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66 ゴーレム狩り
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早朝から役所に並んでみたところ、ごく普通の下っ端の役人に、事情聴取を受けた上で普通に大陸情勢を聞くことが出来た。
しかしそれは普通に情報屋が知っていたことと変わりなく、悠斗たちは王への使節団とかでもなく、調査団なので特に市長に時間を取ってもらえるのも難しい。
そもそも面識を得たとしても、それがどう役立つかは微妙である。
ここにいる人間には、政治的判断が出来る者はいないのだ。
(春希がいてくれたら良かったのかな)
そうは思ったが、彼女としても自分一人での判断は難しかっただろう。
オーフィルで言うなら貴族などの有力者の娘にあたるので、もっと偉い人間にも会えたかもしれないが。
どのみち証明が出来ないので無理と考えるべきか。
こちらの事情を聞き、現在の宿泊している宿も訊かれ、そのあたりは素直に答えておいた。
「それで、これから魔物退治をするわけだな?」
「はい」
今更魔物か、というのが悠斗も含めた一行の感想である。
魔物を狩って、その討伐の証明のために一部を切り取り、それを組合に持っていって換金する。
魔物によってはその部材が有効に使えるため、解体して持って帰ってくる場合もある。
「って、どこのファンタジー小説だよ! 俺ら冒険者なんか!」
とまあ、同じ日本の魔法使いならず、海外の魔法使いたちもテンションが上がっているようである。
「地球と違って持ち運びが面倒なんですけどね」
地球であれば直接の魔物の駆除さえ済めば、あとは輸送は車なりなんなりを使える。
大型の魔物であってもおよそは軽トラがあれば充分だ。
「あ~、現実はクソゲーだ。倒したら金を落としてくれるゲームの方がよっぽど楽だ」
「ゲームの中では剣とか鎧とか、複数持てたりするけど、どこにしまってるんだろうな」
今更そんなことを言われても。
「ストレージとかないのかよ」
「あと転移魔法陣ほしい」
「装備の損耗も考えると、魔法での遠距離戦闘がメインになるだろうな」
そんな愚痴を聞きながらも、悠斗は討伐関連の依頼について、職員に質問する。
彼の念話の権能では、文字の解読は出来ないことになっているから仕方がない。
何かまた問題が起こるかと思われたが、こちらの腕前を心配された以外は、特に問題もなく受理された。
依頼としては東の山の鉱山近くに出るゴーレムの間引きである。
「ゴーレム?」
「ゴーレムだそうです」
「ゴーレムというと、我々の使う使役獣や式神とは違うのか?」
もちろん悠斗は正確な違いを知っているが、それを説明するわけにはいかない。
「この世界のゴーレムは、精霊力が過剰になって実体化し、その周辺の物質をとりこんだ存在になるそうです。
「精霊力とはなんだ?」
「よく分かりません」
地球の薄いマナでは発生しないが、オーフィルでは発生するのが精霊だ。
地水火風の四属性が存在し、それぞれの力が強いところで、マナがある程度の意思をもって変異する。
それを使役するのがエルフであり、ある意味ではエルフは魔獣を使役するのと同じ能力を持つ。
東へ三日向かい、山脈の麓の村に着く。そこからさらに半日山の中に入ると、ゴーレムの発生源となる地に到着する。
ゴーレムはアースゴーレムかストーンゴーレムであり、ストーンゴーレムはかなりの物理的な攻撃力と防御力を持つ。
もちろん鋼鉄の防御を軽く突破する魔法使いにとっては、動きの鈍重なゴーレムなど、遠距離からのノーリスクで倒せる存在だ。
「よくこんな依頼があったな」
「どうなんでしょう? こちらの魔物狩りをする魔法使いの腕が分かりませんし」
知識は力である。
地球の調査団のこの一行は、悠斗の前世における、死亡直前の基準からしても、かなりの戦闘力を持っている。
10人という人数もいい。よほど大量の魔物か、中級以上の幻獣種でもなければ、まず負けることはない。
耳にした情報と、職員の言葉からすると、この周辺でそんな大物と戦うとしたら、神樹の森へ引き返して奥に進むことになる。
街からある程度離れたところで、一行は走り始めた。
身体強化の魔法を使えば、いくらでも速く移動出来る。
こちらの世界に来て一週間近く経過しても、まだ雅香からの接触や、彼女に関する情報はない。
雅香が行方不明になった時期と、樺太と半島の門の位置関係を考えたら、相当に大きな事件が起こっていても、まだこの小さな街まで伝わっていないのはおかしくない。
とりあえず必要なのは金である。
本隊への食料の補給などを考えても、とにかくこの地の貨幣を大量に稼ぐ必要がある。
その気になれば他にいくらでも金策は出来るのだが、味方に怪しまれないように行うのが無理なのである。
「ところでゴーレムを駆除の対象にした理由はなんだ?」
「ゴーレムの討伐証明は、その核となった精霊石を持って帰ることが条件です。そしてその精霊石は、持ち運びに便利な割には相当に高く買い取りも行ってくれるそうです」
魔法の行使にも、錬金術師の素材にも、あとはエルフの儀式魔法にも、様々な用途があった。
「一つぐらいは地球に持ち帰って研究してみたいな」
「どうでしょう? ようするに魔物の核のようなものであるので、危険だと判定されるかもしれません」
オーフィルでの魔法などの技術については、雅香が個人的に研究しているはずであった。
悠斗と比べて彼女には、自由になる金も時間も多い。
ただ悠斗には神剣があるため、その権能の力では雅香を上回る。
もっとも地球で下手をすれば、すぐに一族にバレるわけであるが。
途中にあるという村に立ち寄り、わずかに情報を確認する。
問題となる場所は鉱山への道の近くにあり、そのため保持する必要があるのだ。
鉱山の労働力は、人力とゴーレムが併用されていて、それなりに生産量は高い。
「なんの鉱山だって?」
「銀らしいですね」
オーフィルにおいてはプラチナも流通しているが、貨幣としては使われていない。
単純に抽出しにくかったり、加工が難しかったりするからだ。
存在することは存在している、
金や銀と違って、魔法具を使うためには貴重な金属として認識されている。
「そういえば武器屋も見にいったんだよな? タングステンとかはなかったのか?」
「あったのかもしれませんが、やっぱり鉄と青銅が主流でしたね。武器はほとんど鉄でした」
「むしろ青銅の需要があることが驚きなんだが」
「地球の青銅とは違うのかもしれませんね」
ぱっと見て解析する権能の持ち主などもいるのだが、とにかく通訳として使われる悠斗が一人しかいないので、調べることが後回しにされているのだ。
もうすぐ単純な言語理解が可能になるので、少しは悠斗の役目も少なくなる。
(そういや給料けっこう貯まってたな)
一族として活動する上で、悠斗は給料というか、報酬と契約金のようなものを貰っている。
無趣味なのでそういう金は使わない。
(てか俺って、転生しても戦ってばかりいるよな!)
今更ながら気が付く悠斗。これもワーカホリックと言うのであろうか。
肝心のゴーレムの討伐の方は、割と簡単に済んだ。
核となっている部分は、割れていてもそうと分かれば討伐の証明となるのだが、換金するなら壊れていてはいけない。
そこで手足を破壊して、地味に体を砕いていくのだが、魔法を使うと楽である。
人間の大人の倍ほどもある巨体の石像と言えば恐ろしく感じるのかもしれないが、高所から狙撃してまず足を破壊し、それから手を破壊するとなると、完全にもう作業である。
「しかし普通の人間なら、一体か二体を倒すので精一杯だろうな」
「まあギルドの方でも、かなり難度の高い注文だと言われてましたからね」
ゴーレム退治は基本的に、発生した場所のゴーレムがこれ以上は増えられないまで増えた時に、あふれるのが問題なのだ。
だからあふれかけたゴーレムを狩っていくのが正しいやり方であって、この10人がかりの圧倒的火力攻撃の殲滅など、まずありえないことなのである。
「これで40! てか多いな!」
倒すこと自体は簡単なのだが、核を取り出すのは少し難しい。
周囲のゴーレムまで倒さないと、安全な回収が出来ないからだ。
「でも200体も倒せば、数年は困りませんから!」
もっとも一度にゴーレム核を納入しても、値崩れしてしまうだろう。
そのあたりの調整は必要である。
昼過ぎから始まったゴーレムの狩りは、夕暮れになるまで続いた。
さすがに魔力の限界があったが、単純に殲滅するだけであったら、谷にいたゴーレム1000体ほども倒すのは簡単であった。
何事もただ殺すだけでなく、商品化するまでには手順があるということだ。
「確かに核は、本隊にある程度送って調べてもらった方がいいだろうな」
おおよそ半分にまで数を減らしながらも、ゴーレムは逃げることもなく戦い続けた。
低級ではあるが精霊であり、核を潰していないのでやられたというイメージがないからだろう。
予定通りの数を叩き潰してから、一行はゴーレムの谷を後にした。
死屍累々。砕かれた石像のようなゴーレムの数は、足の踏み場もないほどのものとなった。
しかしそれは普通に情報屋が知っていたことと変わりなく、悠斗たちは王への使節団とかでもなく、調査団なので特に市長に時間を取ってもらえるのも難しい。
そもそも面識を得たとしても、それがどう役立つかは微妙である。
ここにいる人間には、政治的判断が出来る者はいないのだ。
(春希がいてくれたら良かったのかな)
そうは思ったが、彼女としても自分一人での判断は難しかっただろう。
オーフィルで言うなら貴族などの有力者の娘にあたるので、もっと偉い人間にも会えたかもしれないが。
どのみち証明が出来ないので無理と考えるべきか。
こちらの事情を聞き、現在の宿泊している宿も訊かれ、そのあたりは素直に答えておいた。
「それで、これから魔物退治をするわけだな?」
「はい」
今更魔物か、というのが悠斗も含めた一行の感想である。
魔物を狩って、その討伐の証明のために一部を切り取り、それを組合に持っていって換金する。
魔物によってはその部材が有効に使えるため、解体して持って帰ってくる場合もある。
「って、どこのファンタジー小説だよ! 俺ら冒険者なんか!」
とまあ、同じ日本の魔法使いならず、海外の魔法使いたちもテンションが上がっているようである。
「地球と違って持ち運びが面倒なんですけどね」
地球であれば直接の魔物の駆除さえ済めば、あとは輸送は車なりなんなりを使える。
大型の魔物であってもおよそは軽トラがあれば充分だ。
「あ~、現実はクソゲーだ。倒したら金を落としてくれるゲームの方がよっぽど楽だ」
「ゲームの中では剣とか鎧とか、複数持てたりするけど、どこにしまってるんだろうな」
今更そんなことを言われても。
「ストレージとかないのかよ」
「あと転移魔法陣ほしい」
「装備の損耗も考えると、魔法での遠距離戦闘がメインになるだろうな」
そんな愚痴を聞きながらも、悠斗は討伐関連の依頼について、職員に質問する。
彼の念話の権能では、文字の解読は出来ないことになっているから仕方がない。
何かまた問題が起こるかと思われたが、こちらの腕前を心配された以外は、特に問題もなく受理された。
依頼としては東の山の鉱山近くに出るゴーレムの間引きである。
「ゴーレム?」
「ゴーレムだそうです」
「ゴーレムというと、我々の使う使役獣や式神とは違うのか?」
もちろん悠斗は正確な違いを知っているが、それを説明するわけにはいかない。
「この世界のゴーレムは、精霊力が過剰になって実体化し、その周辺の物質をとりこんだ存在になるそうです。
「精霊力とはなんだ?」
「よく分かりません」
地球の薄いマナでは発生しないが、オーフィルでは発生するのが精霊だ。
地水火風の四属性が存在し、それぞれの力が強いところで、マナがある程度の意思をもって変異する。
それを使役するのがエルフであり、ある意味ではエルフは魔獣を使役するのと同じ能力を持つ。
東へ三日向かい、山脈の麓の村に着く。そこからさらに半日山の中に入ると、ゴーレムの発生源となる地に到着する。
ゴーレムはアースゴーレムかストーンゴーレムであり、ストーンゴーレムはかなりの物理的な攻撃力と防御力を持つ。
もちろん鋼鉄の防御を軽く突破する魔法使いにとっては、動きの鈍重なゴーレムなど、遠距離からのノーリスクで倒せる存在だ。
「よくこんな依頼があったな」
「どうなんでしょう? こちらの魔物狩りをする魔法使いの腕が分かりませんし」
知識は力である。
地球の調査団のこの一行は、悠斗の前世における、死亡直前の基準からしても、かなりの戦闘力を持っている。
10人という人数もいい。よほど大量の魔物か、中級以上の幻獣種でもなければ、まず負けることはない。
耳にした情報と、職員の言葉からすると、この周辺でそんな大物と戦うとしたら、神樹の森へ引き返して奥に進むことになる。
街からある程度離れたところで、一行は走り始めた。
身体強化の魔法を使えば、いくらでも速く移動出来る。
こちらの世界に来て一週間近く経過しても、まだ雅香からの接触や、彼女に関する情報はない。
雅香が行方不明になった時期と、樺太と半島の門の位置関係を考えたら、相当に大きな事件が起こっていても、まだこの小さな街まで伝わっていないのはおかしくない。
とりあえず必要なのは金である。
本隊への食料の補給などを考えても、とにかくこの地の貨幣を大量に稼ぐ必要がある。
その気になれば他にいくらでも金策は出来るのだが、味方に怪しまれないように行うのが無理なのである。
「ところでゴーレムを駆除の対象にした理由はなんだ?」
「ゴーレムの討伐証明は、その核となった精霊石を持って帰ることが条件です。そしてその精霊石は、持ち運びに便利な割には相当に高く買い取りも行ってくれるそうです」
魔法の行使にも、錬金術師の素材にも、あとはエルフの儀式魔法にも、様々な用途があった。
「一つぐらいは地球に持ち帰って研究してみたいな」
「どうでしょう? ようするに魔物の核のようなものであるので、危険だと判定されるかもしれません」
オーフィルでの魔法などの技術については、雅香が個人的に研究しているはずであった。
悠斗と比べて彼女には、自由になる金も時間も多い。
ただ悠斗には神剣があるため、その権能の力では雅香を上回る。
もっとも地球で下手をすれば、すぐに一族にバレるわけであるが。
途中にあるという村に立ち寄り、わずかに情報を確認する。
問題となる場所は鉱山への道の近くにあり、そのため保持する必要があるのだ。
鉱山の労働力は、人力とゴーレムが併用されていて、それなりに生産量は高い。
「なんの鉱山だって?」
「銀らしいですね」
オーフィルにおいてはプラチナも流通しているが、貨幣としては使われていない。
単純に抽出しにくかったり、加工が難しかったりするからだ。
存在することは存在している、
金や銀と違って、魔法具を使うためには貴重な金属として認識されている。
「そういえば武器屋も見にいったんだよな? タングステンとかはなかったのか?」
「あったのかもしれませんが、やっぱり鉄と青銅が主流でしたね。武器はほとんど鉄でした」
「むしろ青銅の需要があることが驚きなんだが」
「地球の青銅とは違うのかもしれませんね」
ぱっと見て解析する権能の持ち主などもいるのだが、とにかく通訳として使われる悠斗が一人しかいないので、調べることが後回しにされているのだ。
もうすぐ単純な言語理解が可能になるので、少しは悠斗の役目も少なくなる。
(そういや給料けっこう貯まってたな)
一族として活動する上で、悠斗は給料というか、報酬と契約金のようなものを貰っている。
無趣味なのでそういう金は使わない。
(てか俺って、転生しても戦ってばかりいるよな!)
今更ながら気が付く悠斗。これもワーカホリックと言うのであろうか。
肝心のゴーレムの討伐の方は、割と簡単に済んだ。
核となっている部分は、割れていてもそうと分かれば討伐の証明となるのだが、換金するなら壊れていてはいけない。
そこで手足を破壊して、地味に体を砕いていくのだが、魔法を使うと楽である。
人間の大人の倍ほどもある巨体の石像と言えば恐ろしく感じるのかもしれないが、高所から狙撃してまず足を破壊し、それから手を破壊するとなると、完全にもう作業である。
「しかし普通の人間なら、一体か二体を倒すので精一杯だろうな」
「まあギルドの方でも、かなり難度の高い注文だと言われてましたからね」
ゴーレム退治は基本的に、発生した場所のゴーレムがこれ以上は増えられないまで増えた時に、あふれるのが問題なのだ。
だからあふれかけたゴーレムを狩っていくのが正しいやり方であって、この10人がかりの圧倒的火力攻撃の殲滅など、まずありえないことなのである。
「これで40! てか多いな!」
倒すこと自体は簡単なのだが、核を取り出すのは少し難しい。
周囲のゴーレムまで倒さないと、安全な回収が出来ないからだ。
「でも200体も倒せば、数年は困りませんから!」
もっとも一度にゴーレム核を納入しても、値崩れしてしまうだろう。
そのあたりの調整は必要である。
昼過ぎから始まったゴーレムの狩りは、夕暮れになるまで続いた。
さすがに魔力の限界があったが、単純に殲滅するだけであったら、谷にいたゴーレム1000体ほども倒すのは簡単であった。
何事もただ殺すだけでなく、商品化するまでには手順があるということだ。
「確かに核は、本隊にある程度送って調べてもらった方がいいだろうな」
おおよそ半分にまで数を減らしながらも、ゴーレムは逃げることもなく戦い続けた。
低級ではあるが精霊であり、核を潰していないのでやられたというイメージがないからだろう。
予定通りの数を叩き潰してから、一行はゴーレムの谷を後にした。
死屍累々。砕かれた石像のようなゴーレムの数は、足の踏み場もないほどのものとなった。
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