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さようなら
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声が聞こえる。
「何故シラハを斬ったのですか!?」
「言っただろう…これは貴様への罰だと」
「だから貴方が裁くと言うのですか!」
「そうだ、この娘も所詮は平民だ。一人死んだところで何の問題もあるまい?」
「そんな理屈で……!」
罰?
私の罰ってなに?
貴族の妹を名乗ったこと?
王城に忍び込んだこと?
貴族を殺したこと?
たしかにそれらは悪い事なのかもしれない。
でも……
それらは全部、お前達が始めた騒動が原因じゃない!
それなのに、お前達が私を裁く?
冗談じゃない!
絶対にお前になんか殺されてやるもんか!!
……でも右眼はともかく、喉を斬り裂かれたのは致命傷なはずだ。
傷を直接見たわけじゃないけど、出血を止めたくらいじゃ助からない。
どうしよう……詰んでる。
「ぐぁっ…!」
アルフリードさん?!
何があったの!?
アルフリードさんは無事?!
力の入らない私は顔を上げることも目を開くこともできない。
動いてよ私の体!
動いてアルフリードさんを助けないと!
でも死にかけの……もしかすると既に死んでいるのかもしれない私の体はピクリとも動かない。
ダメ…か……
私が諦めそうになると、右眼から熱が引いていくのが分かった。
気付けば呼吸も楽になっている。
これは……
衣服に付いた私の血はそのままだから気持ち悪いけど、今は文句を言ってられない。
あまりゆっくりしているとアルフリードさんが危ない。
アルフリードさんを助けるには……仕方がないか……
(【麻痺付与】)
私はスキルで私を押さえている騎士達二人を麻痺させる。
「な、なん…だ?」
「からだが……動か、な…」
騎士が私から手を離して、その場に崩れ落ちる。
「お前達、何をして……」
躊躇する事なく私を殺そうとしたセクハラ親父こと騎士団長のゼブルスが、騎士の異変に反応してこちらに視線を向けた。
「何故…貴様が生きている……」
「シラ…ハ?」
そこで漸く私に気付いたアルフリードさんが私の名を呼ぶ。
怪我はしているけど生きている……良かった。
よく見ればアルフリードさんは丸腰だった。
呼び出される前は、張り込みをしていたんだから当然だ。
そんなアルフリードさんに一太刀入れるなんて……
許さない……!
「貴様はたしかに死んだと思ったのだが……傷もない。祝福か何かか?」
ゼブルスが冷静に私の力の分析を行う。
間違ってはいるけど、取り乱したりする訳でもないのは、さすがは騎士団長って事なのかもね。
「さぁ? 貴方が裁きをし損ねただけなのでは?」
「ふざけるな。私の剣に付いた貴様の血も、貴様からこぼれ落ちた血も間違いなく本物だ。どのようにして私の剣を凌いだかは知らぬが、次はその首を刎ねてやる」
ゼブルスが剣を私に向けて構える。一応は警戒しているんだね。
でも……私はお前を許さないよ!
私は【竜気】【剛体】で身体能力を強化して、ゼブルスに接近する。
もちろん服の下は【竜鱗(剣)】で覆って身を守っている。
一撃で決めてやるっ!
ゼブルスが私に斬りかかってくるが、私はそれを落ち着いて腕で受け止める。
「なにっ!?」
ガギッという金属と金属がぶつかる音がして、ゼブルスが驚いたような声を出す。もしかすると驚いたのは音ではなくて、自分の攻撃が止められたからかもだけど。
父さん譲りの竜鱗と母さんお手製の服だもの、そこらの攻撃なんかが通るわけがない。
そして攻撃を止められて隙だらけのゼブルスに、もう片方の手を向ける。
「貴方には償いも反省も不要です」
「なにを……」
ゼブルスは何が起こるのか分かっていない顔をしている。
本当ならここで、アルフリードさんを傷つけたゼブルスを徹底的に痛め付けたいところだけど、この手の人間は周囲の人を平気で苦しめていく。
だから消す。
貴族を害するのは重罪だっていうのは知っているけど、これは譲る気はないよ。
それにゼブルスが改心してくれるだなんて、これっぽっちも思っていない。
「消えてください……私から言えるのは、それだけです」
「このっ……平民風情が!」
その平民に殺されるんだけどね。
「【竜咆哮】」
私の中から魔力がゼブルスに向けた手に集中し、それが放出される。
私から放たれた力はゼブルスを弾けさせ、その断末魔は直後に爆音でかき消された。
私が放った【竜咆哮】は城壁の一部を吹き飛ばしていた。
これは……こんな所に呼び出したゼブルスが悪いと思うんだ。
まぁ何にせよ、すぐに人が駆けつけてくるよね。
……その前に、やっておかないと。
「【鎌撫】」
私は麻痺させて動けなくした騎士に近付き、その首を切り裂いた。
「がっ…」
「ひっ!」
「シラハ、何をしてるんだ?!」
首を裂かれた騎士と、それを見ていた騎士がそれぞれ短い悲鳴をあげ、それをアルフリードさんが咎めるように止めてくる。
同じ騎士だもんね、気持ちはわかるよ。
でも……
「アルフリード様……手を離して…邪魔をしないでください」
「邪魔?! 君は今、何をしたかわかっているのか? 人を殺したんだぞ!」
「そんなの今更ですよ。冒険者は依頼で人を殺す事だってあるんですから」
「それは……」
「人殺しは許せないけど、人殺しをしようとするのを手伝うのは問題ないんですか?」
「どういう意味だ?」
「だってそうでしょう? 私は、この騎士達に押さえつけられていたんですよ? この騎士達は私にとっては人殺しとなんら変わらないんですよ」
「だが彼等は動けない! それなのに……」
「私も動けませんでしたよ? でも誰も助けてくれませんでした」
「助けられなかったのは僕の力不足だ……だけど、シラハが誰かを殺めるのを僕は見たくないんだ。――だから彼を殺すのは……待っ…」
話の途中でアルフリードさんが膝をつく。
ゴメンね。早くしないと他の騎士が駆けつけちゃうから【麻痺付与】で動けなくさせてもらったよ。
「待て……シラハ……!」
アルフリードさんの制止を無視して、私はもう一人の騎士にトドメを刺す。
これで、さっきのゼブルスとアルフリードさんの会話を聞いた人はいなくなったね。
私を平民と知っていながら、妹として王城の中を連れまわしていたと知られれば、アルフリードさんの立場が悪くなるかもしれないからね。
我ながら、どうかと思うけど……
私は膝をついているアルフリードさんに視線を向ける。
「騎士の人達が、こっちに向かってきましたね。足音が沢山聞こえます」
【側線】がなくても、普通に聞こえそうなくらいの足音が響いてくる。
……もう、時間がないね。
「アルフリード様……。今回の件は、私がアルクーレにいたアルフリード様の妹を殺めて、成り代わり、王都に侵入した、とでもしておきましょうか」
「何を…言っている?」
穴はあるだろうけど、その辺は適当に誤魔化しておいて欲しい。
「なるべくアルフリード様やオーベル家、それとアルクーレ領主様に迷惑がかからないように、上手く全部私のせいにしちゃっておいてください」
「な……!」
アルフリードさんが絶句する。
驚いたとしても、納得して貰うだけの時間はないよ。
「アルフリード様」
アルフリードさんの視線が私に向けられる。
私はそんな視線に精一杯の強がりで笑顔を作り、大事な言葉を告げる。
「今まで……本当にお世話になりました。どうか、お元気で……
――――さようなら」
「っ! シラハ! ――くそっ! なんで体が動かないんだ!」
私を呼ぶアルフリードさんを背に、私は城内から出てきた騎士に向けて走り出す。
いくら私のせいにしようと、アルフリードさんの騎士人生にとって今回の件は汚点になってしまうはずだ。
だから、その印象が少しでも薄くなるように私は騒ぎを大きくする。
とはいえ、今から相手にする騎士達に恨みはない。
だから、動けなくなる程度に痛い思いをしてもらうとしよう。
そう思っていると、騎士の群れの中から素早い動きをした騎士が飛び出してきた。
もう貴方が出てくるんですか!
私は咄嗟に左腕を出して相手の騎士の袈裟斬りを受け止めた。
「ぐっ!」
「へぇ……真っ二つにしたと思ったんだがな。その服の下に何を仕込んでいるんだ?」
「それは乙女の秘密ですよっ!」
私が右腕を振るうと、斬りかかってきた騎士……ローウェルさんが飛び退いた。
まったく冗談じゃない。
受け止めた左腕の竜鱗が砕けたよ。母さんの服がなかったら腕が落ちてたかもね。
本当に怖い人だよ、ローウェルさんは……
「なぁ、覚えているか?」
ローウェルさんが私に向かって喋りだす。
何か言いたい事でもあるのかな?
「この国の敵にならないように気を付けろ、と忠告したはずだが?」
「色々ありましてね。詳しい事は、あっちで動けなくなっている方に聞いてくださいな」
「それより、もっと簡単な方法がある」
ローウェルさんが獰猛な笑みを私に向けてくる。
悪い予感しかしないよ。
「お前の手足の二、三本を斬り落として直接聞く、っていうのなんかどうだ?」
アウトですー!
ですよね、ローウェルさんはこういう人だよ!
そしてローウェルさんが再度、斬りかかってくる。
でも今度は、竜鱗を砕くまでの攻撃力はない。
そうか……!
最初は、飛び出してきて勢いをつけた一撃だったけど、今は違う。
私の体力を削ろうと手数を増やしている感じだ。
それなら普通に止められる。
「当たり前のように、こっちの攻撃を止めやがるな。どうなってるんだ?」
「それを教えると思いますか?」
「つまらねえヤツだ」
「自分の手足は大事ですので」
「ちっ」
そこ、舌打ちしない。
さて……困ったな。
ローウェルさんが足止めしている間に、他の騎士が弓を持ち出したりして包囲されちゃってるな。
やっぱり出し惜しみしてる場合じゃないね。
どのみち私は犯罪者になるわけだから、そこに化け物の肩書きが増えるくらいどうって事ないね。
私は【迷宮領域拡大】を使って、私とローウェルさんが戦っている足下周辺を自分の魔力で染めていく。
「魔法か? 魔法を使う瞬間に、お前の手足を斬ってやるよ」
「それは怖いですね……」
本当にやりそうだからね、この人は……
というか、ローウェルさんは魔力を感じ取れる人なの?
厄介だね……
でも私の狙いは分かってないはず! ……はず。
「そろそろ大人しく捕まっておけ!」
「冗談じゃないですよ!」
ローウェルさんの攻撃を凌いでいく。
普通の服だったら、大変な事になっていたね。
っと、ここだ!
【迷宮創造】!
「っ?!」
ローウェルさんがバランスを崩す。
私が【迷宮創造】で、足下に小さな窪みを作ったからだ。
そして、その好機を逃す私じゃあない!
「そこ!」
「ぐっ!」
私の身体能力増し増しの拳で、ローウェルさんが突き飛ばされる。
ようやく引き離せたよ……
「矢を放て!」
「?!」
ローウェルさんが飛んでったと思ったら、今度は矢が飛んできた!
アレを全部避けたり止めたりするのは無理……あ、【風壁】!
私は、私を狙って飛んでくる矢に向かって走り出した。
念の為に腕を前に出して頭を庇っておく。
矢が私に届く瞬間、見えない何かに矢が弾かれていく。
これは面白いかも……!
【風壁】を実戦で使うのは初めてだけど、勢いがつけば弾く力が強くなるみたいだし、条件が整えばなかなかに使えるスキルかもしれない。
検証に協力してくれた騎士達に感謝だね。
「な、なんだアイツは……矢の雨の中こっちに向かって走ってくるぞ?!」
「構うな! 撃ち続けろ!」
「来るぞ! 剣に持ち替えるんだ!」
矢を放ってきた騎士達が混乱しながら私を迎え討つ。
でも残念……
ローウェルさんくらいに動けないと、私は止められないよ!
私が一撃お見舞いすると、騎士が吹き飛んでいく。
起きてこないでよね。
必要以上に怪我はさせたくないんだから。
と、そこへ私目掛けて火の玉が飛んできた。
「ぇ……」
騎士を殴り倒していたから反応が遅れた。
なので、とりあえず火の玉も殴っておく。
すると意外にも火の玉は。あっさりと消えてくれた。熱かったけど。
「なっ! アイツ、魔法まで止めやがったぞ!」
「俺が援護するから、もう一回魔法を撃つんだ!」
なんか騎士達がワチャワチャしている。
まるで無双している気分だね。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
シラハ「死にかけたり、無双したり、よく分からない状況だ……」
リィナ「ねぇねぇ! あの矢を防いだスキルって私達と一緒にいた時に手に入れたヤツだよね?!」
シラハ「そうですよ、って唐突に現れますねリィナさん……」
リィナ「冒険者だからね! 何処にでも現れるわよ!」
シラハ「まさか城内で乱闘が行われてる時に現れるなんて……」
リィナ「えっ?」
シラハ「私を助けに颯爽と来てくれるなんて……」
騎士1「仲間が現れたぞ!」
騎士2「一緒に捕まえろ!」
騎士3「ノコノコ現れやがって! 後悔させてやる!」
リィナ「ち、違いますー! ただの通行人ですからー!!」
「何故シラハを斬ったのですか!?」
「言っただろう…これは貴様への罰だと」
「だから貴方が裁くと言うのですか!」
「そうだ、この娘も所詮は平民だ。一人死んだところで何の問題もあるまい?」
「そんな理屈で……!」
罰?
私の罰ってなに?
貴族の妹を名乗ったこと?
王城に忍び込んだこと?
貴族を殺したこと?
たしかにそれらは悪い事なのかもしれない。
でも……
それらは全部、お前達が始めた騒動が原因じゃない!
それなのに、お前達が私を裁く?
冗談じゃない!
絶対にお前になんか殺されてやるもんか!!
……でも右眼はともかく、喉を斬り裂かれたのは致命傷なはずだ。
傷を直接見たわけじゃないけど、出血を止めたくらいじゃ助からない。
どうしよう……詰んでる。
「ぐぁっ…!」
アルフリードさん?!
何があったの!?
アルフリードさんは無事?!
力の入らない私は顔を上げることも目を開くこともできない。
動いてよ私の体!
動いてアルフリードさんを助けないと!
でも死にかけの……もしかすると既に死んでいるのかもしれない私の体はピクリとも動かない。
ダメ…か……
私が諦めそうになると、右眼から熱が引いていくのが分かった。
気付けば呼吸も楽になっている。
これは……
衣服に付いた私の血はそのままだから気持ち悪いけど、今は文句を言ってられない。
あまりゆっくりしているとアルフリードさんが危ない。
アルフリードさんを助けるには……仕方がないか……
(【麻痺付与】)
私はスキルで私を押さえている騎士達二人を麻痺させる。
「な、なん…だ?」
「からだが……動か、な…」
騎士が私から手を離して、その場に崩れ落ちる。
「お前達、何をして……」
躊躇する事なく私を殺そうとしたセクハラ親父こと騎士団長のゼブルスが、騎士の異変に反応してこちらに視線を向けた。
「何故…貴様が生きている……」
「シラ…ハ?」
そこで漸く私に気付いたアルフリードさんが私の名を呼ぶ。
怪我はしているけど生きている……良かった。
よく見ればアルフリードさんは丸腰だった。
呼び出される前は、張り込みをしていたんだから当然だ。
そんなアルフリードさんに一太刀入れるなんて……
許さない……!
「貴様はたしかに死んだと思ったのだが……傷もない。祝福か何かか?」
ゼブルスが冷静に私の力の分析を行う。
間違ってはいるけど、取り乱したりする訳でもないのは、さすがは騎士団長って事なのかもね。
「さぁ? 貴方が裁きをし損ねただけなのでは?」
「ふざけるな。私の剣に付いた貴様の血も、貴様からこぼれ落ちた血も間違いなく本物だ。どのようにして私の剣を凌いだかは知らぬが、次はその首を刎ねてやる」
ゼブルスが剣を私に向けて構える。一応は警戒しているんだね。
でも……私はお前を許さないよ!
私は【竜気】【剛体】で身体能力を強化して、ゼブルスに接近する。
もちろん服の下は【竜鱗(剣)】で覆って身を守っている。
一撃で決めてやるっ!
ゼブルスが私に斬りかかってくるが、私はそれを落ち着いて腕で受け止める。
「なにっ!?」
ガギッという金属と金属がぶつかる音がして、ゼブルスが驚いたような声を出す。もしかすると驚いたのは音ではなくて、自分の攻撃が止められたからかもだけど。
父さん譲りの竜鱗と母さんお手製の服だもの、そこらの攻撃なんかが通るわけがない。
そして攻撃を止められて隙だらけのゼブルスに、もう片方の手を向ける。
「貴方には償いも反省も不要です」
「なにを……」
ゼブルスは何が起こるのか分かっていない顔をしている。
本当ならここで、アルフリードさんを傷つけたゼブルスを徹底的に痛め付けたいところだけど、この手の人間は周囲の人を平気で苦しめていく。
だから消す。
貴族を害するのは重罪だっていうのは知っているけど、これは譲る気はないよ。
それにゼブルスが改心してくれるだなんて、これっぽっちも思っていない。
「消えてください……私から言えるのは、それだけです」
「このっ……平民風情が!」
その平民に殺されるんだけどね。
「【竜咆哮】」
私の中から魔力がゼブルスに向けた手に集中し、それが放出される。
私から放たれた力はゼブルスを弾けさせ、その断末魔は直後に爆音でかき消された。
私が放った【竜咆哮】は城壁の一部を吹き飛ばしていた。
これは……こんな所に呼び出したゼブルスが悪いと思うんだ。
まぁ何にせよ、すぐに人が駆けつけてくるよね。
……その前に、やっておかないと。
「【鎌撫】」
私は麻痺させて動けなくした騎士に近付き、その首を切り裂いた。
「がっ…」
「ひっ!」
「シラハ、何をしてるんだ?!」
首を裂かれた騎士と、それを見ていた騎士がそれぞれ短い悲鳴をあげ、それをアルフリードさんが咎めるように止めてくる。
同じ騎士だもんね、気持ちはわかるよ。
でも……
「アルフリード様……手を離して…邪魔をしないでください」
「邪魔?! 君は今、何をしたかわかっているのか? 人を殺したんだぞ!」
「そんなの今更ですよ。冒険者は依頼で人を殺す事だってあるんですから」
「それは……」
「人殺しは許せないけど、人殺しをしようとするのを手伝うのは問題ないんですか?」
「どういう意味だ?」
「だってそうでしょう? 私は、この騎士達に押さえつけられていたんですよ? この騎士達は私にとっては人殺しとなんら変わらないんですよ」
「だが彼等は動けない! それなのに……」
「私も動けませんでしたよ? でも誰も助けてくれませんでした」
「助けられなかったのは僕の力不足だ……だけど、シラハが誰かを殺めるのを僕は見たくないんだ。――だから彼を殺すのは……待っ…」
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ゴメンね。早くしないと他の騎士が駆けつけちゃうから【麻痺付与】で動けなくさせてもらったよ。
「待て……シラハ……!」
アルフリードさんの制止を無視して、私はもう一人の騎士にトドメを刺す。
これで、さっきのゼブルスとアルフリードさんの会話を聞いた人はいなくなったね。
私を平民と知っていながら、妹として王城の中を連れまわしていたと知られれば、アルフリードさんの立場が悪くなるかもしれないからね。
我ながら、どうかと思うけど……
私は膝をついているアルフリードさんに視線を向ける。
「騎士の人達が、こっちに向かってきましたね。足音が沢山聞こえます」
【側線】がなくても、普通に聞こえそうなくらいの足音が響いてくる。
……もう、時間がないね。
「アルフリード様……。今回の件は、私がアルクーレにいたアルフリード様の妹を殺めて、成り代わり、王都に侵入した、とでもしておきましょうか」
「何を…言っている?」
穴はあるだろうけど、その辺は適当に誤魔化しておいて欲しい。
「なるべくアルフリード様やオーベル家、それとアルクーレ領主様に迷惑がかからないように、上手く全部私のせいにしちゃっておいてください」
「な……!」
アルフリードさんが絶句する。
驚いたとしても、納得して貰うだけの時間はないよ。
「アルフリード様」
アルフリードさんの視線が私に向けられる。
私はそんな視線に精一杯の強がりで笑顔を作り、大事な言葉を告げる。
「今まで……本当にお世話になりました。どうか、お元気で……
――――さようなら」
「っ! シラハ! ――くそっ! なんで体が動かないんだ!」
私を呼ぶアルフリードさんを背に、私は城内から出てきた騎士に向けて走り出す。
いくら私のせいにしようと、アルフリードさんの騎士人生にとって今回の件は汚点になってしまうはずだ。
だから、その印象が少しでも薄くなるように私は騒ぎを大きくする。
とはいえ、今から相手にする騎士達に恨みはない。
だから、動けなくなる程度に痛い思いをしてもらうとしよう。
そう思っていると、騎士の群れの中から素早い動きをした騎士が飛び出してきた。
もう貴方が出てくるんですか!
私は咄嗟に左腕を出して相手の騎士の袈裟斬りを受け止めた。
「ぐっ!」
「へぇ……真っ二つにしたと思ったんだがな。その服の下に何を仕込んでいるんだ?」
「それは乙女の秘密ですよっ!」
私が右腕を振るうと、斬りかかってきた騎士……ローウェルさんが飛び退いた。
まったく冗談じゃない。
受け止めた左腕の竜鱗が砕けたよ。母さんの服がなかったら腕が落ちてたかもね。
本当に怖い人だよ、ローウェルさんは……
「なぁ、覚えているか?」
ローウェルさんが私に向かって喋りだす。
何か言いたい事でもあるのかな?
「この国の敵にならないように気を付けろ、と忠告したはずだが?」
「色々ありましてね。詳しい事は、あっちで動けなくなっている方に聞いてくださいな」
「それより、もっと簡単な方法がある」
ローウェルさんが獰猛な笑みを私に向けてくる。
悪い予感しかしないよ。
「お前の手足の二、三本を斬り落として直接聞く、っていうのなんかどうだ?」
アウトですー!
ですよね、ローウェルさんはこういう人だよ!
そしてローウェルさんが再度、斬りかかってくる。
でも今度は、竜鱗を砕くまでの攻撃力はない。
そうか……!
最初は、飛び出してきて勢いをつけた一撃だったけど、今は違う。
私の体力を削ろうと手数を増やしている感じだ。
それなら普通に止められる。
「当たり前のように、こっちの攻撃を止めやがるな。どうなってるんだ?」
「それを教えると思いますか?」
「つまらねえヤツだ」
「自分の手足は大事ですので」
「ちっ」
そこ、舌打ちしない。
さて……困ったな。
ローウェルさんが足止めしている間に、他の騎士が弓を持ち出したりして包囲されちゃってるな。
やっぱり出し惜しみしてる場合じゃないね。
どのみち私は犯罪者になるわけだから、そこに化け物の肩書きが増えるくらいどうって事ないね。
私は【迷宮領域拡大】を使って、私とローウェルさんが戦っている足下周辺を自分の魔力で染めていく。
「魔法か? 魔法を使う瞬間に、お前の手足を斬ってやるよ」
「それは怖いですね……」
本当にやりそうだからね、この人は……
というか、ローウェルさんは魔力を感じ取れる人なの?
厄介だね……
でも私の狙いは分かってないはず! ……はず。
「そろそろ大人しく捕まっておけ!」
「冗談じゃないですよ!」
ローウェルさんの攻撃を凌いでいく。
普通の服だったら、大変な事になっていたね。
っと、ここだ!
【迷宮創造】!
「っ?!」
ローウェルさんがバランスを崩す。
私が【迷宮創造】で、足下に小さな窪みを作ったからだ。
そして、その好機を逃す私じゃあない!
「そこ!」
「ぐっ!」
私の身体能力増し増しの拳で、ローウェルさんが突き飛ばされる。
ようやく引き離せたよ……
「矢を放て!」
「?!」
ローウェルさんが飛んでったと思ったら、今度は矢が飛んできた!
アレを全部避けたり止めたりするのは無理……あ、【風壁】!
私は、私を狙って飛んでくる矢に向かって走り出した。
念の為に腕を前に出して頭を庇っておく。
矢が私に届く瞬間、見えない何かに矢が弾かれていく。
これは面白いかも……!
【風壁】を実戦で使うのは初めてだけど、勢いがつけば弾く力が強くなるみたいだし、条件が整えばなかなかに使えるスキルかもしれない。
検証に協力してくれた騎士達に感謝だね。
「な、なんだアイツは……矢の雨の中こっちに向かって走ってくるぞ?!」
「構うな! 撃ち続けろ!」
「来るぞ! 剣に持ち替えるんだ!」
矢を放ってきた騎士達が混乱しながら私を迎え討つ。
でも残念……
ローウェルさんくらいに動けないと、私は止められないよ!
私が一撃お見舞いすると、騎士が吹き飛んでいく。
起きてこないでよね。
必要以上に怪我はさせたくないんだから。
と、そこへ私目掛けて火の玉が飛んできた。
「ぇ……」
騎士を殴り倒していたから反応が遅れた。
なので、とりあえず火の玉も殴っておく。
すると意外にも火の玉は。あっさりと消えてくれた。熱かったけど。
「なっ! アイツ、魔法まで止めやがったぞ!」
「俺が援護するから、もう一回魔法を撃つんだ!」
なんか騎士達がワチャワチャしている。
まるで無双している気分だね。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
シラハ「死にかけたり、無双したり、よく分からない状況だ……」
リィナ「ねぇねぇ! あの矢を防いだスキルって私達と一緒にいた時に手に入れたヤツだよね?!」
シラハ「そうですよ、って唐突に現れますねリィナさん……」
リィナ「冒険者だからね! 何処にでも現れるわよ!」
シラハ「まさか城内で乱闘が行われてる時に現れるなんて……」
リィナ「えっ?」
シラハ「私を助けに颯爽と来てくれるなんて……」
騎士1「仲間が現れたぞ!」
騎士2「一緒に捕まえろ!」
騎士3「ノコノコ現れやがって! 後悔させてやる!」
リィナ「ち、違いますー! ただの通行人ですからー!!」
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そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。
ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!!
その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。
自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。
彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう?
ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。
(R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします)
どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり)
チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。
今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。
ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。
力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。
5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)>
5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります!
5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
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その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
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そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
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何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
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