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もうどうにでもなれ

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薬品の匂いがした。


ここはどこだ…


地獄は薬品の匂いがするのか?

くそっ体が動かせない…


ふぅ、動かせないなら仕方ない。

目も開かないほど血が流れてしまったのか?


するとお腹がなってしまった。


お腹すいたなぁ。死んでもお腹がすく感覚があるなんて意外だったな。

地獄ではなにが食べられるんだろ…

お肉あるかな?

やっぱり最後にお肉食べたかったなぁ。


トンカツ、カツ丼、カツカレー、いや牛丼もいいな…唐揚げもすてがたい…

なんでもいいな…お肉食べたい…




「あれ?起きてる?」



っ!人が、いたのか?

きづかなかった…そんなに疲れているのか自分は


「起きてるんだよね?体動かせる?」


こんなに優しく話しかけられたのは、久しぶり…いや初めてかもしれない。

親の記憶はほとんどないし、どこのマフィアも当たりが強かった。



「大丈夫、何もしないよ」


まぁ、もう死んだ身だ。どうなろうとどいでもいい


無意識に警戒し強ばっていた体から力を抜く。


そうしたら、自然に目が開くようになった



「あ、目開けれる?ちゃんと見えてる?」



視界は良好のようだ。

目の前で手をふる男を見る。


「初めまして、僕はりつ。医者だよ」


医者?え、生き残ったのか?


「あ、まあ医者って言っても免許はもうないんだけどねー」


あははと呑気に笑うその男、律からは親しみやすさが空気から伝わってくる。


刺された腹を確認する。

そっと動くようになった腕で腹を触る。

すると包帯が巻かれておりちゃんと治療されてある。

グッと押さえるとわずかだが鈍い痛みが感じられた。


「こらこら。傷口が開くようなことをしちゃだめ。あ、まだ痛みはあまりないでしょ?麻酔が残ってるからね。しばらくは安静にしていなね」   


安静…


自分はこの人の捕虜にでもなったのだろうか。


すると、ぐぅぅとこの場に相応しくない音がなる


「ぷっお腹すいてたの?」


仕方ないだろう、あれからお昼のお肉も食べ損ない夕食も食べれず腹が空いているんだ。


それに自分は燃費が悪いんだよ。

自分が拗ねたことがわかったのか、律は慌ててごめんと言ってくる。


「ご飯持ってくるね。だからこの部屋からでて逃げ出そうなんて考えないこと。殺されちゃうからね」


なんて物騒なことを言い残し律は部屋から出ていった。



よいしょ、と年寄りみたいな言葉が口から出たが重たく感じる体を無理やり起こした。

今着ている服は手術服みたいなやつでそれなりに動きやすい。


部屋を見渡すと、医務室のようで薬棚やベットが2つ並べられている。

うーん…


武器になりそうなものが1つもない。

これは確実にあっちも警戒してるな…


外が見える窓もないし、壁に耳を当てても外の音は聞こえない。

誰もいないのか、潜んで監視しているのか…


しかしこの部屋には監視カメラがあるような感じもしない。

さて、どうするべきか


すると、コンコンと扉をノックされる。


自然と体が隠れるように動いてしまう。


「あれ?いない…えー、逃げちゃったの?やばいなあ。あ、司さん?あの子部屋から逃げちゃったみたい…うん、うん。分かった。お願いね」


また、司だ。

その場にはいないのに電話?いや、あの耳にしてるイヤホンで会話しているのか?


すごいハイテクって感じだなぁ。

マフィアはそういう連携というか下の兵隊にまでそんなものは渡さない。

死んだらそのときで、兵隊は減ったら足すだけ。



開けたままにされた扉の向こうから何人かの足音が聞こえる。


「どこ行っちゃったんだろうねー」

「ああ」

「行く場所なんてもうないのにねー」

「ああ」



聞き覚えのある声の主はたしか陽と呼ばれていたやつと、ああ、としか返事をしない方は初めて聞く声だ。


あの時、襲撃してきた中に居たんだろうか。


「おい」


っ!


え、あ、え?!

こいついつの間に来たんだ?!


気づいたら隠れている棚の前に一人の男が立っている。


そしてタバコの匂い。


やばい、殺される。

ここまでか…


どうせ殺すなら一瞬で殺してくれ…






扉が開かれる。



「いつまで隠れんぼしてんだ?出てこいよ」



一瞬で…



「ん?もう終わりだろ?なに、まだ遊びたいのか?おじちゃん、年寄りだから鬼ごっこはパスな」


あ?


「よし、じゃあ10数える間に隠れ直しなー。いーち、にー」


は…


いやいや、



「そんなことしない」


「あ?遊ばねーの?」


あ、そばねーよ!!!

なんだよ、隠れんぼって!

あんたらがさっき殲滅したマフィアの所に自分がいたって知ってるんだろ?!

なんだよ、敵だろ?!


「どうして、、」

「ん?なんだ?」

「どうして生かしたんだ。どうして殺さない?何を求めてる?殺しか?暗殺ならするが、あんたらなら必要ないだろ?マフィアを一夜にそれも数時間で全滅させたんだ。なら、なんだ?なにが目的だ?」


右目に大きな傷があり、片手には火のついたタバコを持っているその男はなぜか眉を寄せたと思ったら自分を持ち上げる。


なっ!


「ほれ、抱っこだぞー」

「はなせ!離せよ!」


その太い腕の中でじたばたと暴れるがビクともしない。


「くそっ殺すなら今殺せよっ痛めつけるのか?痛めつけて殺すんだろ?!最低だ!お前ら大人は最低だっ」


たくさんその男の自尊心を傷つける言葉を言ったのに怒りもしないで廊下を歩く。


「なんだよぉ。なんでっ」


えぐえぐと涙が流れ泣いてしまう。



「まったく、怒ったり泣いたり忙しいやつだな。子どもってのは分かんねーな」



バカにされたように思い、涙は止まらないのにまた怒りが湧いてきた

 「バカにすんなあ!うっ、今まで泣いたことないんだぞっお前のっお前のせいだあ!!」 

 
ボロボロと目から水が出てきてしまう


「なんだ?お前、涙の止め方知らねーのか」


涙の止め方?

これを止められるのか?


「涙はなぁめいっぱい泣いたら止まるんだよ」


んだよそれぇ!

結局泣かないといけないんじゃないか!

うっえぐっ


うわぁぁんと声を出して泣いたのは初めてだった


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