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走り続けますよ

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 私達は次の日になると、すぐに村を出発した。
 昨夜酔い潰れた人達は、まだ宿屋で倒れたままだったけど、バッカスさんはフラフラしながら見送ってくれた。

 そして、順調ではない移動が始まる。

「ゔー……。悪りぃ停めて…無理」
「またかよ……。大丈夫かぁ?」

 カルロさんが馬車を停めると、デュークさんがすぐに物陰に移動する。
 
「辛そうですね、二日酔い」
「昨日あれだけ飲んでケロっとしてるシラハが恐ろしいよ……」

 私は、ちょっとズルしちゃってるからねー。

「僕は覚えていないけど、バッカスさんに飲み比べで勝ったんでしょ? とんでもないね、シラハは……」

 違うんですよ、フィッツさん。凄いのは私じゃなくてスキルなんです……。

「それにしても護衛に支障が出るまで飲むなんて、なに考えてるの?」
「フィッツだって朝起きた時に、頭痛いって言ってたし……」
「たしかに少し痛むけど、問題なく動けるから」
「うう……」

 リィナさんとフィッツさんに挟まれて、何も言えなくなるデュークさん。
 護衛依頼中に動けないんじゃ困るよね……。
 まだカルロさんが依頼人だから苦笑で済まされてるけど、他の人が相手だったら普通に苦情が出ると思う。
 お金払って雇った護衛が動けませんでした、なんて詐欺みたいなものだしね。

「二日酔いに効く薬とかってないんですか? たとえば解毒薬とか……」
「なんで、そこで解毒薬?」
「二日酔いに効くと言われるのはいくつかあるけど、どれも気休めみたいな物だよ」

 ふむ。
 私は【毒食】でアルコール中毒にならないと思ってるんだけど、毒としての種類が違うのかな?
 私にとって毒となる物は全部効かないみたいだし、ほんとチートってヤツだよね。

「あ、魔物が来てる。数は一体……あれはグランブルだね」
「ほんと、リィナさん凄いですね」

 リィナさんが魔物の接近を知らせてくれる。
 風向きによっては、匂いで気付くのにも限界があるので、あの目の良さは羨ましい。
 無い物ねだりしてもしょうがないんだけどね。

 私達はカルロさんと動けないデュークさんを置いて馬車から降りる。

 リィナさんがグランブルと呼んだ魔物を視認する。

 うん、牛だね。

 体が真っ青で角が少し大きいということを除けば、私が知っている牛と大差ないように思える。
 私は体が小さいから、魔物が大きく見えるけどね。

「あれはDランクの魔物だけど突進だけ気を付ければいいから、エアーハントよりは楽だね」
「油断は禁物だよ。前にデュークがあの二本の角に引っ掛かって、えらい目にあったからね」
「腕ざっくりやられてたもんね」

 聞いてるだけで痛いよ。
 動きは単調らしいけど、油断は駄目って事だね。

「距離があるうちは僕が矢を射掛けるから、二人は突進に注意しつつ攻撃。それを繰り返して相手を削ろう」
「分かったわ」
「分かりました」

 私は短剣を抜いて構えたが、そこで問題が発生する。
 正確には発覚した、だけど。

「短剣折れてる……」
「え?!」

 近くにいたリィナさんが驚いている。

(ハイオークとの戦闘で折れちゃった? たしかに、あちこち叩きつけられたから不思議ではないけど、どうやって言い訳すれば……)

 すでに接近しつつある魔物の事なんて頭の片隅にもなくなっていたけど、リィナさんが息を切らせて私に何かを渡してきた。

「あの馬鹿は動けないから、これ使って」

 リィナさんに渡されたのはデュークさんの持っていた剣だった。馬車まで取りに行ったのかな?
 他の人の武器なんて借りていいのかな?

「デュークは動けないし仕事をサボってるみたいなものだから、戦闘で折れちゃっても文句は言わせないわ」
「たしかにグランブルは硬いし、しぶといから手数があると助かるしね。いいんじゃない?」

 いいんだ。本人からの了承は貰ってないけど、敵も近いし有り難く使わせてもらお。

 私には少し長めな剣を引き抜くと、私達はグランブルに向き合う。

 グランブルはある程度近づいた所で一度立ち止まると、地面を蹴ってこちらに走り出してきた。

 そのグランブルにフィッツさんが矢を放つ。

 しかし矢尻が少し刺さる程度で、グランブルの走る勢いで弾かれたり途中で抜け落ちてしまう。

 そこでリィナさんが前へと走り出して、グランブルの突進をギリギリで回避する。

 リィナさんは回避しながらグランブルの横腹を槍で突いた。
 側面はそこまで硬くないのか穂先が刺さり、グランブルが
呻き声を上げる。

(【竜気】)

 私は魔物に向かう前にスキルを使う。
 そして私もリィナさんに倣って前に出ると、グランブルの角に当たる寸前で横へと体を逸らす。

 顔のすぐ側を角が横切るのはヒヤリとするね。
 闘牛士って、こんな肝が冷える事してるんだね……。

 横へ逸れた私は、剣をバットのように構えてフルスイングする。

 私は振るったバットでグランブルの脚を狙い、右の前脚と後脚を斬りつける。

 脚を斬られ上手く走れないグランブルが、その場で角を振り回すが、そこへフィッツさんが矢を撃ち込んでいく。

「モ゛オォォォ!」

 暴れまくるグランブルにリィナさんも隙を見つけて突いていく。

 剣は槍よりリーチが短いから、ああなると手がつけられないね……。

 だが傷が増え、血を流したグランブルの動きが次第に鈍くなっていく。

 そこへ私が一気に近付きグランブルの首に斬りかかる。

 血を撒き散らしながら最後の足掻きのように暴れるが、しばらくするとドスンと音を立てて地面に倒れた。

 倒れたグランブルにリィナさんが近付いて、何度か槍で突いて死んでいる事を確認する。

「うん、倒したね。フィッツ、シラハおつかれー」
「おつかれ。シラハも脚を切ったのは良かったよ」
「うんうん。おかげで楽だったね」
「ありがとうございます」

 まぁ単純に、脚が一番狙いやすかっただけなんだけどね。
 私、背が低いから。

 その後は、リィナさんとフィッツさんにくっついて、魔石と証明部位の剥ぎ取りをやってみた。

 それらが終わって馬車に戻ると、お礼を云ってデュークさんに剣を返したよ。
 やむを得なかったとはいえ、自分の武器を預けるとか嫌だろうしね。

「リィナには有無も言わさずに引ったくられた……」

 という感じにデュークさんは不貞腐れていたけど、リィナさんに――

「あんたの自業自得でしょ」

 って言われて不貞寝してしまった。
 二日酔いの状態で、よく馬車の中で横になれるね。余計に気持ち悪くなりそうだよ。

 あと喧嘩はしないでね。



 グランブルと遭遇して暫くすると、デュークさんがだいぶ二日酔いから立ち直ってくる。
 そしてリィナさんと他愛のない話をしながら、馬車で移動していた時だった。
 
「ん、何か言いました?」
「なんも言ってねえよ」

 男の人の声が聞こえた気がして、荷台に向かって聞いてみるがデュークさんは首を横に振る。
 おかしいな、たしかに聞こえた気がしたんだけどな……。
 
「大丈夫? もしかして疲れちゃった? 」
「そうなんですかね?」

 首を傾げていた私にリィナさんが体調を気遣ってくれるけど、疑問形で返してしまう。

 さっきから、誰かが遠くでコソコソ喋ってる感じがするんだよね。

 近くに誰かいる? でも匂いがしないし……とは言え、そのまま無視する事もできない。

 私はキョロキョロと辺りを見回すけど当然何も見当たらない。

「どうかしたの?」
「あ、いえ。誰か近くにいる、かも? みたいな……」
「え、うそっ?!」

 私の言葉にリィナさんも周囲を見回す。手綱握ってるのリィナさんなんだから、ちゃんと前も見ててね。

「あ、いた」
「えっ」
「今は左後方にある茂みに隠れてるね。相手は距離があるから見えてないと思ってるんだろうけど」

 私が声を聞き取ってリィナさんが見つける。これ最強だね。
 それより私から見えない位置にいる人の声がよく聞こえたね。これもスキルの影響なのかな……。

 そうなると考えられるのはコレかな。

【側線】周囲の音や振動に反応する。

 たしか側線って魚が水の中で、音や振動を感知する為の器官とかじゃなかったっけ……。
 まぁ、スキルは型破りな力だし考えるだけ無駄かな。

 腕や足が鎌の代わりになっちゃうくらいだし、深く考えるのはやめよう。うん。

「相手は何者ですかね?」
「こんな何もない所で、コソコソと後を付けてくるなら盗賊の類しかないんじゃない?」
「ですよね」

 私は荷台に顔を出して盗賊らしき人に付けられている事を伝える。

「なら夜営の時に襲ってくるだろうな」
「数が分からないから襲われたら危険だね」
「だな。どうする?」

 私が【夜目】を使って奇襲する事はできるけど、きっと止められるね。
 盗賊の姿を確認するにはリィナさんに協力してもらわなきゃいけなかったから、黙って片付ける事もできない。

 それなら……。

「クエンサの街って、このまま進んだ場合あとどのくらいで着きますか?」
「そうだな……。明日の昼くらいってところか」

 カルロさんが馬車の進行速度を計算して到着時刻を告げる。

「なら、これから休まず馬車を進ませる事はできます?」
「馬に無理をさせる事になるが、できなくはない……が、夜道は危険だぞ?」
「もし脱輪とかしたら、それこそ盗賊の餌食になる」

 皆の心配は分かるけど、盗賊と戦う方がリスクが大きいと思うんだよね。規模が分からないから。

「私は夜目が利くのは知ってますよね? でも馬車の運転はできないので、代わりに目になります。なので皆さんには手綱の方をお願いしたいです」
「たしかに何事もなければ一番危険は少ないか……」
「護衛対象も馬車の持ち主もカルロさんですし、カルロさんが決めてください」

 カルロさんは腕を組んで、しばらく悩んだあと顔を上げた。

「よし、お嬢ちゃんの案でいこう」
「なら、シラハは暗くなるまで寝ていなよ。御者台には僕が出るからさ」
「はい、お願いします」

 私はフィッツさんの提案で休ませてもらうことにした。




 
 そして辺りが暗くなり、馬車を走らせるには頼りない月明かりだけが夜を照らしている。

「こんな真っ暗な中、馬車を走らせる事になるとはな……」
「貴重な体験ですね。……あ、少し左に逸れてます」
「ほいよっ、と」

 時折、道から外れているのを修正するくらいで順調に馬車は進んでいく。
 暗闇の中で馬車を走らせるのは神経を使うらしく、そこは四人で適宜交代してもらっている。

「俺達は交代できるからいいけど、お嬢ちゃんは大丈夫なのか? ずっとじゃ気が休まらんだろ」
「寝ている時も気を抜けなかった森の生活よりはマシですよ」
「どんな生活してたんだよ……」
「それは秘密です」

 哀れみや同情が欲しいわけではないので、そこは喋るつもりはないよ。

 さすがに盗賊もこの暗闇の中での追跡は諦めたみたいだね。
 暗くなっても走り続けていたら、何やら慌ててる雰囲気は伝わってきたけど、それ以降は分からない。
 
 何かを喋ってるのは分かるんだけど内容までは聞き取れないんだよね。残念……。

 そして何度かの交代をして進んでいると、空が明るくなってくる。私の仕事はここまでだね。ふわぁ……。

「シラハ、おつかれ。交代するから寝てていいよ」
「ありがとうございます。おやすみなさぃ……」

 夜行列車ならぬ夜行馬車で夜道を突っ走ったおかげで、予定より早くクエンサの街に辿り着くことができた。

 

 本当はもっと、のんびりしながら色んな街に行けると思ってたんだけどなぁ……。










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後書き
シラハ「夜道を走るのも、昼間と変わらず退屈ですね」
リィナ「私には何も見えないから怖くてしょうがないけどね」
シラハ「あ、向こうの岩陰からリィナさんに熱い視線を送ってる方がいますよ」
リィナ「え、こんな暗い中で?」
シラハ「鼻息が荒いオークですけどね」
リィナ「超怖いやつじゃん!」

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