなく、当人が心動かさざるを得ないメリットと断れない理由を用意してやれば、この業界で生きようとしているヤツらなんて、大抵NOとは言わないもんだ。
 問題はその消極的合意を後になって反故にされないよう、それなりに用意周到な準備を怠らなければそれでいいというだけ。
 どれだけその時は拒否していなかろうと、後になって「受け入れたわけではありませんでした」とか「チャンスと引き換えに身体を要求されました」だの厚顔無恥で低能丸出しのアホな主張をされないくらいに相手を信用しなけりゃ、それでいいんだ。

 その時のやり取り、会話、明言されない取引内容の共有。
 本人にとって都合の悪いものを明示的に抑えておく。
 何気ない日々の接触時にわざとらしくない程度、反復して刷り込んでおく。
 お互い、事態が明るみになったらダメージを受けざるを得ない、運命共同体だという意識を持たせる。
 「あの時お前はこういってたじゃないか」「合意が無ければとても口にできないような言葉じゃないかと思われるが?」と後になって指摘できる程度に。
 公然と追求されたときに、そう反論できうるように。
 仮に表立って争っても、そんな風に対応されうると想像させるように。
 要は本人にとって都合の悪い反論反証の可能性があることを理解させればいい。

 あとは赤裸々な行為の内容の記録。
 当人には知られることなく、二人でヤリまくったセックスの内容をちゃんと動画で撮っておく。
 体位だのオーラルの有無だの、最中のやり取りだの、合意がなければとても為しようがない行為の宝庫なんだから。
 騎乗位で自分から腰振りまくってイクイク言いながらよがりまくってたり、情熱的に知る限りのテクを惜しむことなく駆使したオーラルセックスをしたり。
 そんなアリサマを眼前に提示されてもなお、「同意がない」とか「強制性があった」だとかといった言葉をいけしゃあしゃあと吐ける人間なんて世の中にはそう多くないはずだと俺は確信している。
 確か司法の場で「強姦」か否かを判断される際にもその辺の、実際のプレイの内容が精査されたはず。
 無理矢理じゃないとできない行為、合意がないとできない行為がそれなりに考慮されてる……らしい。(顧問弁護士からの説明をうろ覚えで思い出す限りでは)
 
 例え最初にどれだけ消極的で、嫌々だったとしても、一度関係ができちまえばセックスなんて自然と受け入れ合うものである。
 何故なら誰しも「元を取りたい」という欲求があるから。
 せっかくしちゃったんだから無駄にしたくない、せめて何かしらのメリットを獲得できなくちゃ損だと思うのだ。
 どうせ関係ができた事実は消しようがないから、金銭なり肉体的快感なり、精神的満足なりを得ようと貪欲に油断なく画策するのが生物の本能なのだから。
 だからそんな都合の悪い事実のオンパレードであるセックスの詳細なプレイ内容をきちんと押さえておけば、後々になってギャーギャー騒がれても動画の存在を仄めかすだけで首を絞められた鶏みたいに一瞬で沈黙するのが目に浮かぶようである。


 と、そんな風に俺は常々考えて、それなりに注意を払って行動しているわけだ。
 他にも相手の年齢的な問題、性合意年齢だとか、自治体の条例だとかに留意して備えたり、まあできることはすべてやってるつもりではあった。(近頃はこの辺の知識も碌に持たずに未成年というだけでギャーギャー喚くアホも多いらしいけど)
 幸いというか、残念ながらというか、今のところ実際に騒がれたり訴えられたりといった事態に襲われることは無く、平和に過ごしてこれたのだが。
 少なくとも現状、これまでそうして喰ってきた奴らの内で、誰も不幸そうなツラをしているのは見当たらない。
 当人が満足する程度に金なり、チャンスなり、権限なりを惜しむことなく与えてきた自負があるし。
 実際内心の本音がどうかは知らんけど、表向き(俺を前にしているとき)には今現在進行形の、あるいはかつての恋人じゃないセックスパートナー、「それなりに卑怯でずるいやり方で拒否したい気持ちがなかったわけではないけれど、結局は受け入れてしまった権力者」という体(てい)で落ち着いているんじゃないかというのが俺の率直な感想である。
 例えば俺が死んだり、行方不明になったりして反論反証される可能性がほとんどなくなったような状況に陥らない限り、彼女たちの反乱反抗が燎原の火の如く巻き起こることはなさそうだ。(自分が死んだ後ならどうなってもいいし)


 だからまあ、従来の強姦に該当するような明らかに無理矢理なやり方以外であの新法とやらに引っかかるのはよっぽどの間抜け、何らの備えも用意もしていないアホだけだろうと確信せざるをえない。
 自覚的に性行為を望まぬ相手にやらせようとする人間、意図的に凌辱行為を行う本当の悪人ならまったく残さないようなものを残し、抑えなくてはいけないものをすべて取りこぼしているような、当人に簒奪者たる意識が全くない、無自覚の何者か。
 もしかしたら、よっぽど頭の中がお花畑で、純粋な恋愛関係だとでも思い込んでいるようなケース、相手も心から自分を受け入れてくれている、確固とした信頼関係が存在するはずだとか、救いようがない愚かな勘違いをセックスしようとする相手に抱いているようなヤツがいたら、後々「合意が無かった」とか騒がれて追い詰められる可能性はありそうだけれども。

 でもそんなドン・キホーテもかくやという度し難い人間がこの世のどこかにいる、それなりに社会的成功を収めて権限も経済力も持ち合わせた存在がそんな状態に陥ることがありうるなんてとても思えない。
 まさかそんなどうしようもないバカなんているはずがないから、やっぱりこの不同意性交罪とやらは有名無実か、本来の意図から全然外れたどこかのマヌケを摘発するだけのしょぼい法律だろうなと、人生の勝利者たる俺は座り心地が抜群でフカフカのソファーに収まりながら独りごちたのだった。







 了
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