上 下
96 / 107

私に考えがあります(マリルノ視点)

しおりを挟む
馬車は、目的地に到着しました。

私は御者の方にお礼を言って、到着した建物の方に向かいました。

「あら、マリルノ様」

顔見知りの方が気付いてくださり、私を出迎えてくださいました。

「本日、こちらに来られるご予定が……」

「いえ。すみません、事前の連絡なく来てしまったのです。

タラレッダさんはいらっしゃいますか?」

「そうでしたか。すぐにお呼びいたします」

「すみません、よろしくお願いいたします」

私が訪れたのは、元婚約者であるペドロル様が住まれていたお屋敷。

今もまだ主人不在のまま、タラレッダさんをはじめとして以前から働かれている方が、管理・維持されているお屋敷です。


「マリルノ様! ようこそいらっしゃいました」

タラレッダさんは、いつもと変わらぬ快活な様子で私を出迎えてくださいました。

「ごきげんよう、タラレッダさん」

「さぁ、中へお入りください。本日はどうなさったのですか?」

「いえ、ここでも構いませんか?少しお話させていただきたいのですが」

私はお屋敷の前庭で、タラレッダさんに言いました。

「はい。構いませんよ。どうなさったのです?」

「実は……アルダタさんとの手紙のやりとりが、急に途切れてしまったのです」



タラレッダさんは、眉を顰めました。

「それはそれは、申し訳ございません。アルダタが、マリルノ様に大変失礼なことを……」

「違うんです、これを見てください」

私は持ってきた手紙を、タラレッダさんに見せました。

「これは……」

「私がナテナに送った手紙です。

いつも向こうにある配達屋さんで渡してもらっていたのですが、どうやら受け取り期限が過ぎてしまったらしく、こちらに戻ってきたのです」

タラレッダさんの顔が深刻なものに変わりました。

「じゃあアルダタは、しばらく手紙の受け取り場所に寄れていなかったということでしょうか」

「そうなんです」

私は頷いて、彼女に説明しました。

「もしかしたら私の送った手紙が、こちらの国に帰って来ている彼と入れ違いになったのかなと思って。それでこのお屋敷に伺わせていただいたのです。

アルダタさんから、何かご帰国に関する連絡などはありましたか?」

タラレッダさんは首を振りました。

「いいえ。

事前の話では、帰国の目途が立ち次第こちらに一報入れるとのことでしたが……今のところ、何の連絡も来ておりません」

「そうでしたか……」


ただ手紙のやり取りが途絶えただけ。

しかし私は、妙な胸騒ぎを覚えていました。

誠実なアルダタさんが、私との文通を大切なものだと考えてくださっていたことは、これまでに受け取った手紙からひしひしと感じていました。

ですから、そのやり取りが何の前触れもなくぷつりと切れてしまうというのは……

何らかの不可抗力があったとしか、私には思えませんでした。


「そうだ。

マリルノ様、私、良い考えを思いつきました」

「えっ?」

顔を上げると、タラレッダさんは自信のある表情をされていました。

「ちょっと来ていただいてもよろしいですか?」

「は、はい!」

タラレッダさんはどっしりとした歩幅で、ずんずん歩き始めました。

私は置いていかれないよう、小走りで彼女の後を追いかけました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

王太子から婚約破棄されて三年、今更何の用ですか?!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「やはり君しかいない、君こそ私が真に愛する人だ、どうか戻って来て欲しい」ある日突然ユリアの営む薬屋にリンド王国の王太子イェルクがやってきてよりを戻したいという。  だが今更そんな身勝手な話はない。  婚約者だったユリアを裏切り、不義密通していたユリアの妹と謀ってユリアを国外追放したのはイェルク自身なのっだ。  それに今のユリアは一緒についてきてくれた守護騎士ケヴィンと結婚して、妊娠までしているのだ!

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

処理中です...