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人の温もり(マリルノ視点)
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尽きないおしゃべりの中で、盛り沢山だったはずのスイーツはあっという間にテーブルから消えました。
「そろそろお暇しましょうか」
「えー! もう?」
すっかりまわりのお手伝いさんたちと打ち解けたスコッテは、目当てのスイーツがなくなってもこの場から帰りたくないという様子です。
「あなたのお母様が心配されますよ」
私は部屋にあった時計を示しました。
スコッテはぴょこんと飛び上がりました。
「ほんとだ! もうこんな時間!」
私は立ち上がって、タラレッダさんにお礼を言いました。
「タラレッダさん。今日は本当にありがとうございました」
「お礼を言うのは私たちの方ですよ」
腰を上げたタラレッダさんは、そう言って鼻を啜りました。
心なしか、目が赤くなっています。
「もう何十年もこのお屋敷に仕えてきましたが、こんなに幸せな時間を過ごしたのは初めてです。
みんなが同じ時間に仕事の手を止めて、こんな素敵なパーティーの仲間に入れてもらえるなんて……」
「またいつでもやりましょう」
私はタラレッダさんの手を取りました。
「だって私たちは、友人同士ですもの」
タラレッダさんは、私のことをひしと抱きしめてくださいました。
スコッテ、私という順に、パージさんの馬車で送り届けていただきました。
スコッテは自宅の前に到着すると、私の手をぎゅっと握り、とても真剣な顔つきで私に言いました。
「次のパーティーも、必ず呼んでね」
私はくすくす笑って、「はいはい。では、ご機嫌よう」と彼女を馬車から送り出しました。
「すみません、帰りまで送ってもらって」
自宅の前に着くと、私はパージさんにお礼を言いました。
パージさんは馬のように穏やかな瞳で、私のことを見つめました。
「何の問題もありません。
夜中に叩き起こされて走ることに比べたら、どんなに楽なことでしょう」
眉を上げ、おどけた顔をするパージさん。
人使いの荒いペドロル様の下は、どうやらとても大変だったようです。
「あなたには、屋敷中の使用人が感謝しているんです。
これからも私たちに出来ることがあれば、なんでも喜んでさせていただきますから」
「ありがとうございます。それではお気をつけてお帰りください」
「ええ、また」
私が屋敷の中に入ると、外から威勢のいい馬の鳴き声と、馬車の動き出す音が聞こえました。
良い人たちばかりに囲まれて、私は本当に幸せ者ですね。
「おかえりなさい……
マリルノ、何かあったの?」
「ただいまかえりました。いえ、違うんです」
拭った端から、ぽろぽろと涙がこぼれてしまいます。
「周りの皆さんが、私に、これ以上ないというほどに優しくしてくださるのです……
こんなにも幸せで、良いのでしょうか?」
お母様はそっと私を抱きしめると、幼い頃からやってくれていたように、背中をさすってくださいました。
ちょっと恥ずかしかったけれど……でも気がつくととても大きな安心感に包まれていました。
「もっと自分に優しくなさい。マリルノ」
「そろそろお暇しましょうか」
「えー! もう?」
すっかりまわりのお手伝いさんたちと打ち解けたスコッテは、目当てのスイーツがなくなってもこの場から帰りたくないという様子です。
「あなたのお母様が心配されますよ」
私は部屋にあった時計を示しました。
スコッテはぴょこんと飛び上がりました。
「ほんとだ! もうこんな時間!」
私は立ち上がって、タラレッダさんにお礼を言いました。
「タラレッダさん。今日は本当にありがとうございました」
「お礼を言うのは私たちの方ですよ」
腰を上げたタラレッダさんは、そう言って鼻を啜りました。
心なしか、目が赤くなっています。
「もう何十年もこのお屋敷に仕えてきましたが、こんなに幸せな時間を過ごしたのは初めてです。
みんなが同じ時間に仕事の手を止めて、こんな素敵なパーティーの仲間に入れてもらえるなんて……」
「またいつでもやりましょう」
私はタラレッダさんの手を取りました。
「だって私たちは、友人同士ですもの」
タラレッダさんは、私のことをひしと抱きしめてくださいました。
スコッテ、私という順に、パージさんの馬車で送り届けていただきました。
スコッテは自宅の前に到着すると、私の手をぎゅっと握り、とても真剣な顔つきで私に言いました。
「次のパーティーも、必ず呼んでね」
私はくすくす笑って、「はいはい。では、ご機嫌よう」と彼女を馬車から送り出しました。
「すみません、帰りまで送ってもらって」
自宅の前に着くと、私はパージさんにお礼を言いました。
パージさんは馬のように穏やかな瞳で、私のことを見つめました。
「何の問題もありません。
夜中に叩き起こされて走ることに比べたら、どんなに楽なことでしょう」
眉を上げ、おどけた顔をするパージさん。
人使いの荒いペドロル様の下は、どうやらとても大変だったようです。
「あなたには、屋敷中の使用人が感謝しているんです。
これからも私たちに出来ることがあれば、なんでも喜んでさせていただきますから」
「ありがとうございます。それではお気をつけてお帰りください」
「ええ、また」
私が屋敷の中に入ると、外から威勢のいい馬の鳴き声と、馬車の動き出す音が聞こえました。
良い人たちばかりに囲まれて、私は本当に幸せ者ですね。
「おかえりなさい……
マリルノ、何かあったの?」
「ただいまかえりました。いえ、違うんです」
拭った端から、ぽろぽろと涙がこぼれてしまいます。
「周りの皆さんが、私に、これ以上ないというほどに優しくしてくださるのです……
こんなにも幸せで、良いのでしょうか?」
お母様はそっと私を抱きしめると、幼い頃からやってくれていたように、背中をさすってくださいました。
ちょっと恥ずかしかったけれど……でも気がつくととても大きな安心感に包まれていました。
「もっと自分に優しくなさい。マリルノ」
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