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神様の領分

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「まぁ…テラの話は、もうどうでも良いのじゃ。話を纏めるとじゃな、お主の魔力の質が向上し魂が抜け出た事で、お主自身の魂に生じた隙間……おそらく、それがお主の言うところの魔石を取り込む枠なのじゃろう」

 私が、内側にいる子達の力になれていたと知って、少し肩の力が抜けかかっていたところで、神様が説明に戻ってくれた。

 なるほど……あの子達が抜けた分だけ、魔石を取り込めるようになるんだ。

 魂だけのあの子達を救えて、さらには強くなる為の足掛かりにもなるのなら、良い事尽くめだ。
 でも、気になる事もあるんだよなぁ。

「自分の魂に、無毒化しているとはいえ魔石を取り込み続けたら、良くない事って起こりますかね?」
「妾が把握している限りでは悪影響は無さそうじゃし、問題ないじゃろ。むしろ、お主の中の魂が減れば、変に感情を揺さぶられる事も少なくなると思うのじゃ」
「ああ……なるほど」

 変な所で泣いちゃったり、苛ついたりする事があったからなぁ。
 感情に振り回されない為にも、魂の解放は必要そうだね。

「もう質問は終わりじゃな? 妾も忙しいから、そろそろ切り上げたいのじゃが……」
「自分から呼んだのに……」
「お主が、あっさり死んでしまったら傷付いた魂が妾の所に大量に流れ込んでくるんじゃぞ! 忠告できる機会を逃さぬのは当然なのじゃ!」

 そういう理由で、色々と説明してくれてたんだ。
 そうだよね。ただの親切心だけで、頭を抱えたくなる存在にアレコレ教えてくれる訳ないか。
 それでも分からなくてモヤモヤしていた部分について、教えて貰えたのは凄く助かったけど。

「あ……私が此処に呼ばれた時に触れた、あの扉ってなんですか? 此処もダンジョンコアの中に雰囲気…というか空気が似てますけど」
「そうか……やはり、お主には分かるのじゃな。此処は妾の…神の領域で、ダンジョンは妾が各地の調整をする為の端末のような物じゃな。だからダンジョンに似ていると感じたのは間違いではないのじゃ」
「調整……?」
「魔力が溜まると魔物が発生すると聞いた事くらいはあるじゃろ? そういった場所に魔物を囲う為のダンジョンを作り、周囲の環境に影響が出ぬように調整しておるのじゃ」

 まさかダンジョンに、そんな役割があるなんて……
 てっきり一攫千金を夢見る人の為のびっくり箱だと思ってた。

「調整が目的なら、なんでダンジョンの中にお宝を用意してるんです? 魔道具とかが置いてあったりするって聞いた事あるんですけど……」
「魔物を閉じ込める箱を作っても魔物が減る訳では無いのじゃ。じゃから、他の者にダンジョンに入る為の理由を作ってやらねば、いずれはダンジョンから魔物が溢れ出してしまうのじゃ」

 周りの環境を気にしながらとか、ダンジョン運営も難しそうだなぁ……
 魂の管理に、ダンジョン運営、問題児監視観察……他にも私の知らない仕事もあるだろうし、神様忙しそう。

 そういえば以前、竜の里に発生したダンジョンを壊しちゃったけど、神様的には問題なかったのかな……?

「少し前に、私と父さんでダンジョンを壊しに行ったんですけど、アレって良くなかったんですか?」
「ダンジョンを作った時点で、いくらか魔力を消費できておるから問題は無いのじゃ」

 良かった。仕事の邪魔をしちゃってたのなら申し訳ないからね。

「なのに、お主はコアを取り込んでしまうし……。人が神の領分に手を出せるだなんて少しも考えていなかったのじゃ~……」

 おおぅ……
 神様が泣きそうだ。
 いや、既に泣いた後なのかもしれないけれど……

「えっと……私の中にある迷宮核は破棄した方が良いですかね?」
「いや、すまぬ……少々取り乱したのじゃ。それは既にお主のモノ…好きに活用するといいのじゃ。それよりも大事なのは、お主が死なぬ事なのじゃ。先程も言ったが、お主が死ぬと妾が酷い目に遭うのじゃ……」
「それなら……ありがたく使わせて貰いますね」

 捨てろ、とか言われなくて良かった。
 私の事で本当に気苦労をかけている気がするけど、そこは是非ともドS様に苦情を入れて欲しい。

「それと外の扉は無闇に触れてはならぬ。アレは、お主が突き破った世界と世界の間にある壁に空いた穴を寄せ集めたモノじゃ」
「直したんじゃないんですか?」
「お主がこちらに来た時の穴は大きかったから、すぐに直したのじゃ。じゃが、自然に出来てしまう穴…というか亀裂は全てを直してはおれんので、一つに纏めてあるのじゃ」
「それが、あの扉なんですか?」
「うむ。お主のように多くの魔力を持つ者が不用意に触れると、この世界から飛び出してしまう事があるから気を付けるのじゃぞ?」
「なにそれ怖い」
「運が良ければ生きて他の世界に行き着くかもしれぬが、まぁ大体は数百年単位で世界と世界の狭間を漂う事になるから、止めた方がいいのじゃ」
「なんで、そんな危ないモノを剥き出しにして置いておくんですか……!」

 もしかすると神様に会う前に、この世界とサヨナラしてたかもしれないって事? 怖すぎる!

「そうならないように、ちゃんと妾が見ていたから安心するのじゃ。本来なら扉に続く道もないのじゃが、今回はお主を招待する為に少し手を加えたのであって、間違っても誰かが触れるという事は起こらぬ」
「それなら…良いですけど……」

 というか、目の前の神様が私を排除するつもりだったら、あの扉に触らせて世界の外に出しちゃうって方法もあったって事だよね。
 そんな神様じゃなくて本当によかった……


「ほれ、そろそろ夕暮れ時になるから帰るのじゃ。本当は一人の人間にここまで肩入れするのは良くないんじゃが、妾の心の安寧の為にここまで説明しただけだと言う事を忘れてはならぬのじゃ!」
「はい。死なないように気を付けますね」

 聞きたい事はまだいくつかあるんだけど、神様も忙しそうだからね。
 またの機会にしておこう。

「あーコホン……それとじゃな、お主の母親の体調なら気にする必要はないのじゃ。アレは別に心配するような事ではないのじゃ」
「――――そうなんですか?」

 一瞬、神様が何を言っているか分からなかったけれど、それが母さんの事だと少し遅れて理解した。

「良いか? お主が母親の事で物事に集中できておらんかったから特別に教えてやっただけなのじゃ! 別に話をしていたら絆されたとか、そういった事はないから勘違いをするでないぞ!」
「あー……はいはい。私が不注意で死んだら神様困りますもんね。大丈夫ですよ」
「なんか憐れみが篭っているような気がするが……そういう事なのじゃ!」…

 うん。この神様は世界を管理する側として、色々と説明をしてくれていたけれど、本質的には人…というか世界に生きるもの全てが大好きなのかもしれない。

 こうして私を突き放しきれないでいるのは、そんな理由なんじゃないのかなぁ、と思ってしまう。

「なんじゃ、その生温かい視線は……」
「いえ、なんでもないですよ。それより私、神様の事をずっと神様って呼んでましたけど、神様にも名前ってあるんですよね?」

 前世の神様にもドS様……じゃなかった、テラって名前があるみたいだし。

「妾の名前なんぞ聞いても役に立たんと思うんじゃが……まぁ良いか。妾はこの世界イルティネシアの神フィアルーミスじゃ」
「フィアルーミス……。こっちの世界で生きてきて13年以上経つから、どこかで聞いた事もあるかなぁ、って思ってたんですけど聞いた事ないですね」
「じゃろうな。妾の名前は広めておらんし、知っている者は両手で数えられる位だと思うのじゃ」
「そうなんですか」

 ほとんどの人が知らないなんて…って思ったけど、よくよく考えてみたら前世の神様の名前も聞いた事なかったな、と思い至る。

 人の世に伝わってる神様は、人の都合で創り上げられた偶像だとしても不思議でもなんでもないか。
 そもそも、こっちの世界の神様どころか宗教もよく知らないんだけどね。


「では、そろそろ戻るのじゃ」
「色々とありがとうございました」
「うむ。それではの……」

 フィアルーミス……ずっと神様って呼んでたから言い難い……。
 まぁ、とにかく神様が私に掌を向けると景色が切り替わった。


 陽が傾いて周囲が少し薄暗くなってきている。
 私が神様に呼ばれる前にいた扉の前ではなく、扉があった場所の外に出されていた。

 私が入って行った裂け目は何処にも無くて、さっきまでの出来事は夢だったのでは? と錯覚しそうになってしまう。
 そんな事はないと分かってはいるけれど、それだけ綺麗に痕跡が無くなっているんだよ。

 迷宮核の力は神様の領分だと言っていたから、私も慣れればこれくらい出来るのかもしれない。

 って、それより今は早く帰らないと!

 いつもより遅くなっちゃってるし、急いで帰ろうっと。

 【有翼(竜)】を使って翼をバッサーっと広げて空に上がる。
 急いではいるけれど緊急ではない時に、こうやって使い慣れないスキルを慣らしていく。

 【有翼(竜)】は【有翼(鳥)】と違って、力強いけれど安定し難いんだよね。
 父さんや母さんみたいに、安定して飛べるのはいつになることやら……

 そんな事を考えながら、ふらふら飛びながら集落に帰った。





「シラハ、帰ったか」
「ただいま、父さん」

 家に帰ると、魔物を抱えた父さんが出迎えてくれた。
 あ、今日は獲物仕留めてなかったや……

 色々と情報を貰って詰め込んできたから、すっかり忘れてた。

「ご飯獲ってきてくれたんだ、父さんありがとう」
「いつもシラハに任せっきりだからな。今日は少し帰りが遅かったから念の為に、と思ってな」

 父さんグッジョブだよ!

「母さんは?」
「レティーツィアなら問題なさそうだぞ。少し身体は冷えているが、今日一日普通に過ごせていた」
「そっか、良かった」

 神様は大丈夫と言ってくれていたけれど、体調を気にかけるのは家族として普通だよね。

「さて、今日は我が手ずから肉を焼いてやろう!」
「おっ、ガイアスの娘も帰ってきていたのか!」
「マグナスさん、本当に当たり前のように家にいますね……」
「次は俺も魔物を獲ってくるから、そう言うなガイアスの娘よ!」

 まぁ、良いんだけどね。
 ずっと家に入り浸ってたらアレだけど、ご飯食べて少ししたら帰るし。

「おかえりなさい、シーちゃん」

 父さん達と話をしていると、母さんもやってくる。
 そっと手に触れると、やっぱり少し冷えているけれど、それ以外におかしなところは無さそうだ。

「あら? 今日はガイアスが料理をするの?」
「うむ!」

 母さんの質問に、自信満々に答える父さん。
 父さんも母さんが心配で、料理をしようとしているのかも。

 神様の言葉を伝える? でも神様に会ったとか言ってもなぁ……
 いや信じてくれるとは思うんだけど、神様に会ってきたよ! とか言う自分を想像したくない。

 まぁ、今は父さんの料理を待つとしよう。

 誰かが用意してくれる食事も良いもんだよね。




 今日の食事は生焼けお肉が出てきました。








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後書き
シラハ「あの岩山を吹き飛ばせば、また神様に会えるのかな?」
フィアルーミス「絶対にやってはならぬぞ! 扉を隠すのも楽ではないんじゃぞ!」
シラハ「絶対にやるなよ…は、やれという振りですよね?」
フィアルーミス「違うのじゃ! お主は天邪鬼か!?」
シラハ「神様の慌てっぷりが可愛い……」
フィアルーミス「イジられておるっ……! 妾は神なのにぃ……」

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