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パンツの上に短パンを二重履きしていたJKが何かに目覚める話

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 あのヒトたち、相変わらず下着の上に重ね履きしてないみたい。
 スカートあんなに短いのに。
 信じられないよね。


 溢れんばかりの軽蔑と苛立ちを含んだ声で委員長は言った。
 彼女の視線の先には校則違反スレスレに髪を脱色して制服を着崩した、派手目で色っぽい感じのクラスメートの姿。
 通称、ギャル子を見る委員長の目はどこまでも冷たい。


 どういう神経してるんだろうね。


 改めてそう同意を促された私の脳裏に、今クラスの女子を二分している思想的対立状況がまざまざと思い浮ぶ。
 片一方の陣営の急先鋒であり象徴たる彼女の表情と言動を直接間近で浴びることで喚起される実感と臨場感。

 思わず、机の下で内股気味にしていた両足をこすり合わせるようにもじつかせてしまう。

 いつからだろうか。
 下着の上に短パンを重ねて履くか否かということがこうまで問題化してしまったのは。

 高校に入学して新しいクラスが出来上がったばかりの頃は全然そんな感じはなかった。
 気が合う同士でグループが形成されつつ、それなりに仲良くやってたように思う。

 制服の着こなしとかも、最初の方は全然違いなんかなかったし。

 それが徐々に学校生活に慣れてきて順応し始めると、人それぞれの個性が出てくる。
 内面のそれと同時に見た目、姿形、ファッションに現れ始めてくる。

 「制服」っていう基本的には画一的なものだからこそ、僅かに許される範囲で限界までおしゃれを追求しようとするのは男女問わず本能みたいなものなんだろう。
 特に女の子にとっては重要度の高い切実な問題ではあるんだと思う。

 だからスカートの長さも、ミニにするとか逆に膝丈より長くしてみるとか、いろいろコーデを考えて自分に合ったスタイルを確立しようというのも特に珍しくもないありふれたことではあったんだろうけど。

 何故か私達のクラスでは「パンツを二重履きするかしないか」だけが意識されていったんだ。

 たぶん、原因の一つに委員長とギャル子という二人の存在があったことは間違いない。
 見た目とか性格とか価値観の方向性とかに共通性がほとんど無い彼女達が互いに悪感情を向け合い対立することはしかたがないことだった。
 委員長は傍から聞いててもちょっと厳しすぎるくらいギャル子に当たりが強かったし。
 ギャル子はギャル子でそんな委員長に対して鼻で笑うような、小馬鹿にするような態度を隠すこともしなかったし。

 だから元々はそんな個人的対立が根っこにあって、彼女達の違いがわかりやすく出ている、ある程度客観的に認識可能でかつ攻撃の対象にしやすい部分だったからどんどんそこに焦点が当たってしまったのかもしれない。

 まあ当たり前に考えたらパンツが見えることは恥ずかしいし、良くないことなのは明らかだ。
 自分からそういうのを見せつけかねない格好をするなんて、エロくていやらしいって思われるのは当然のことだとは思う。

 私もスカートを短くするなら紺パンみたいなヤツで二重履きした方がいいんだろうなとは思っていた。
 実際にずっとそうしていたし。
 ファッションとしてミニにはしたいけど、やっぱりパンツがそのまま見えちゃうのは抵抗があった。

 親とか先生とか周りの人の目とか、世の中の倫理とか道徳とか、そういう感じのものに照らし合わせても大義名分は明らかそうだし。
 そんなに難しく考えるまでもなく、何の対策もせずにパンツを見られかねない格好をするのは褒められたことじゃないっていうのは、まあ当たり前で常識的な感覚ではある。

 だからこそ委員長もそういう正義感みたいな、自分は間違ってないっていう想いが先走りがちにもなっちゃったんだと思う。
 一度そこが気になり始めた彼女はもう止まらなくなっていた。
 自分と同じ、二重履きしている子を相手にその想いを露にし始める。
 もちろんギャル子以外にも二重履きしない女の子はいたから、委員長はそういう人達にも態度と言動を明らかにしていく。
 うるさく言われた子達は自然とギャル子に近づいていく。
 さらには恋愛関係のもつれとか、誰それがお金を返してくれないとか、成績が良いとか悪いとかそんなものまで含んでアッチ側コッチ側といった風に心理的帰属意識が定まっていく。

 そうして元々内在していた他の人間関係の問題、好き嫌いとかの個人的感情の対立とか利害関係とかをどんどん巻き込みながら二つの集団は形成されたいったんだ。

 パンツ二重履きしないとダメっていうグループと。
 そんなの別にいいじゃんっていうグループに。

 今や、完全に二つに分かれて拮抗している状態になっていた。
 我がクラスの女子は皆、パンツを二重履きするか否かで自分の旗色を明らかにせざるを得ない状況だったのだ。
 世界史で習ったばかりの皇帝派と教皇派みたいに。

 私は何席か向こうの、距離を置いて取り巻きといるギャル子の方を伺う。
 こちらで噂されてることが耳に届いたんだろう、委員長の方に視線をむけてフフンッて感じで嗤う大きな二重の瞳。
 掘りの深い整った顔にうっすらと浮かぶ大人びたメイクが異様に似合ってる。

 他にもいろいろあるんだろうけど、その美貌もまた委員長が感情を昂ぶらせる理由の一つなのは間違いない。

 そして椅子に浅く腰掛けて、脚を組んだポージング。
 見えるか見えないかまでめくれ上がったスカート。
 もう少しで見えちゃいそうだけど、ギリギリで見えないその姿。

 この頃私は彼女の「見せない」努力がわかりつつあった。
 ちょっと注意力を持ってみれば、あの手この手で下着が見えないようにあらゆる工夫をしているのは明らかだった。
 そして私はそんな彼女の姿勢が全く意味不明だったんだ。
 見せないように気を使ってるくらいなら、最初から二重履きすればいいのにと。
 なんでわざわざそんな意味の無いことをするんだろうなと。

 でももしかしたら、その一見不合理で不条理としか思えないものにこそ意味があるのかもしれない。
 あえて見えかねない状態でそれを見せないよう努めることでしか成立しない何かがあるのかもしれない。

 委員長の感情の昂ぶりと態度が激しさを増すほど、逆に冷静に客観的にギャル子を観察する余裕が出てきた私は、いつしかそんな気持を抱くようになっていた。


 なにアレ……。
 感じ悪くない?


 ギャル子の応酬に委員長が激情を無理やり抑えるような響きで言った。
 その声は私の中に浮かんだ「必ずしも一方的にダメってわけでもないんじゃないかな?」、「私達が思ってたほど単純なものではないんかも」という言葉を口に出させないだけの迫力に満ち溢れていた。
 だから変わりに出てきたのはまったく当たり障りのない返事。


 ……そうだね。


 私は昨日までと違う心許なさをスカートの下で感じながらそう答えた。
 彼女に今の状態がバれてしまうことを想像して沸き起こる、凄まじい後ろめたさとワケのわからない高揚感。

 それに比べれば、道行くサラリーマンとか、クラスの男子とか、ちょっとイイナと思ってるあの人に見られるかもしれないっていう不安なんて大したことなかった。





 了
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