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ヤリチン男が元カノの結婚式をゲスな気持で楽しむ話
しおりを挟むこれでもかと雰囲気たっぷりに仰々しいパイプオルガンの音と賛美歌が響く西洋風の教会を模した空間。
十字架のある祭壇、その前に真っ直ぐ入り口へと続くバージンロード。
両サイドに並ぶ会衆席。
わざとらしいくらいに「神聖」で「厳か」、そういう場所だと押し付けがましいほどに主張しているごてごてした内装。
そのどこまでも「作り物」めいたニセモノ感。
どこかの誰か、ホテルの関係者とか職人が必死でかんばって心を尽くして作り上げた努力と思いやりの賜物なんだろうけど。
そんな提供者の気持や想いなどとは関係なくどうしても感じてしまう虚飾じみた嘘臭さ。
ホスト役の神父やその補助らしい修道女みたいな格好の従業員達の生真面目な表情と、自分の周りを囲む参列者一同の神妙な顔つきを見て、思わずフフンと心の中で嘲笑(わら)ってしまう。
気分だしてんなぁ……。
どこまでも茶番めいている。
参加者が真剣にやればやるほど演じ気味な感じが増して余計に滑稽な印象を助長してしまう。
ほんっと、くだらねぇ……。
俺はかつて付き合っていた女の結婚式に参加してしまったことを早くも後悔しきっていた。
別に特別な思い入れがあったわけでもない、その時は顔と身体が悪くなかったから持て余していた悶々を解消するのに丁度良かったというだけの理由で使ってやってたくらいの印象の女。
さんざんヤリまくって飽きが来たころに、向こうから「他に好きな人ができたから別れたい」って切り出してきた時には寧ろ「ラッキー」くらいに想ったものだった。
なんて手間がかからない便利なヤツなんだろうと、その瞬間にだけはいじましいような可愛げを感じたのを覚えている。
そんな穏当な別れ方をしたからか、その後も女の方から連絡をしてきてはたまに会うような関係が続いていた。
向こうからしてみたら俺を友達以上カレシ未満みたいな相手だとでも想ってたのかもしれない。
そのときのカレシの愚痴だの、別れた話だの一方的にしてきては無防備に身体を委ねてくる。
「ハイハイ」と調子を合わせて聞いてるフリをするだけで、その都度バッコンバッコンやらせてくれる。
後腐れとか関係がもつれるとか一切無縁の都合のいい女。
本人はそれなりに盛り上がってたみたいだけど。
「恋多き女」みたいな ヒロイニズムにでも浸ってたみてーだけど。
俺からしたら「ただのヤリマン」以外の何者でもなかった。
頭がパーだけど見てくれは悪くないから、次から次に付き合う相手を変えてはパコパコ励んで、つまらない理由で別れては俺の性欲の捌け口になる。
典型的な馬鹿女。
だからこそ関係が完全に断ち切れることなくダラダラと続いたんだと想う。
特に大切に思ってもないから重荷にはならないし、使い道が無いわけでもないから便利なことは確かだったし。
気がつけば数ある知り合いの中で、付き合いの長さだけは一番の古株の一人になっていた。
傍からみたら親友みたいな関係にでも見えていたのかも知れない。
何でも言い合える、身体も心も知り尽くしている家族みたいな。
そして当人もすっかりその気になっていたのが、こうしてテメーの結婚式の招待状を俺に送ってきたことから完全に証明されたわけだが。
最初はもちろん「欠席」にマルつけて“御”の字に二重線引いて送り返すつもりだった。
正直、どうでもよかったし面倒臭かったから適当に電報でも送ればイイヤみたいな気持ちでしかなかった。
でもその何処までも能天気でお気楽、お花畑な脳みその中身を想像して嗤うと同時に、妙な好奇心みたいなものがムラムラと湧き上がってきた。
さんざん弄んでおもちゃにした女、穴という穴を犯しまくってもしかしたら旦那とも一生しないような卑猥で汚らしくて気持良いことをイヤって程愉しませてくれたヤツがどのツラ下げてバージンロードを歩いているのか。
「神様」とやらの前でどんな神妙な態度で「誓い」とやらをしでかしてくれるのか。
想像したら笑えてきた。
なんだか面白可笑しいワクワクした気分になった。
これが旦那とセットならもっとスゲー楽しいワラえる感じになるんじゃねーの?
夫婦揃って馬鹿ヅラ晒してるところを見学するのも悪くねーかもな。
参列してみるつもりになった原動力はただそれだけ。
そんな心底から軽蔑しきって小馬鹿にした冷笑的な気持を小さくするどころかますます昂ぶらせていく一方のサムい演出が延々とどこまで続くのかうんざりし始めた頃。
この程度の理由でわざわざこうして出張ってきた自分の馬鹿馬鹿しさにやっと嫌気が差して後悔し始めてきたときに、とうとう主役がやってきた。
まずは新郎。
決して整っているとは言い難い、野暮ったいツラ。
身体つきも胴長短足でずんぐりむっくり。
まぁ、ブサ男とまではいかないかもしれないけど、カッコいいとかイケテルなんて言葉とは縁遠い人生だったのは一目でわかる。
強いて褒める表現を見つけるとしたら、「真面目そう」とか「誠実そう」みたいな言葉が一番しっくりくる感じ。
要はつまらなそうなヤツ。
招待状で確認した写真で大体の雰囲気はわかっていたけど、改めて実物を見て安堵と優越感に浸る。
少なからず見た目は俺の方が圧倒的に上。
女だったら十人中十人がそう判断するだろう。
収入も大したことないらしいし、中身も全然負ける気がしない。
祭壇の前、神父のすぐ横に到着したソイツをじっくりと足元から頭のてっぺんまで値踏みするように確認してそう想った。
「着られてる」感200パーセントのタキシード姿と恐らく本人は引き締めているつもりなんだろう変に強張った不恰好なツラの組み合わせに込み上げてくる愉悦。
どこまでも見下して軽蔑した想い。
見苦しくてくだらない無様なものを前にして、自分がそうじゃないことを確認できる快感。
俺はやっとわざわざ足をこうして運んだ苦労が報われたような気がした。
ここまでかけた時間と金、身体の運動量を少しは取り返したような気分になった。
そしてそれは花嫁が登場したときにいよいよ最高潮に向かっていく。
真っ白いドレスにヴェール。
父親らしい男の腕に手を添えて静々と歩を進めている、細身の女。
遠目にはあまりにも神妙な顔つきと雰囲気で自分の中のイメージと合わなかったけど、すぐ前を歩いていく横顔は確かに俺が知るアイツのもの。
普段はもっと派手目で華やかな印象なのを、今は落ち着いたメイクで綺麗に纏めている。
マァ、元々の素材は悪くないから、十分に見られる感じにはなってる。
世間並みにみれば明らかに水準以上、中の上から上の下は確実の素敵な花嫁ってとこなんだろうが。
まずはその親父とセットの様子に笑いがこみ上げてきた。
アレがヤリマン女を育てたオヤジのツラかよ。
アンタが嫁さんを孕ませて産ませて、必死な思いで面倒見てきたんだろう娘はすげー淫乱に育っちゃったね。
お陰で俺はチョー楽しませてもらっちゃった。
一応お礼を言っとくわ。
ありがと~。
んで、おめでと~。
中堅企業の管理職をやってるらしい、加齢臭が見るからに漂ってるようなオッサンが早くも感極まったように目を赤くして花嫁をエスコートしていく背中にとりあえずそう心の声を投げてやった。
まるでその俺の言葉が届いたようなタイミングで神父と新郎の前に着き、花嫁を置いて下がっていく。
そして朗々と響き始める神父の戯言。
これまでも別の場所で散々聞いてきたいつもの文句の数々。
もしかしたら微妙に違っていたり、場合によったら全然違ってるのかもしれないけど、全く同じにしか聞こえない例のアレコレが済んだら。
ああいよいよだ。
やっとここまできた。
指輪の交換。
一点の染みも無い真っ白な手袋から出てきた、華奢な手をとる新郎。
ガッチガチに緊張しているのが傍目にも明らかな様子でゆっくりと壊れ物を扱うような手つきで捧げ持つ。
ああ、あの手。
細くて長いしなやかなあの指と掌で一体何を握らせて触らせてきたのか。
たぶん俺のナニをしこらせた回数は何百回じゃきかないかもしれない。
アイツ自身の卑猥な場所をさんざん自分で弄らせたのも、どんだけやらせたのか覚えてない。
それが今。
何よりも神聖で犯すべからざるような扱いを受けて。
男と女が持ちうる唯一絶対の契約の証を、その環状の象徴を。
とうとう嵌め込みやがった。
あっはっは。
いやー、スゲーなこのなんともいえない気持。
「ほんとにいいの?」って感じ。
後は誓いのキスか。
ヴェールが上げられると、じっと互いに見つめあう新郎新婦。
うーん、気分だしてるよなぁ。
もう単純にスゲーわ、お前ら。
尊敬するしかねえわ。
だって今正にキスしようとしてるその口でナニをしてきたかわかってんの?
ナニをくわえ込んでぺろぺろ舐めて、含まさせられて飲まされたのか。
どんだけエロくていやらしい言葉の数々を繰り返してきたのか。
少なくとも女の方はちゃんと覚えてるんだよなぁ?
それとも綺麗さっぱり無かったことにしちゃってんの?
俺なんか、今この瞬間もあの感触がまざまざと蘇ってきちゃってるのに。
それが……、あー。
いった。
やりやがった。
ちゅーしちゃったよ。
自分にとっては猥褻で淫らな肉欲の象徴そのものの場所を使った、最も神聖で崇高なはずの儀式の結末をしっかりとこの目に焼き付けた。
パッと見はとても感動的な光景に見えたからこそ、よけいに激しく燃え昂ぶる黒い愉悦。
破壊衝動と支配欲が一気に極限まで満たされるような嗜虐的な快感。
他人の心を、魂を思い切り踏みにじって汚して犯してやったような征服感。
肉体のそれを遥かに凌駕する確かな絶頂の感覚。
精神と魂の波動のピーク。
どこまでも高く強い波が刹那の感覚で何度も何度も繰り返されていく。
俺は僅かにもその陶酔が漏れ出ぬようひたすら努めた。
一度だけぶるりと全身を震わせることで何とか持ちこたえることができるような有様だった。
………
俺にとって今回のこの「イベント」であり「見世物」である催しのクライマックスは完全にその時点で終了していた。
その後のフラワーシャワーだのブーケトスだの記念撮影だの、披露宴に移ってからのアホ丸出しのデカさのケーキ入刀だのキャンドルサービスだのメモリアル上映だのお涙頂戴のお手紙読み上げだの、気が遠くなるほど長々と続いたのがさほど苦痛に感じなくて耐えられたのも、全てはあの凄まじい絶頂感の賜物だった。
これ以上無いほどに目的を達成した満足感と心地よさの余韻に包まれていたから、もはや何でも許してやれる気分になっていたのだ。
もう何も無い。
このときこの場所で自分が得られるものは全て堪能したし、貪りつくした。
後はこのまま最後にこれ以上無い笑顔でアイツラに心からの「おめでとう」を告げてやればそれでおしまい。
一点の欠落もなく完璧に楽しんでやった素敵な思い出になるだけ。
会場の出口で出席者一人一人に声をかけている新郎新婦の前に、そんな心積もりで赴いた俺は想定通りの一番の笑顔で笑いかけようとした。
とびっきりの素敵な笑みで、この愉快な二匹のツガイをせいぜい祝福してやろうとした。
でも俺のその完璧なプランが実行に移されることはなかった。
そうできなかった理由はこうして一人、自分の部屋に戻ってきた今も良くわからない。
見た目だけは完璧な、それでいて心の中では徹底的に馬鹿にして侮蔑した想いで彩られた会心の笑顔を打ち消したのはたぶん、花嫁であるアイツの顔。
そして声。
ありがとう。
ほんとに、ほんとにありがとうね。
私、幸せになるから。
凄まじく馬鹿馬鹿しいと想った。
心底、くだらないと感じた。
なんの意味もない、低脳で自己陶酔だけのさもしい価値観だと確信していた。
でも何故か俺の顔に貼り付けられた仮面を剥ぎ落としてしまう、何かがそこにはあった。
それがあらゆる表情を消して能面のようにさせ、途切れ途切れで覚束ないとってつけたような返事を返すことしかさせなかった。
結局、それまでの浮かれて楽しい、陰湿で淫らな高揚感とか満足感とかは全部ご破算になってしまった。
変わりに俺の心中を満たすのは、ぽっかりと穴が空いたような喪失感。
一人追いていかれたような孤独。
言いようも無い敗北感のような。
何故、俺がこんな気持を抱いているのか。
抱かされなくちゃいけないのか。
未だによくわからない。
どう考えてもあの女に未練があるわけでもないし、新郎のアイツに負い目とか引け目を感じる要因なんてどこにも思い当たらない。
あの手のヤツラを見下して馬鹿にしている気持は全然変わってないし、自分がああなりたいとは微塵も思っていない。
羨ましいとかこれっぽっちも無いし。
ひたすら不可解でまったくの謎。
ただ、一生かかっても俺には理解できないものなのかもしれないというのはなんとなくわかった。
了
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