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イケメンが地味系女子にムラムラする話

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 何処で買ったんだ?っていう重苦しくてダサいメガネとひとまとめにしただけのひっつめ髪。
 メイクの仕方も碌に知らない、常に起き抜けのような薄ぼんやりとした顔。
 カーキとか茶とか暗色系の色使いだけのコーデというのも憚るようなファッションセンス。


 地味と野暮という言葉を体現したようなその女は明らかにオレの趣味ではないはずだった。


 ガキの時から見た目にも社交性にも恵まれていたから、付き合う相手に困ったことなんてない。
 常に選ぶ方で選ばれる側になったことが無ければ、自然と選り好みをするようになる。
 だからオレの隣にいるのは常に見栄えのする女だけ。
 キレイ系でも可愛い系でも、ゆるふわ、モード、裏原、キレカジ、セレカジにギャル系どんなタイプであろうとも。

 とにかくそこだけは妥協したことがない。
 最低ラインの条件がそれ。

 その上で性格の良し悪しとか趣味や話が合うとか、金銭的に都合がいいとか身体の相性とかいろいろ出てくるけど。

 オレにとって付き合う女っていうのはまず見た目が良いことが絶対的な条件だった。

 だから偶々飲み会で一緒になったソイツを送ってやろうと思ったのもほんの気まぐれ、単にこれまで全然関わりを持たなかったタイプの存在にちょっとした興味が沸いただけ。
 遊び仲間の一人がたまには毛色の違うコ達とも楽しんでみようぜって持ってきた、お堅い会社の研究職とかいう女達とのセッティング。
 ある程度覚悟はしてたけど、案の定オレの目利きに叶う女なんて一人もいなかった。
 だからもうネタとして楽しもうと隣に座ってたヤツに話しかけてやった。
 適当に時間を潰せりゃいいやって感じで、相手が女であれば誰に対しても無意識にする人懐っこい警戒感を持たせない顔を造って笑いかけてやったんだ。

 そしたらビクッと大きく一瞬震えて、「えっ、私?」って自分を指差すその反応。
 見るからにガチガチで挙動不審。

 いいおもちゃを見つけたような気分になったから、時間つぶしはコイツでいいやって決めた。

 そしてその目的は最大限に達せられ、明らかに男なれしてないオドオドキョドキョド、ぼそぼそつっかえながら話すその様子をたっぷりと堪能させてくれた。
 こちらの理解度を全く考慮しないでずらずらと言葉を並べていく、相手の反応を確認しない、会話の仕方をわかってないヤツの話し方。
 聞かれたことに必死で応えようとするけど、全然要領を得ない。
 でもどれだけワケがわからなくても、全然興味が無かったとしてもオレはにこやかで穏やかな態度を崩さない。
 完璧なタイミングで相槌をうって先を促しつづけてやる。
 酒をついで、適当に食い物を廻してやる。

 これはもうオレの本能だった。
 誰であれ相手が女であればとってしまうある種の擬態、無意識の臨戦体勢。
 付き合う付き合わないとか美人かそうじゃないかとかそれ以前の。
 最も根深いところにある本質的な行動。
 やらずにはいられない、業のような。

 そうして飲み会が終わる頃には、その女なりにオレに打ち解け始めているのを確信してちょっとした達成感みたいなものに包まれたから、駅まで送ってやるくらいはしてもいいかって気持になった。
 別にだからどうこうというのは無かったけど、ひと時の座興を楽しませてくれたお礼みたいな程度のつもりで。

 夜の公園を歩きながら、気まずくならないように言葉を投げてやる。
 相変わらず硬いけど、それなりに反応を返してくる。
 少し慣れてきたらしく、ちょっと会話になりつつあるのがなんだか可笑しかった。
 
 それで後5分も歩けば駅前に出て、はい終わりって筈だった。
 別に興味なんてこれっポッチも無い女を気まぐれでやさしくしてやって、軽くほろ酔い良い気分のまま家に帰ればもうそれっきり。
 本来は交わりようが無い、イレギュラーみたいな一瞬の関係性が記憶の片隅にも残らないで胡散霧消していく。
 ただそれだけの筈だったのだが。


 あうぅっ!


 いきなり情けない声を上げたかと思ったら、両手を胸に抱くように握り締めて飛び退(すさ)る。
 こっちを見る真っ赤な顔、怯えた瞳、慄く唇。
 あまりにも必死なその様子。

 歩くのにあわせて何ら意識することなく緩やかに振っていた腕の先、手の甲が微かに触れたことへの反応なのだと一瞬わからなかった。
 オレにとってどうってこともない、接触というのも馬鹿らしいほどありふれた、好意も嫌悪も昂ぶりも落ち込みも一切の感情とは無縁の何ら意味の無い筈のそれが呼び起こした行動だなんてとても信じられない。
 

 ナンダコイツ。
 いくら何でも酷すぎだろ。
 男に免疫ないにも程がある。
 これが喪女ってヤツ?

 そう頭に思い浮かんだ言葉に見合った感情に包まれるはずだったのに。 
 ぜんぜんタイプじゃないはずのソイツが見せた、オレにとってはまったく未知の反応を見た瞬間。


 何故か、凄まじくむらっときた。


 これまでこんな態度を取られたことなんかなかったオレにとって、新鮮で目新しいだけだったのかもしれない。
 警戒心を持たれて怯えられるなんてほとんどなかったからこそ感じた、物珍しさが妙に印象的だっただけかもしれない。

 だけどその時、認識した瞬間に自分の奥深くで発生した強烈で激しく、逆らい難いもの。
 竦んだ肩の華奢さとか、浮き出た鎖骨の感じとか、頼りなくて情けない如何にもな表情とか、とにかくソイツの全てから溢れ出てオレを満たし訴えてくるもの。

 それまで見てきたキレイで可愛い女達のあられもなくはしたないどんな痴態にも勝っていた。
 数え切れないほど経験してきた赤裸々で直接的な、あらゆるアブノーマルな行為でも感じたことの無い鮮烈で衝撃的な感覚。

 どこまでもやさしく守り愛でながら、徹底的に汚して壊したいような。
 庇護欲と嗜虐心、相反するものが複雑に入り混じった力強いうねり。


 その瞬間、全く対象外だったはずのソイツはオレにとって何よりも官能的で性衝動を喚起する存在に他ならなかった。


 そんな自分の内部現象を一切漏れ出さずに、冗談めかしておどけながら笑いかけてやる。
 傍目には全く変わらないであろうオレが展開した技術と経験に裏打ちされた実績あるスマートなやり方は存分に効果を発揮して、すぐに落ち着かせることに成功した。
 そして何事もなかったかのように再開された駅へと向かう歩み。

 
 ただ、オレの中では連絡先を別れ際に聞き出すことが決定されていた。
 既にはっきりと目覚めて脈動を始めた、自分の存在そのものの衝動に逆らうことなんてできるはずがなかった。
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