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花を生ける
しおりを挟む生け花の本質とはその名の通り花を生かすことに他ならない。
天然自然にあるがままのものに干渉して別の存在へと昇華させる。
ただあるものを愛でる、消費するのではなく。
自らの手を加えて新たな価値を生むことがその要諦である。
そしてその価値とは誰に向けてのものかといえば見る者である。
鑑賞者である。
己という初めの鑑賞者を通じてその先にあるはずの幾多の顔も知れない鑑賞者達に向けて。
価値を生む。
匂い、形、揺らぎ、流れと佇みを通じて心の振動を齎す。
生けた花を通じて情感の震えという心的作用を与えることが唯一で至高の目的。
それはひどく胡乱で奥ゆかしい間接的な対話に他ならない。
それを読み取るコードを持つ者だけに向けた控えめで隠喩に富んだ囁くような主張。
だからこそ激しい反応を齎しうるのだ。
秘され隠されているからこそ認識された瞬間に齎される強烈な絶頂感。
難解でわかり辛いからこそ劇的な理解の開闢に恍惚を得る。
一見、非効率で遠まわしな方法であるが故に高次元の心の作用がそこには生まれるのだ。
その遥かなる高みを目指して。
花を生ける。
しなやかな括れを狂おしく捩った細い茎を持ち。
本能的な衝動のままに一気に突き刺す。
カタストロフ。
己の中にある攻撃的な欲求が刺激される。
愛しく美しいものを傷つける。
己の目的のために気ままに手折る。
その情感が冷めぬうちに伸びた枝を奪ってしまう。
ただ一点、最もその存在を象徴するものだけが映えるように余計なものは全て取り払う。
寄る辺もなく守り覆うものもない。
孤高の気高さ。
心もとなくも凛とした佇まいが生まれる。
気品と威厳。
空間に燦然と輝く花一輪。
瑞々しい花弁が必死で重なり隠すそこに。
控えめに除く艶やかな花芯。
その機能をありありと想起させる突起状器官。
生命そのままの形の美しさ。
蜜をたっぷりと含んで露出した内臓。
奇怪で異形の蠱惑的な妖艶。
むせ返るような生々しい匂い。
妖しく淫ら。
いやらしさと麗しさ、対立する二つの概念が融合し。
この宇宙に新たな存在が誕生した。
これまでにもこれからも同じものは二つとない高次の伝達媒体。
その出来に満足をする。
最初の鑑賞者の愉悦。
同じ感動を、衝動を他の人間が共有するだろうという確信犯的な恍惚。
己の生み出した美しい被造物。
見せびらかしたい欲求を抑えることなど出来ない愛しい愛娘。
生け花の本質とはその名の通り花を生かすことに他ならない。
今日も生かして新たな価値を創る。
この暗号を解読したものだけが受けるであろう開闢の衝撃を想像して嗤う。
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