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そんなつもり無かったのに思わず惚れちゃった的な話
しおりを挟むそんなにアタシって気持ちいいの?
全身汗みどろ。
真っ赤に染めた頬で喘ぐようにしながら言われたときに完全にヤられてしまった。
レトロでチープな表現だろうけど、つまりはどきゅんと胸を打ちぬかれてしまった。
それだけ破壊力のある一撃だった。
こうなるまでの盛り上がりとか、顔とか性格とかエスプリの効いたセンスのいいやり取りとかのあらゆるポジティブな印象を全部ひっくるめた上っ面の想いがはるか彼方へすっ飛んでしまう。
物理的に「ぶすっ」と繋がるまでの間に構築したものが如何に浅はかで表面だけのものだったかを痛感してしまう。
これ以上無いほどの痴態を散々見せてしまって、もはや気取った態度をとったところで滑稽でしかないはずなのに。
なんとも無防備で情けない、究極的にはしたなくて恥ずかしい無様な姿を今正にすぐ目の前で晒している真っ最中なのに。
生理的反応に翻弄されるまま、息も絶え絶えにやっと発された声に含まれたもの。
何故か勝ち誇った響き。
本来は完全にミスマッチでしかないはずの、その得意げで上からの物言いと如何にも気取った高飛車な振る舞いが凄まじい完成度で彼女を上位の存在へと昇華していた。
明らかにそれまでよりも強く美しい生物に遷移させていた。
もしかしたら特に意図したものでなく、なんとなくノリで言ってみただけなのかもしれない。
たぶんそうなんだろう。
別に彼女自身はどこも変わってなどいないし、ついさっきまでただの手ごろで美味しそうな「獲物」だったものと同じ存在でしかない。
きっとただの「流れ」でそうしただけなのだ。
意味も理由もない、条件反射的なものでしかなかったのだ。
でもそれが齎した効果は絶大だった。
こちらにとって目的であり結果でしかないものを、手段であり始まりなのだと思い込ませて確信させるだけの凄まじい威力があった。
無から有へと価値を反転させるだけの馬鹿馬鹿しいほど強烈なポテンシャルを発揮していた。
なんにしろそう感じてしまった時点で自分はもう白旗を挙げることしかできない。
どちらが主でどちらが従か、支配と隷従の定義付けは今ここに明確に為されてしまった。
たとえあからさまに表立ってそう見えなくとも、互いの関係性が続く上での絶対的な基本構造として敷設されてしまったのだ。
これから後はただひたすら必死でご機嫌を取って想いを捧げることしかできない。
もはや嫌われないための努力と想ってもらうための献身をすることしかできず、少しでも報いられたならご褒美を貰った忠犬のようにぶんぶんと尻尾を振って無邪気に悦んでみせることしかできない哀れな生物へと己は落ちぶれてしまったのだ。
つまりそれは彼女の圧倒的勝利の瞬間だった。
了
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