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第一章
魔法と七つの属性
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「遅かったなお前たち!」
目印となる大樹の前で腕を組んで仁王立ちする一つの人影。樹齢千年と言われても不思議ではないほどの巨木を背中に従えているようなその姿は遠目から見ても大きく見えた。
「先生が早すぎるだけだよ……」
隣で呟くゼロに俺も同意見だ。俺たちが出発した時は椅子にふんぞり返っていたはずなのに、これが何か魔法でも使って先回りしたというのか。
俺たちはまるでRPGゲームのラスボスのような恰好で佇んでいる先生の元に集まった。
「よし、ではいつも通り午前中は各々で特訓して、昼から模擬戦といくか」
先生が言い終えるや否や、ゼロたちは互いに干渉し合わないように散開する。それはいつものルーティンのようなものでその記憶は俺にもあり、無限に草木が生え続けているような広大な草原で散っていく少年少女の後ろ姿をただぼんやりと眺めるだけの俺。
それで、俺はここからどうすればいいんだ? もちろんディランであるこの身体が魔法を行使した記憶はちゃんとある。けどさすがに、頭の中にあるからと言ってやったことのないことをできるわけがない。
「――お前はこっちだケイスケ」
突然気配なく後ろから肩を組んできた先生に、俺は思わず飛び上がりそうになりつつも若干の安堵を覚えた。
「昨日言っただろ? お前だけ特別メニューだと」
「……正直助かります。僕の世界じゃ魔法なんて完全に想像上の概念なのでどうすればいいのかさっぱりで……」
「そうだな……ディランの記憶があるなら基本的なことは理解していると思うが、確認の意味も込めて少しおさらいするか」
時折吹く涼し気な風に揺られる木の葉の音を聞きながら、先生は右手を前にやる。
「この大気中には、酸素や窒素とは別に、目に見えない魔力が漂っているんだ」
「ここに……何も感じませんけど……」
「そりゃそうだ。酸素だってここに酸素があるとか、息を吐いてこれが二酸化炭素だとか触れて感じるものではないだろ?」
「確かに……」
「けど魔力は人の体内に取り込むことで感じることができる――こんな風にな」
――直後、掲げた先生の手のひらが赤く発光し、そこにテニスボールほどの大きさの炎が宿った。
「すごい……これが魔法……」
「体内に取り込んだ魔力を再びエネルギーとして体外に放出し、それを具現化させたものが魔法だ。私は火属性だからな、主に炎を操作する」
「たしか属性は全部で火・水・雷・風・土・闇・光の七属性……でしたよね」
「そうだ、この世界の人間は皆何らかの適性があり、遺伝によるものもあるがその規則性は未だに謎。確かに判明していることは、一人一属性ってことだ」
手を軽く振って炎を消した先生は、離れたところで特訓をしている愛弟子を順で目で追っていく。
「シノリアは風属性、人一人ぐらいなら浮き上がらせることは可能だし、風の刃は攻撃防御共に万能な武器になる。ミラは水属性、あいつは頭がいいから様々な状況に対応できるよう技のレパートリーも多い。水の弾丸や、鞭、縄といった近中長距離全ての攻撃手段を持っている」
そこまで言ったところで、先生の口が止まる。俺と先生の視線の先にいるのはゼロ・フォークス。属性は闇。
「七属性の中でも、特に光と闇の適性を持っている人間はなぜか極端に少ないんだ。だからあいつの指導は私も合っているのか悩ましい」
ゼロは何をしているのだろう。風船のような漆黒の玉を宙に浮かべているけど、残念ながら俺にはこれっぽちも理解できなかった。
「そしてお前だ」
再び俺に向き直った先生は俺の頭に手を置いて、くしゃくしゃと乱暴に髪をこする。
ややくせ毛が強調された、金色の髪の毛。その髪の色から連想されるようにディラン・ラーシュこと俺の属性は、雷だ。
雷属性の魔法使い。
それが異世界に転生した俺の置かれた立場だった。
「雷属性自体は私の知り合いにも何人かいるし、それほど珍しくもない。とりあえず何かやってみろ」
「はい?」
無茶言うな。
目印となる大樹の前で腕を組んで仁王立ちする一つの人影。樹齢千年と言われても不思議ではないほどの巨木を背中に従えているようなその姿は遠目から見ても大きく見えた。
「先生が早すぎるだけだよ……」
隣で呟くゼロに俺も同意見だ。俺たちが出発した時は椅子にふんぞり返っていたはずなのに、これが何か魔法でも使って先回りしたというのか。
俺たちはまるでRPGゲームのラスボスのような恰好で佇んでいる先生の元に集まった。
「よし、ではいつも通り午前中は各々で特訓して、昼から模擬戦といくか」
先生が言い終えるや否や、ゼロたちは互いに干渉し合わないように散開する。それはいつものルーティンのようなものでその記憶は俺にもあり、無限に草木が生え続けているような広大な草原で散っていく少年少女の後ろ姿をただぼんやりと眺めるだけの俺。
それで、俺はここからどうすればいいんだ? もちろんディランであるこの身体が魔法を行使した記憶はちゃんとある。けどさすがに、頭の中にあるからと言ってやったことのないことをできるわけがない。
「――お前はこっちだケイスケ」
突然気配なく後ろから肩を組んできた先生に、俺は思わず飛び上がりそうになりつつも若干の安堵を覚えた。
「昨日言っただろ? お前だけ特別メニューだと」
「……正直助かります。僕の世界じゃ魔法なんて完全に想像上の概念なのでどうすればいいのかさっぱりで……」
「そうだな……ディランの記憶があるなら基本的なことは理解していると思うが、確認の意味も込めて少しおさらいするか」
時折吹く涼し気な風に揺られる木の葉の音を聞きながら、先生は右手を前にやる。
「この大気中には、酸素や窒素とは別に、目に見えない魔力が漂っているんだ」
「ここに……何も感じませんけど……」
「そりゃそうだ。酸素だってここに酸素があるとか、息を吐いてこれが二酸化炭素だとか触れて感じるものではないだろ?」
「確かに……」
「けど魔力は人の体内に取り込むことで感じることができる――こんな風にな」
――直後、掲げた先生の手のひらが赤く発光し、そこにテニスボールほどの大きさの炎が宿った。
「すごい……これが魔法……」
「体内に取り込んだ魔力を再びエネルギーとして体外に放出し、それを具現化させたものが魔法だ。私は火属性だからな、主に炎を操作する」
「たしか属性は全部で火・水・雷・風・土・闇・光の七属性……でしたよね」
「そうだ、この世界の人間は皆何らかの適性があり、遺伝によるものもあるがその規則性は未だに謎。確かに判明していることは、一人一属性ってことだ」
手を軽く振って炎を消した先生は、離れたところで特訓をしている愛弟子を順で目で追っていく。
「シノリアは風属性、人一人ぐらいなら浮き上がらせることは可能だし、風の刃は攻撃防御共に万能な武器になる。ミラは水属性、あいつは頭がいいから様々な状況に対応できるよう技のレパートリーも多い。水の弾丸や、鞭、縄といった近中長距離全ての攻撃手段を持っている」
そこまで言ったところで、先生の口が止まる。俺と先生の視線の先にいるのはゼロ・フォークス。属性は闇。
「七属性の中でも、特に光と闇の適性を持っている人間はなぜか極端に少ないんだ。だからあいつの指導は私も合っているのか悩ましい」
ゼロは何をしているのだろう。風船のような漆黒の玉を宙に浮かべているけど、残念ながら俺にはこれっぽちも理解できなかった。
「そしてお前だ」
再び俺に向き直った先生は俺の頭に手を置いて、くしゃくしゃと乱暴に髪をこする。
ややくせ毛が強調された、金色の髪の毛。その髪の色から連想されるようにディラン・ラーシュこと俺の属性は、雷だ。
雷属性の魔法使い。
それが異世界に転生した俺の置かれた立場だった。
「雷属性自体は私の知り合いにも何人かいるし、それほど珍しくもない。とりあえず何かやってみろ」
「はい?」
無茶言うな。
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