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川の字

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 私達はマグナスさんの寝床へとやって来た…んだけど……

「クサい……」
「っ?!」

 私の発言にマグナスさんが衝撃を受けている。
 いや…だってクサいんだもん。

 何この匂い……

 私達が今いるのが寝床で周囲を円形になる様に囲われている。
 寝床自体は綺麗だ。
 壁は竜人族の人が作ったのかな? もしかするとマグナスさんも一緒に手伝ったかもだけど。

 そして天井は無い。
 たぶんマグナスさんが空から降り立つ事が出来る様にする為の配慮だと思う。

 そして寝床の奥にもう一部屋あるみたいなんだけど、その部屋からゴポゴポと音が聞こえるのと、異臭が漂ってくるのがいただけない。

「部屋の奥って何があるんです? 匂いがキツいんですけど……」
「む……ガイアスの娘はこの匂いが駄目なのか? たしかに竜人にも苦手な者はいるが……。実は奥には温泉が湧いているのだ!」
「温泉?!」
 
 まさかの温泉がここに?!
 となるとこの匂いは硫黄なのかな? 好き嫌い分かれる匂いだって聞いた事がある気がする。前世で。

 私は硫黄臭は苦手ではなかったと思うんだけど、今世では初めてだし、ついでに【獣の嗅覚】のせいで辛い。
 温泉に入ったら嗅覚が死ぬかもしれない。

 とはいえ温泉かー。

 入りたくないと言えば嘘になる。というか入りたい。
 匂いは我慢して入ってみようかな……

「マグナスさん、温泉入ってみてもいいですか?」
「ん? 構わんが人の子は入れるのか?」
「入れると思いますけど……?」
「なら構わんぞ。堪能してくるといい!」

 マグナスさんの許可を貰って、さっそく温泉のある方へと移動していく私。
 それについてくる父さんと母さん。

「父さんはマグナスさんとお話しでもしててね。母さん行こ」
「ええ」
「な、なぜ我は駄目なのだー?!」
「水浴びも一緒にはしてないでしょ……」
「だからこそ温泉なら良いと思ったのだっ!」
「ダメだから」
「ぐふぅ……」

 膝をついて落ち込む父さん。
 なんで温泉なら良いと思ったのか。

 そして温泉の目の前に来たのだけど……

「あっつい!!」
「そうねぇ、これはシーちゃんには少し熱いかもしれないわね……」

 少し熱いどころではなくたぶん死ぬ。
 目の前の白く濁った温泉はゴッポゴポと音を立てて煮えたぎっているし。

 竜なら耐えられるんだろうけどさ……
 しかもマグナスさんは炎竜、きっとこれで適温なんだろうね。
 温泉は……今は諦めよう。


「む? 早いな。もしや我と一緒に入りたくなって戻って来たのか?」

 戻ってきた私達に嬉しそうな顔で出迎える父さん。

「ちょっと温泉が熱すぎて私には入れないだけだよ。父さん早く入ってきちゃいなよ」
「マグナスよ、娘に邪険にされているような気がするのだが……」
「気のせいだガイアス! それよりも、そうか……源泉そのままではやはり人の子には無理だったか……スマンな」
「いえ、最初にマグナスさんは確認してくれてましたし、意図に気付かなかった私が悪いんですから」

 マグナスさんが少しションボリとしている。
 どうやら普通に温泉を楽しんでほしかったみたいだね。
 なんか申し訳ない……


 父さんとマグナスさんが温泉に入りにいっている間に、もう一度マグナスさんの寝床を観察していく。
 枝や藁を置いて、その上に布を敷くというシンプルな物だ。

 父さんと母さんに初めて会った時は、布さえなかったけど……

「ねぇ母さん。思ったんだけど、私達はどこで寝るの?」
「さぁ……マグナスが招待したんだし用意してあるんじゃないかしら?」
「大丈夫かなぁ……」

 父さん達が戻ってきて、私達の寝る場所を尋ねてみると不安的中で用意はされていなかった。
 やっぱり……


 なので私がスキルで寝る場所を作る事になってしまった。
 今日は此処に来る前にマグナスさんを【竜咆哮】で吹き飛ばしたりスキル検証をやっていたので魔力は減っているけど、寝る場所を作るくらいなら大丈夫でしょ。

 私が作るのはあくまでも寝る場所だけで、敷き布団や毛布の代わりにする布はマグナスさんが用意してくれるらしい。

 とりあえず私は【迷宮領域拡大】と【迷宮創造】でサクっと寝る場所を確保する。
 床を真っ平らにして少し高さをつけるだけなんだけどね。

「ほうほう。そういえば、そんな事も出来るとレイリーが言っていたな」
「レイリーは口が軽いですね」
「まぁ、お調子者ではあるな。珍しく会いに来たかと思えばガイアスが人の子を育てている、と言い出すから驚いたぞ」

 なんかマグナスさんに私のスキルが筒抜けになっている。
 今度レイリーに会ったら、どうしてくれようか……

「しかも里で竜達に頭を下げさせたそうだな。なかなかに痛快だ! 俺もその場に居合わせたかったぞ!」
「なら里に住めばいいだろ」
「里は窮屈で面倒だから戻る気はないな! それに此処にいる者達を見捨てるつもりもない!」

 本当にマグナスさんは竜人族の人を大切にしているんだね。

「それに里の連中は、此処にいる者達を半端者、なりそこないと蔑むからな。攻撃を仕掛けてきた時もあったな…気に食わん」
「なりそこない?」
「竜人族は人化した竜と人間の間に生まれた子供が起源だと言われている。故に竜としても人としても半端な存在、なりそこない……だそうだ」
「なるほど……」

 竜人族は人と竜の子。
 それなら確かに両者からは認められなそうだ。

「なんていうか、くだらないですよね。自分達と違うから迫害するとか、暇なんでしょうね」
「全くだ。暇なのに相手を知ろうともしない。そして力を持て余してちょっかいをかける。それが相手にとっては命を脅かす行為であると分からずにだ」
「まぁ竜族は大雑把そうなところありますしね」
「だから此処に訪れる竜はいない。いたとしても俺が追い返すがな! なっはっは!」
「あれ…それだと私達は此処に来て大丈夫だったんですか?」
「俺が呼んだのだ、問題あるまい」

 マグナスさんが良くても、竜人族の人達はどう思ってるんだろ……まだ接触してないけど、警戒されてなきゃいいけどなぁ。

 さてと、そろそろ寝ようかな。
 スキルを使って、それなりに疲れを感じるし。

 布をふぁっさーと敷いて準備完了。
 その様子を父さんと母さんが眺めている。

 私が寝たら、二人は私の様子がわかる場所で寝るつもりなんだと思う。
 私が作った即席ベッドは一つだけだし。
 でも私だけがベッドで寝るのは心苦しい。

 なら私のとる行動は……

「父さん、母さん一緒に寝よ!」

 私の言葉に二人が驚く。
 異性である父さんと寝るのは、私に拒否感があるからしていなかったし、それで母さんとだけ一緒に寝るのでは父さんだけ除け者にする事になるから、家では一人で寝ていた。
 普段はそれで良い。
 寝る場所も人数分用意してあったから。

 でも今は私にあまり余裕がなかったのもあってベッドが一つ。
 なら一緒に寝る。

 毎日一緒だとアレだけど、旅先の特別な一夜なら大丈夫だ。きっと。

「人化した状態で三人で寝るのは初めてね。シーちゃんは良いの?」
「うん。せっかくの旅先だしね、今夜は特別」
「シーちゃんが平気なら私は大歓迎よ。ほらガイアスも、いつまでも突っ立ってないで早く入りなさいよ」
「う、うむ……」

 父さんが緊張しながら、そろりとベッドへと入り込む。
 普段は大雑把な父さんが、まるで壊れ物でも扱うかのようで可笑しくなってしまう。

「シラハよ、大丈夫か? 痛くはないか?」
「大丈夫だよっ。ほら」
「う、うむっ」

 私が父さんの腕にぎゅっと抱きつくと父さんは動かなくなってしまった。
 まだ父さんには早かったかな?

「あら羨ましいわね。なら私はシーちゃんに抱きつこうかしら」
「母さん暖かい……」

 少し寝苦しさはあるものの、二人の体温を感じながら眠りについた。
 たまにはこんな日もいいよね……








 翌朝、私達が起きだすとマグナスさんが何やら独り言を呟いていた。

「ふむ……あれが家族か。俺も番を探してみるか?」

 とか言ってたけど、もしかしなくても私達が一緒に寝てたのを見て、何かしら影響を受けちゃったのかな?



「よし! では今日は、此処を案内しようか! まあ案内と言っても大した広さではないがな!」

 少しして、いつもの調子に戻ったマグナスさんがそんな事を言い出した。
 心配事はあるものの、集落の中を見て歩くのは私としても歓迎だ。

 マグナスさんの寝床を出ると目の前には荒地が広がっている。
 昨日は直接マグナスさんの寝床に降り立ったから、周りはあまり見ていなかった。

「マグナスさんの寝床の周りには竜人の方の家はないんですね」
「うむ。皆、畏れ多いとか言ってな!」

 それは寂しい気がするんだけどな……

 私が口を出す事じゃないから、言わないけど。

「昨日、上から見てた時は分からなかったですけど、地面にキラキラと赤い砂粒みたいなのが見えますね。もしかしてこれがマグナスさんの鱗ですか?」
「そうだとも! 地面を触ってみるといい、鱗からの熱で大地が温かいままだぞ!」
「ほんとだ……」

 言われて手をつけてみると、じんわりとした熱が伝わってくる。
 暖かいというか、真夏に直射日光浴びてカラッカラになった土みたいな熱さがあるんだけど……

「あの、マグナスさん。この熱があって、この土地で作物って育つんですか?」
「育たんな!」

 育たないんかい!
 熱に強い作物とかなかったんですか……

「集落の周りに雪があるから水気は充分、そして俺の鱗で昼夜問わず温かい。だが作物にとっては熱すぎるらしくてな、上手く育たんらしい! だから作物に関しては集落の外周に作られている。そこなら寒すぎず熱すぎずで良い塩梅なのだとか」
「なるほど……」

 そうだよね。此処で暮らしてそれなりに経っているだろうし、私が心配する事じゃないか。



 少し歩けば木造の建物が立ち並ぶ場所に到着する。
 建物の作りは珍しいものではなく、簡素な家といった感じだ。
 ただ、家の入り口に様々な色や模様が着いた布を貼り付けてあった。
 もしかすると表札の代わりなのかもしれない。

「おお、炎竜様! おはようございます!」
「炎竜様、今日も炎竜様のおかげで良き朝を迎えられました」
「うむ! 皆の者おはよう!」

 マグナスさんを見つけた竜人の人が何人か挨拶に寄ってくる。
 そしてマグナスさんの元気な声に周囲の人達も集まってきた。

 竜人の特徴は頭に竜の角、お尻あたりに尻尾が生えているだけで、それ以外は人と変わらないように見えた。
 というか、マグナスさんが人化した姿とそっくりだ。

 そっかマグナスさんは竜人族に合わせた人化をしているんだ……
 父さん達とマグナスさんの人化の違いに納得がいってスッキリしたね。

「皆に知らせておく事がある! 昨夜から俺の友であるガイアスと、その番のレティーツィアと娘のシラハが俺の巣に滞在している! 集落の中で見かける事もあるだろうから、何かわからぬ事があれば教えてやってくれ!」

 集まった竜人族の人達がマグナスさんの説明を追って視線を動かしていく。
 そして最後に私で止まる。

 今、父さんも母さんも人化してるけど、私は人化した竜として見られているのかな?

「あの……炎竜様。そちらの小さいお子さんは、もしや人間では……?」
「うむ、人間だな!」

 ザワリと周囲がどよめいた。
 もうちょっと、うまい説明はできなかったのかなー……

「炎竜様……私達が人間にどのような扱いを受けてきたか知っておいででしょう?」
「知っているとも! 300年程前のお前達の祖先だな! 知っているからこそ俺が此処にいる」
「なら、何故人間なんかを……!」
「この娘がお前達に何か危害を加えたか? お前達が幼き頃から人間は残虐な存在だと教えられているのは知っているが、今この娘を前にして何か恐ろしい事をされたか? たった一人の人間に何を恐れているのだ」

 うわーお。
 マグナスさんいきなり竜人族のトラウマというか、昔話に出てくる怖い生き物を目の前に連れてきて何やってるんですか。
 というか、昔に人間が何したか知らないけど前もって教えておいて欲しかったよ……

「では炎竜様!」
「なんだ!」

 なんかマグナスさんみたいに煩い竜人が前に出てきた。


「その人間を知る為に、俺とその人間との決闘を許可して下さい!」
「良いだろう!」


 煩い竜人の提案にマグナスさんが即答で了承する。


 って、良いだろう!じゃなーい!!









//////////////////////////////////////////////////////

後書き
狐鈴「そういえば今更ですけど、感想の受付を再開しました」
シラハ「あれ、勇気が足りないって言ってなかったっけ?」
狐鈴「感想欄覗く勇気は今もないです……」
シラハ「ダメじゃん」
狐鈴「でも書きたいって人もいるらしいと聞いて……」
シラハ「まぁ、いるだろうねぇ。それで狐鈴のメンタルやられて筆折れちゃうなんて事もあるんじゃない?」
狐鈴「………」ガクガクブルブル
シラハ「ゴメンゴメン! 脅かしすぎたね……。そんな訳で作者はメンタル弱いので、お手柔らかにしてもらえると有難いです!」

※この話は、小説家になろうで感想の受付を再開した時の話です。

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