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第1話 転生したらこうなった

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 どうしてこうなった。

 いや、本当に、どうしてこうなった。





 そこは白い部屋だった。
 天井も白、床も白、壁も白、広さは体育館ほどか。そこにいたのは私ともう一人。
 インドのサリーのような服装をした、額にビンディをつけた美女である。絶世の美女であると言っても良かった。
「え~、このたびはご愁傷様です。あなたは死にました」

 気の毒そうに彼女は言ってくれた。

 大きな災害事故があったこと。それに巻き込まれたこと。
 たくさんの人間を助けて、最後に力尽きたこと。
「正直、あなたの鍛えられた魂の強度は素晴らしいものがあります。あの状況でほかの人間をたくさん助けたこともあって、次の人生はかなり大きなギフトをもらって始められるでしょう」

 転生というものがあると、彼女は言った。そういえば、彼女は何者なのか。まさか神か。
「いえ、私はただの管理官です。日本の価値観で言うなら、八百万の神様の端くれになるのかもしれませんが」
 そして話を戻し、彼女は言った。
「あなたには異世界に転生してもらいます」
 驚きである。

 地球に戻れないのか、と聞いたら残念そうな顔で説明してくれた。
「現在地球には人間の数が増えすぎていて、転生させようにもあなたのような強い魂は弾かれてしまいます。それに魂に刻まれた記憶を洗い流すにも、多くの力が必要となるのです」
 聞き逃せないことを彼女は言った。
「ええ、こちらの要請で異世界に転生するならば、ある程度の記憶を持ったまま生まれ変わることが出来ます。それほどそういうことが珍しい世界でもありませんし、今までに何人もの人が地球からは転生していますから」
 なるほど。それでは転生先の世界はどういう世界なのか。
「詳しくは言えませんが、剣と魔法の世界ですね」

 剣。

 心がざわめく。記憶が蘇る。
 おおよそ人生の大半をかけて磨いてきた技能。
 竹刀を振り、木刀を振り、刃引きのされた刀を振り、槍をしごき。小刀で舞う。

 生涯で果たしあったことは二度。共に死闘であり、充実した時間であった。

 そう、自分はそうやって生きてきた。殺すための技術を磨いて、最後に多くの命を助けたというのは皮肉だが。

 戦乱の世界であるなら、今度こそ他者の命を奪うこともあるだろう。
 魔法というのは少し気になるが、全ては生まれ変わってからだ。
「異存はないようですね? では、ギフトを選んでいただきます」

 その世界には、ギフトとスキルというものがあるらしい。
 ギフトとはその名のとおり生まれつき授けられたもので、スキルは後天的に身につけたもの。
 前者はたとえば、筋肉が付きやすい体質という分かりやすいものから、毒や病気に対する耐性、はては不老不死などというものもある。
 後者は簡単だ。剣術の技術や、魔法の技術。これは生まれてから努力するしかないが、転生者は記憶があるので、そもそものアドバンテージがあるという。
「あなたの持つギフトポイントは1012ポイントです。ではどうぞ、選んでください」

 目の前に半透明の画面が現れる。そこにはギフトと思われる様々な項目があり、隣には数字がある。おそらくこれが必要なポイントなのだろう。
 肉体強化、魔力強化。これらの隣にはさらにレベルがある。どの程度強化されるのか、ということらしい。私のもらった1012ポイントというのは、相当なもので、たとえば肉体強化を最大限に取っても、1割ほどしか消費しない。
 思考するだけで画面はスクロールする。途中で不老長寿や、疾病無効などというものもあった。それでもポイントの半分強を使えば身につけられるものだ。中には剣の天稟などというものもあったが無視した。戦乱の世界では、剣だけの才能とはそれほど重要なものではない。

 そして1000ポイントを費やする項目を見るにいたって、開いた口がふさがらなくなった。

 亜神。不滅。革命。羽化登仙。覇王の卵。これらが1000ポイントで獲得出来るギフトであった。
 しかし魂の質によって獲得の可能性があるギフトは違うので、これで全てというわけでもないらしい。

「生前に鍛えられた魂の強さに、異世界転生の特典、さらに死の直前の人命救助。あなたのギフトポイントは例外です」
 普通の人間はせいぜい50ポイントほどらしい。そんなにおまけしてもらって良いのかと思ったが、彼女は何も言わない。まあ、もらえるものはもらっておく。
 そしてもう一つ、1000ポイント必要なギフトの中に、それはあった。

『竜の血脈』

「竜の血を継ぐ血統に生まれます。肉体的な頑健さ、膨大な魔力、その他にも色々な長所があります。複数のギフトをまとめたようなものですね」
 もっとも、と今更ながら彼女は説明した。このギフトは生まれてすぐに発現するというものではなく、あくまでも過程を経た上で発現するという。スキルを極めた末にギフトと同じ効果を得ることもあるのだ。
 とりあえず、獲得するギフトは決まった。

「いいのですか? 少ないポイントで多くのギフトを取ることも出来ますし、あなたの好みに合いそうなギフトももっとあると思うのですが」
 最近の日本人で転生する者は、もっと慎重に選ぶのだそうだ。中には丸一日かけても終わらない者もいて、そういった人間に当たった担当者は大変なんだとか。

 だがこんなものは、直感で選ぶものだろう。
「そうですか。では残りの12ポイントですが、特別にアドバイスさせていただきます」
 にっこりと彼女は笑った。女神らしからぬ、親しみの持てる笑顔だった。
「2ポイントは生命力と耐久力を1ずつ上げてください。そして10ポイントを使って、自己確認のギフトを取ってください。スキルでも獲得できますが、最初から持っておくと、確実に便利です」
 何がどう便利なのかも、彼女は説明してくれた。
「自分の持つ能力を全て認識出来るというものです。どれだけ筋力が上がったか、どれだけ剣の技術が上がったか、体力はどれだけ残っているか。これが分かれば、戦いではどれだけ有利か、あなたなら分かると思いますが」

 なるほど、修行の成果がはっきりするというのは、確かに利点だろう。

「それでは、そろそろ転生してもらいます。残念ながら、質問はあまり受けられません。それ自体が、ギフトの一部ですからね」

 情報を持っているというのは、確かにそうだろう。頷くと、部屋が霧に包まれたように消えていく。
「来世があなたの望みをかなえることを祈っていますよ」
 女神は最後にそう言った。



「加護を与えたのか、奮発したものよの」

 誰もいないはずの部屋に、いつの間にかもう一人の ―― 否、もう一柱の神が現れていた。女性とも見紛うほどの美貌を持ちながら、その本性は武神。
「それほどのことは。転生の処理が早く終わったお礼のようなものです」
 そう、神に手間をかけさせないことによる、ちょっとした加護。下手にギフトを選び倒すよりは、よほど大きな恩恵である。
「しかし、あなたはどのような用件で?」
「何、あの者のさらにもう一つ前の前世で、加護を与えていたのでな。少し気になったのだ」
 もう一つ前。魂は通常生を終える度に漂白され、再利用されていく。摩耗して消滅するものや、新たに生まれる魂もあるが、そのサイクルは長い。
「どのような加護だったのですか?」
「もちろん戦の加護だよ。かなり有効に使ったようだね。残念ながら、病気で早死してしまったようだけど」
 ありきたりと言えば、ありきたりな加護だろう。だが次の世界では役に立つのは間違いない。加護は魂に刻まれるので、転生しても消滅しないのだ。
「あら? すると私の守護の加護と、戦の加護、ギフトを合わせますと…」
「うむ、恐ろしく強い化物になるかもしれんな。今生は不遇であったようだし、それも面白かろう。あの世界はまた千年紀を迎えるしな」
 高らかに笑う男神に対して、女神はその優美な眉をひそめた。
「参考までに、なんという名の人間だったのですか?」
 ぴたり、と男神は笑いを止め、ついでに動きまで止めた。
「? もしかして忘れたとか?」
「い、いや、確かに私は戦の神だが、俗に言う脳筋どもとは違うぞ! 熊襲平定も頭を使ったし…そう! そうだ熊襲のいたところにいた武士だ! 待て! 鏡を使えばちゃんと思い出すはずだから!」
「いえ、そこまでして思い出していただかなくても…。単なる好奇心でしたし」
 ため息一つ、女神は送り出したばかりの魂に、さらに知性の加護を与えたのだった。



 空白の意識の中には、睡眠欲と食欲しか無かった。

 それが連続して繰り返され…時間の経過をようやく意識しだした時、記憶の再生が始まった。
 前世。そして神との対話。思考がようやくまともに働き出し、そして違和感。
 睡眠、食事、排泄。その三つがほとんど全ての赤ん坊であっても、前世の経験からか、言語はかなり早く習得する。

 違和感。
 そして確信。

「は~いリア、おしめ替えましょうね~」

(お、おおおおお! 女になってるううううううう~~~~~~!!!!!)



 どうしてこうなった。
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