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私の黒歴史がまた1ページ……

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 私はアルフリードさんと唇を重ねて確信した。
 でも……。
 どうして? というより、いつ? という疑問の方が大きい。

「んむぅ?!」

 考え事をしていると、アルフリードさんの舌が私の口をこじ開けようと動き出して心臓が止まるかと思った。
 でも、そのおかげで仕込みはできたはずだ。

 私はスキルを使って力を底上げすると、強引にアルフリードさんを引き剥がした。

 というか――

「調子に乗らないでください!」
「ぐはっ!」

 私は身を屈めると、アルフリードさんの顎を掌底で突き上げた。
 私の掌底で天を仰ぐアルフリードさんは、そのまま後ろに倒れた。脅威は去ったね……。辛い闘いだった。

 思いっきり後頭部から倒れたアルフリードさんキス魔を冷ややかな目で見下ろす。

 情状酌量の余地が無くはないんだけど、ここは被害者として毅然とした態度をとるべきだと思うんだよ。

「う……」

 アルフリードさんが身じろぐ。
 大丈夫そうかな?

「目が覚めましたか?」
「シラ…ハ」

 声に反応して私を見上げるアルフリードさんの顔色は悪い。これは体調が悪いのか、やった事に対する罪悪感からかは判別がつかない。

「何をしていたかは覚えていますか?」
「…………ああ」
「そうですか。……おかしい、と感じたのは何処からですか?」
「責めないのか?」
「責めませんよ。先程のがアルフリード様の意思なら、王都を囲う城壁に貴方を吊す事も辞さないのですが、そうではないですよね?」
「恐らく…としか言えない。僕自身なにが起きたのか分からなかった。急に周りが見えなくなって、君しか視界に映らなくて……それで……」
「まぁ、それは置いておきましょう。私が知っている症状とは少し異なりましたが、アルフリード様から魔薬の匂いがしました」
「なっ?! ま、待ってくれ! 僕は…!」
「落ち着いてください。分かっています、今日アルフリード様と最初に会った時も、合流してからも貴方からは魔薬の匂いなんてしませんでしたから」

 そう、アルフリードさんに詰め寄られた時に初めて魔薬の匂いに気が付いた。
 でも、今日アルフリードさんに会った時は二回ともアルフリードさんは汗をかいていた。
 もしその時すでに魔薬を摂取していたら、汗から魔薬の匂いを嗅ぎ取れたはずだ。……多分。

 いきなりで驚きはしたけど、とりあえずアルフリードさんには私印の【解毒液】を飲ませた。
 いつ飲ませたのか? 言わせないでよ恥ずかしい。

「殴られて少し落ち着いたのなら水場に行きましょう。なるべく水を飲んで体の中の魔薬を薄めましょう」
「以前とは逆だな……」
「そうですね。……立てますか?」
「ああ……」

 アルフリードさんが差し出した私の手をとって立ち上がる。良かった、普通に動けるみたいだね。
 とりあえず私が治したとはバレないように、応急処置的な事はしておかないとね。
 もう【解毒液】は人目につかないようにしないとね。騒がれるのは本当に疲れるから。

「あ……」
「どうかしましたか?」
「まだ少し足に力が入らない……。ちょっと歩けないかも……」
「あー……。確かに良い一撃が入りましたからね」
「うん。一瞬、星が見えた気がしたよ」
「緊急事態だったとは言え、すみませんでした」
「気にしないで……。僕が君にした事の方が、ずっと酷いんだから……」

 アルフリードさんもキスしたのを気にしちゃう人なのかな? さすがに私もキスは挨拶みたいなもの、とは言わないけどさ。
 まだ体が子供だからかな? いや、でも13歳なら少しは異性との接触に敏感なのかな?
 それは良いとして、とにかく移動してアルフリードさんに何か飲ませてあげないとね。

 でも動けない人を放置して飲み物をとりに行くのも良くないし……。
 仕方ないか……。

「アルフリード様、どうぞ」
「シラハ……それはなんの真似?」

 私はアルフリードさんに背中を向けて目の前にしゃがみ込む。

「背負ってあげようかと……」
「男として、それだけは断固として拒否するよ」
「治療の為には必要なんですから我儘言わないでください」
「なら、なにか飲み物を持って来てくれ! 僕はここで待ってるから」
「それで、もし誰かに襲われたらどうするんですか」
「それ…は……」

 アルフリードさんから魔薬の匂いがすると分かって、すぐに私が路地に引っ張ってきたので、今いる場所は人目につかない。

 だから、もし襲われたらアルフリードさんが危険なのだ。

「これ以上駄々をこねるのなら、お姫様抱っこしますけど……どうします?」
「我儘言ってすいませんでした……」
「わかっていただけて嬉しいです」

 無事に脅し説得に成功して、アルフリードさんが私の背中に覆い被さる。
 普通ならそのまま押し倒されるけど、私にはスキルがあるからね。

「よっ…こいしょっと……」

 別にアルフリードさんが重いわけじゃないんだけど、大きい物を背負おうと思ったら声に出てしまった。ちょっと年寄りくさいかな?

「少し不安だったけど、本当に持ち上がるんだね……」

 まぁスキル使ってますしね。これくらいは朝飯前です。

「今の僕達を他の人が見たら、荷物を背負って腰を曲げた白髪の女性に見えるのかな?」
「たしかにアルフリード様は荷物ですから間違ってはいないですね」
「いや、そしたらシラハがお年寄りに見えるのかなぁ――っあだ?!」

 いきなり失礼な事を言い出したアルフリードさん愚か者を地に落としてやった。私悪くない。後悔もしていない。

「なにも落とさなくても良いのに……」
「そうやって人を怒らせるのは変わってないんですね……」
「あ、いや、ごめんなさい!」

 アルフリードさんが地面に這いつくばって謝ってくる。
 失礼な事を言われても平気なんだけどね。私もちょっと年寄りくさいとか考えたし……。
 ただ――

「綺麗って言ってくれたのに……」
「え……?」
「なんでもないです!」

 ああもう! 私を綺麗と言ったのは魔薬でラリってる時のアルフリードさんなんだから、本音とも限らないじゃない!

 私だって女の子なんだから、褒められたら悪い気はしないもの……。とはいえ! 私はなんて恥ずかしい事を口走ってしまったんだ!
 うう……。私の黒歴史がまた増えてしまった。

「今日はもう帰りましょう」
「シラハすまない! 僕は……」
「アルフリード様の体調も心配ですし、今日はここまでです。また明日頑張りましょう」
「……わかった。また明日も頼む」
「と言っても、今日は食事しかしていないんですけどね」
「それを言わないでくれ……。それに君の話が聞けたから何もしていないわけでもないだろ?」
「そうですね」

 私は、もう一度アルフリードさんを背負うと周囲の人の奇異の目に晒されながら町中を歩く。

「シラハ、大丈夫か?」
「アルフリード様は軽いので平気です。しっかりと食べないとダメですよ」
「気をつけるよ」

 最近は夕食を抜いていたようだし、少し痩せたのかもしれないしね。気をつけてほしいものだ。

「そういえば、アルフリード様の家って何処ですか?」
「分からないで歩いていたんだね。でも、向かうのは訓練場の方でいいよ。騎士は寮住まいだから」
「なるほど」

 私は王城がある方へと向かって歩き出す。

「そうだ。アルフリード様は王様とお話しできますか?」
「唐突だね。急になに?」
「魔薬調査をしているお偉方が働いていないのに、それに気が付かないのなら、誰かが言わなきゃダメでしょうから」
「そう…だね」
「やっぱり難しいですか……」
「すまない……」
「いえ。こちらこそ無理を言ってすいません」

 自分の膝元で起きている事に気が付けない一国の王が、騎士の言葉を拾っている訳がない。
 そうなると、もう少し上の立場の人間に頼むしかないけど、今から領主様に頼むとなると時間が掛かる。

 それに、なぜ他領の貴族から進言がくるのか? と疑われでもしたら困るからね。
 となると、いつもの手を使うしかないね。

「シラハ?」

 私が黙り込んで思案していると、アルフリードさんが不安げに私の名前を呼ぶ。

「なんですか?」
「大丈夫か? なにやら考え込んでいたみたいだが……」
「大丈夫ですよ。もしアルフリード様が変な事をしようとしたら、どうやって痛い目にあわせようかと考えていただけなので」
「しないから! 痴漢野郎の話を聞いて、そんな事できるわけないだろう!」
「なら聞いていなかったら手を出していたと?」
「そ、それは……その……」

 照れるなよ。そこはすぐに否定しようよ。
 
「アルフリード様の不潔……」
「本当に君は容赦ないね……」

 なんの事ですかね。
 私は優しいと思うんですけど……。

 あ、たしか此処の近くに井戸があったはず。
 私は井戸に向かって移動し、アルフリードさんを下ろした。

「お水を汲むので少し待っていてください」
「世話ばかりかけさせて申し訳なくなるよ」
「それは言わない約束ですよ」
「え? そんな約束した?」
「お約束というヤツです」
「??」

 やはり、こっちの世界では通じなかったか……残念。これじゃ私がわけのわからないことを言っているだけだよ。
 私は誤魔化すように井戸水をアルフリードさんに差し出した。

 アルフリードさんは水を飲み干すと自分の足を動かし始めた。

「もう足も動くから背負わなくても大丈夫そうだよ」
「そうですか、それなら私はここで帰りますね。アルフリード様の事を聞かれてボロが出ても困りますし」
「それなら妹なんて言わなきゃ良かったのに……」
「私は今、冒険者カードはあまり使いたくないので咄嗟に出てきた誤魔化しが、それしかなかったんですよ」
「使いたくない? レギオラと揉めたとは聞いたが別に冒険者カードくらい使ってもいいんじゃないのか?」
「それとは、また別件ですね。帝国領でちょっと……」
「帝国領……。そうだ! シラハは向こうで行方不明になっていたんじゃなかったのか?! いきなり現れて何ともないようにしていたから、すっかり忘れていたけど……」

 そのまま忘れていてくれれば良かったのに……。

「えっと、なんかよく分からないんですけど、向こうの領主の息子に迫られて断って拐われて逃げて……みたいな?」
「全然分からないんだが?」
「まぁ、そんな感じで冒険者カードを使いたくないんです」
「ん? それじゃあ、王都にはどうやって入って来たんだ?」
「あ、いつもならもう寝てる時間だ。それではアルフリード様、私はこれで失礼します」
「話の逸らし方が下手というか雑! って、シラハ逃げるな! ああもう! 明日また話を聞かせてもらうからな!」

 私はアルフリードさんから距離をとって人気のない道まで走る。
 ふぅ、うまく逃げられたね。

 さて、と。
 なんで私がこんな事をしなきゃいけないのか分からないけど、とにかく一度見てみない事にはね……。

「【潜影】」


 私はスキルを使うと、体がズルリと影の中に沈み込む。

 嫌で仕方ないけど、もう一仕事といきますか。











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後書き
シラハ「なんか私、キスさせられたり服脱がされたりする事が多い気がするんですけど、女の子として扱われているんですかね……」
狐鈴「私はシラハを女の子として扱っているよ?」
シラハ「そうですか……。って、誰ですか?」
狐鈴「あ、作者です」
シラハ「貴様が諸悪の根源かぁー!!」
狐鈴「ぎゃああぁぁ?!」
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