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第一章

覚醒――?

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    …………誰だ?



 今確かに聞こえた。聞こえたと言うよりも、俺の頭の中に直接語りかけているような。



  男の子、女の子、どちらともとれる中性的な柔らかい囁き声。



  楓……?



   そんな馬鹿なことあるか。窮地に立たされてしまったせいで頭がおかしくなり、とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったか。
















  だがしかし――冷めていく俺の頭とは対照的に、体の内側からは焼きつけるような熱が膨れ上がってきていた。















 ――ドクン。


 後悔の念が渦巻く胸の奥で、何かが弾けた。


 自然と魔力が高まっていく気配。


 雷を出す時とはまた違う、みなぎっていく力。


 この力が何なのかは分からない。


 俺の意識は、脳は、頭は、目は、尚も勢いよく連なる赤い火の檻にだけ向けられていた。


「あいつなんか様子がおかしくねーか?」


「ディラン君……?」


 先生は言っていた。大事なのは、イメージすることだと。


 俺はただ、この湧き出てくる魔力を駆使して、炎を消し去るイメージをすればいいだけ。





 一筋の光線が上空から降り注いだ。





「僕の魔法が――」


 炎が完全に浄化されたわけではない。人一人通れるぐらいの穴が開いただけだ。


 足が動く。徐々に前へ加速していく。


 後ろから追ってくる様子は感じ取れなかった。呆気にとられているのだろうか。大丈夫、俺も自分で何をしているのか分かっていない。


 だが使えるものは、使うに越したことない。

 







 瓦解していく年季の入った屋敷。中に取り残されていた場合、救助できたとしても、その後はどうか……。


「ゼロ! シノリア! ミラ! いるなら返事してくれ!」


 駄目だ。火事の音で俺の声がほとんどかき消されてしまう。


 こうなったらもう一度やってみるしかない。


 俺は再び、どこからか湧き上がる魔力を解き放つイメージをする。


 今回はさっきとは比にならない、屋敷全体を包み込む光線。建物そのものは傷つけずに、炎だけを無に帰す魔法。


 ――数秒後、音もなく降り注いだ黄色い閃光により、屋敷は消火活動を終えたような、半壊した無残な姿をさらけ出した。


「まさか雷でこんなことができるとは……くっ………」


 成功の喜びで一瞬気が抜けたのか、それとも魔力を消費しすぎたのか、一気に力が抜け膝に手をついてしまう。


「みんな……」


 ここで倒れてしまっては元も子もない。痙攣しだして震えるふくらはぎを叩き、己を鼓舞する。


 入り口と思われる場所にたどり着いた。


 もしかしたらさっき俺を追いかけてきたシノリアが近くにいるかもしれない。



「シノリ――」



『ア』は言えなかった。














「――ほらあ、やっぱりさっきの子じゃん! リュウとコフは何やってるのよ!」


「……あれだけの魔法を一人で……。なるほど……リュウがほしがるわけだ……」


 男と女の声。


 と同時に、無数の黒い塊が間髪入れずに空から突き破ってきた。



 鳴り止まぬ爆発音。野球ボールほどのその黒い塊それぞれが小型の爆弾のように、着弾と同時に轟音。そして周囲を更地に染め上げる。


 残されていた僅かな希望が、絶望に変わった瞬間だった。


 恐らくリュウの言っていた二人の見張り。これは嘘ではなかった。


「何なんだよこれ……」


   掠れ切った俺の声音と呼応するように、深い脱力感が襲いかかり、俺は崩れるようにして地に膝をつく。


 つい今しがたまで無限のようにみなぎっていた力が、みるみるうちに萎んでいく。



 これが魔力枯渇状態の『リアー』か……。 


    こんなに大きな威力の魔法を出してしまったんだ。当然と言えば当然か――


   まるでどこからか、見えない掃除機で身体中のエネルギーを根こそぎ吸い取られていく感覚だ。


 最早やつらに対抗する手段はおろか、自身の身体さえ満足に動かせない。

 


 
 ――先生、俺がこの世界に来た理由って、先生からみんなを奪うことですか……?





 薄れゆく景色の中で、屋敷の真反対に立つ、敵の姿を辛うじて補足する。


 また黒ローブか。異世界のトレンドなのか?


 両膝をついて肩で何度も呼吸を繰り返す俺は、最後の力を振り絞って小さな手を二人に向け――


 















 それが精一杯だった。






「ごめん……ごめんなさい…………」




 全てが暗闇に閉ざされた。

 
  



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