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第一章
一夜明けて
しおりを挟む翌朝。
一晩眠れば、何事もなかったかのように元の世界の自分の部屋のベッドで目を覚ますかもと、淡い期待を抱いていたがそれも無残に散った。
朝食の席ではゼロたちから昨晩の先生との対談についてしつこい質問攻めを受けたけれど、先生がうまいこと言い収めてくれた。
どっちかというとこれは訝しがるというよりも、子供の好奇心のようなものなので、特に心配するようなことではなかった。
「よしお前ら! 片付けが済んだらさっそく始めるぞ! いつもの場所に集合な!」
朝っぱらから元気はつらつなかけ声を出す先生。声帯の作りが普通の人と違うのだろうか。俺は先生と昨日のことや、これからのことについて話したいことがたくさんある。けど二人きりにならない限りはそれも無理なわけで……。
「なにぼさっとしているのよディラン、置いていくわよ!」
シノリアに小突かれた俺は、渋々家を後にすることになった。
俺、ゼロ、シノリア、ミラの四人が今向かっているのは、街を出て二十分少々歩いたところにある、神木のような大樹が一本目立つ草原だ。
この異世界は、元の世界のようなスマホやテレビ、車などの科学文明はほとんど発展していないに等しい。それとは逆な形で魔法が活発となり、人々の暮らしをそれで補っているようだ。
俺は今まで暇があれば、無意識のうちにスマホの画面を開いていたので、これからはどうやって過ごそうか。
自分でもなぜだかは分からないが、そんな呑気なことを考えられるぐらいには、全くの別人に転生したということを受け入れられていた。
自分が異質の存在であると知ってくれている人がいるという安心感が、そうさせてくれているのか。あるいは、またそれもディラン本来の心によるものなのか……。
この世界の基本の移動手段は徒歩で、魔法による空中飛行や、身体強化で高速で移動できるようにはなるらしい。
ちなみに今俺たちが暮らしている街は『リクル』という名の街で、広さは端から端まで移動するのに子供が歩いて三~四時間といったところ。これが大きいのかそうでないのかは、比較対象がないので不明。
街の外はほとんど自然であふれかえっており、森を抜けたり川を渡るとまた別の街があり、そしてどこかには王様やお姫様が住んでいる城のある都市が存在している。
――というのが、ディランの持っている知識だ。ディラン自身、記憶にあるのはこの街とその周辺だけなのでこの世界が地球のような形をしているのか、国は一つだけなのか、などは全く知っていなかった。
また機会があれば先生に訊こう。
――と、俺が一人考えに耽っていると、三人は先生の誕生日の話題で盛り上がっていた。
「きれいな指輪とかあったらわたしももらっていこうかな」
シノリアが白銀の髪を揺らしながら軽やかな足取りで進んでいる。朝日に照らされながらも、一際輝きを放つそのシルエットにやはり油断するとつい心を奪われそうになる。
「僕はやっぱり魔剣とががいいかな、ねえディラン?」
俺の怪しい視線に気づいたのか、ゼロが俺だけに分かるように口角を上げた笑みを見せる。俺はぎくりとしながらも笑って頷きゼロに同意する。
どうやらシノリアに対するディランの想いは相当強いようで、シノリアが視界にしっかり映っている間は感情を乗っ取られている気分だ。てか魔剣なんてものもあるのか。
「みんなこれ先生のプレゼントを見つけるためだからね。わかってる?」
ミラがやれやれと溜め息まじりに首を振る。一つしか違わないといえど、年下にたしなめられるって……。昨日も少し感じていたことだけど、このミラとゼロは、やけに雰囲気が大人びているんだよな……。
俺が十歳ぐらいの時ってもっと馬鹿らしいっていうか本能に忠実的っていうか、とにかく周りも自分もこんな落ち着いた口調で話したりするような子供ではなかったのは確かだ。それともこの世界ではそれが普通なのだろうか。
「それじゃあ、お宝大発掘作戦は明日の夕方ってことでいいわねみんな!」
「先生のプレゼント探しね」
「分かっているわよミラ! それもふまえてのこの作戦名なんだから!」
「どうだか」
少女二人がじゃれ合いながら進む背中を追いながら、シノリアだけはただの子供だと内心ホッとしていた。それにしても、先生に誕生日プレゼントを渡すのはいいとして、どうしてそれが人が寄り付かない森の奥にある古びた屋敷の戦利品になるんだ。
もっと他に、例えば先生が気まぐれでくれるなけなしのお小遣い――この世界でも貨幣制度は整っている――で何か物を買ったりするのではいけないのだろうか。
と、反論したい気持ちがあるが、明日に迫った今さら、それがまかり通ることは確実にないしなんだかんだ屋敷の探索を楽しみにしているみんなを見ていると、まあいいかって思ってしまう。
そうこうしているうちに、俺達は目的の場所へとたどり着いた。
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