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探偵する使用人(2)(タラレッダ視点)
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私はパージ爺さんに礼を言って馬小屋を離れた。
どうやらアルダタは、マリルノ様のお屋敷に行ったわけじゃないらしい。
だとしたら、どこに行ったんだ?
ちょっと、普段の彼の予定を考えてみようかね。
マリルノ様のお相手をした後、向こうの屋敷へは行かずここに残っていたとしたら、そのあと彼は何をするだろう。
……そうだ。今日は荷運びのダグラスが来る予定の日じゃなかったかね。
ダグラスはアルダタ坊やの叔父にあたる人だ。荷受けのときによく話しているから、今日も挨拶くらいは交わしたかもしれないよ。
坊やに会ったかどうか、ひとまず聞いてみようじゃないか。
私は屋敷の別館、使用人たちが寝泊まりする部屋の一つに向かった。廊下の突き当たりにある部屋だ。
普段は誰も使っていない、いわば予備のような部屋で、ダグラスが来た時は、この部屋で一泊することが多い。
近くまで来ると、扉の向こうから何か物音がして、そこに誰かいるのがわかった。
私は扉をノックして言った。
「誰か使っているかい?」
音が止まって、部屋の中の人物がこちらに意識を向けている気配が伝わってきた。
それから重たい足音が近づいてきて、部屋の扉が内側から開いた。
「よぉ、タラレッダか」
扉の隙間から顔を覗かせて言ったのは、アルダタの叔父、ダグラスだった。
私は返事するよりもまず、においの異変に気がついた。
うっ、なんだいこれは。
もしかして……
「あんた、酒はやめたんじゃなかったのかい」
「あ、うん……いや……ちょっとな」
ダグラスはしどろもどろで答えた。
別に仕事しているときに飲んでたんじゃなければ、私には関係ないけどさ。
「まぁいいよ。あんた、今日の昼はアルダタに会ったかい?」
「……会ったよ」
「そうかい」
じゃあ昼過ぎまで、坊やは屋敷にいたってことなんだね。
「どうかしたのか?」
「いやね、アルダタの坊やがちょいと見当たらないんだ。何か仕事を頼まれて出て行ったんだと思うんだが、他の使用人たちも知らないっていうから気になってね」
「……いつからだ?」
「えぇ?」
酒が回ってんだか、何を言っているのかよく聞こえないよ。
「いつから、っ、姿がない?」
ほら、しゃっくりまでしてるじゃないか。
「ちょうど今、それを確かめているところだよ。とりあえずあんたが会ったってとこまでは確認できたね。でもその後も屋敷にいたんなら、誰か一人くらい姿を見たって子がいてもおかしくないんだがね……ちょっと、大丈夫かい!」
びっくりだ!いきなりその場に崩れ落ちちゃってさ。
こりゃ相当飲んだみたいだね。
何やってんだい、ほんと。
「大丈夫か、あんた。ほら、肩貸すよ」
「タ、タラレ、タラレッダ。聞いてくれ」
「ん? 何だい」
ひとまずこいつをベッドまで移動させないと……
それにしても重いね! この酔っ払いは。しっかり自分の足で歩いとくれよ。
「俺が原因かもしれん」
「原因? 何の話だい」
酔っ払いの戯言に付き合ってる暇はないんだけどね……
「アルダタは一人にしてくれって言ったんだ。それで町の方に向かって、ふらふら歩いて行っちまった」
よいしょ!
ふぅ……何とかベッドまで運べたよ……
今、何て言った?
「ちょっと待ってあんた。坊やと何かあったのかい?」
「……ん……」
「こら、寝るな! 起きろ!」
思わず頬を引っぱたいちまったよ。
「うう……そうだ、俺が間違ってたんだ……」
「何の話をしているんだい」
「あいつの母親……俺の妹のミリアが死んだんだ。もう三か月近くになる。
俺はずっと、それをアルダタに隠してたんだ」
……は?
私はダグラスの胸倉を掴んで引っ張り起こした。
「どういうことだい、それ! なんでそんなことした!」
「ペドロル様に口止めされた! しばらく教えるなって。
そうしなきゃお前の仕事はなくなるぞって脅された!
どうすりゃよかったんだ!」
何だよ、それ……またあのクソ王子が……
私は胸倉から手を離した。
「あんた、それをあの子に教えたのかい?」
「そうだ。今日の昼に。
あいつが手紙を書いたって言ってきて、これを母親に渡して欲しいって。ミリアが字を読めないのはもちろん知ってて、それでもいいからって言うんだ。
俺にはできなかった。あいつが書いた手紙を渡したことにするなんて、そんなことできなかったんだ。
そしたら、あ、あいつは……一人にしてくれって……どこに行ったか、わ、分からない、のか……?」
こりゃ、まずいことになったね。
どうやらアルダタは、マリルノ様のお屋敷に行ったわけじゃないらしい。
だとしたら、どこに行ったんだ?
ちょっと、普段の彼の予定を考えてみようかね。
マリルノ様のお相手をした後、向こうの屋敷へは行かずここに残っていたとしたら、そのあと彼は何をするだろう。
……そうだ。今日は荷運びのダグラスが来る予定の日じゃなかったかね。
ダグラスはアルダタ坊やの叔父にあたる人だ。荷受けのときによく話しているから、今日も挨拶くらいは交わしたかもしれないよ。
坊やに会ったかどうか、ひとまず聞いてみようじゃないか。
私は屋敷の別館、使用人たちが寝泊まりする部屋の一つに向かった。廊下の突き当たりにある部屋だ。
普段は誰も使っていない、いわば予備のような部屋で、ダグラスが来た時は、この部屋で一泊することが多い。
近くまで来ると、扉の向こうから何か物音がして、そこに誰かいるのがわかった。
私は扉をノックして言った。
「誰か使っているかい?」
音が止まって、部屋の中の人物がこちらに意識を向けている気配が伝わってきた。
それから重たい足音が近づいてきて、部屋の扉が内側から開いた。
「よぉ、タラレッダか」
扉の隙間から顔を覗かせて言ったのは、アルダタの叔父、ダグラスだった。
私は返事するよりもまず、においの異変に気がついた。
うっ、なんだいこれは。
もしかして……
「あんた、酒はやめたんじゃなかったのかい」
「あ、うん……いや……ちょっとな」
ダグラスはしどろもどろで答えた。
別に仕事しているときに飲んでたんじゃなければ、私には関係ないけどさ。
「まぁいいよ。あんた、今日の昼はアルダタに会ったかい?」
「……会ったよ」
「そうかい」
じゃあ昼過ぎまで、坊やは屋敷にいたってことなんだね。
「どうかしたのか?」
「いやね、アルダタの坊やがちょいと見当たらないんだ。何か仕事を頼まれて出て行ったんだと思うんだが、他の使用人たちも知らないっていうから気になってね」
「……いつからだ?」
「えぇ?」
酒が回ってんだか、何を言っているのかよく聞こえないよ。
「いつから、っ、姿がない?」
ほら、しゃっくりまでしてるじゃないか。
「ちょうど今、それを確かめているところだよ。とりあえずあんたが会ったってとこまでは確認できたね。でもその後も屋敷にいたんなら、誰か一人くらい姿を見たって子がいてもおかしくないんだがね……ちょっと、大丈夫かい!」
びっくりだ!いきなりその場に崩れ落ちちゃってさ。
こりゃ相当飲んだみたいだね。
何やってんだい、ほんと。
「大丈夫か、あんた。ほら、肩貸すよ」
「タ、タラレ、タラレッダ。聞いてくれ」
「ん? 何だい」
ひとまずこいつをベッドまで移動させないと……
それにしても重いね! この酔っ払いは。しっかり自分の足で歩いとくれよ。
「俺が原因かもしれん」
「原因? 何の話だい」
酔っ払いの戯言に付き合ってる暇はないんだけどね……
「アルダタは一人にしてくれって言ったんだ。それで町の方に向かって、ふらふら歩いて行っちまった」
よいしょ!
ふぅ……何とかベッドまで運べたよ……
今、何て言った?
「ちょっと待ってあんた。坊やと何かあったのかい?」
「……ん……」
「こら、寝るな! 起きろ!」
思わず頬を引っぱたいちまったよ。
「うう……そうだ、俺が間違ってたんだ……」
「何の話をしているんだい」
「あいつの母親……俺の妹のミリアが死んだんだ。もう三か月近くになる。
俺はずっと、それをアルダタに隠してたんだ」
……は?
私はダグラスの胸倉を掴んで引っ張り起こした。
「どういうことだい、それ! なんでそんなことした!」
「ペドロル様に口止めされた! しばらく教えるなって。
そうしなきゃお前の仕事はなくなるぞって脅された!
どうすりゃよかったんだ!」
何だよ、それ……またあのクソ王子が……
私は胸倉から手を離した。
「あんた、それをあの子に教えたのかい?」
「そうだ。今日の昼に。
あいつが手紙を書いたって言ってきて、これを母親に渡して欲しいって。ミリアが字を読めないのはもちろん知ってて、それでもいいからって言うんだ。
俺にはできなかった。あいつが書いた手紙を渡したことにするなんて、そんなことできなかったんだ。
そしたら、あ、あいつは……一人にしてくれって……どこに行ったか、わ、分からない、のか……?」
こりゃ、まずいことになったね。
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