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八章 ツアー
121 熱狂の後
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音楽の流行というものがある。
細かい分類であればロックからメタル、グランジというものだ。
だがもっと大きな枠で言うなら、西洋のクラシックに対し、アフリカンのブルースというのが対照的だ。
乱暴に言ってしまえば日本の民謡も、日本のブルースなのである。
魂を揺さぶるというものが、ブルースの本質であろうか。
被差別人種であった黒人の間から生まれた、魂の叫び。
それを白人が取り入れたのが、ロックの起源であろうか。
このあたり微妙に色々な説があるが、黒人音楽がロックの源流にあるのは、ほぼ確実である。
EDMのダンスミュージックは、現在のアメリカの主流と言えるだろうか。
とりあえずギターが、かつてほどの地位にいないことは間違いない。
もっとも目立たないだけで、今でも重要な要素ではある。
ノイズの演奏はまず、リズムの激しい曲が続いた。
その中では暁のギターの演奏も目立つ。
アクション自体はむしろ、千歳の方がジャンプしたり、そういった演出は多い。
だが暁はどっしりと構えて、髪ゴムを外してフィーリングで弾いていく。
わざとチューニングを少しずらして、耳に残る音を作ったりする。
ペダルを踏んでエフェクターを存分に使い、まさにリードギターという存在感を示すのだ。
ライブハウスは盛り上がって、オーディエンスの注意はほぼ集めることが出来た。
ここから曲をバラードへ持っていく。
だが月子の圧倒的なハイトーンからの歌声は、R&Bと考えた方がいいだろう。
あまりにも圧倒的な声量。
体を一つの楽器のように、大きく揺らしながら歌う。
千歳から見ると月子の歌は、本当に魂からの叫びに聞こえるのだ。
それに対すると自分は、あの瞬間の感情を思い出し、それに声を乗せる。
何かに、全てに、世界に対する怒り。
まだ足りない。まだまだ足りない。
自分の失ったものに対して、世界はまだ返してくれていない。
その怒りと欲望が、千歳の歌の根底にはある。
ノイズの作曲作詞は、俊がやることが多いので、曲調に上手く詞を乗せることが出来ている。
信吾の作った曲などは、イメージを聞きながらも俊が歌詞を作った。
ツインバードにしても、かなり俊のアドバイスがきいている。
つまりメッセージを伝える部分は、俊の力が圧倒的に大きい。
しかしそのメッセージに説得力を持たせるのが、月子や千歳の歌である。
そして暁のギターは、言葉にならないフィーリングをオーディエンスに伝える。
終盤、一度ギターをスタンドに置いて、暁がTシャツを脱ぐ。
地元では当たり前のこの行為も、知らなければ演出の一つとなる。
特にフロントの三人は、汗だくになりながらも演奏を続ける。
もっとも月子の三味線は、最初の飛び道具としてしか使わなかったが。
最後まで盛り下がることなどなく、ノイズのステージは終わった。
ステージ脇で待機していた竜道のメンバーが、難しい顔をしているのはよく分かった。
上手く行ったステージほど、演奏していた側も疲労度は大きいらしい。
特にこの大阪の場合、アウェイ感によるプレッシャーもあった。
これまでにないタイプの曲の演奏もあり、序盤は上手くノせることも出来ず、注意を引くのみ。
中盤からはしっかりと、ライブハウスを盛り上げることに成功した。
BPMの早い曲だけではなく、しっとりと聞かせるバラードもちゃんと届いていた。
肩を上下させてステージ脇に戻ってきたノイズに対し、竜道のメンバーは声をかける。
「お疲れ! ええ感じにあっためてくれたな」
「いやあ、疲れました」
主に精神的に、俊は疲れていた。
演奏などでは、基本的に調整をするのが俊の役目である。
フロントで訴えかけるのも、それをリズムで支えるのも、俊の役割ではない。
ただ今日は選曲がかなり問題ではあった。
ノイズは仲間内での衝突がない、珍しいバンドだ。
最初は技術的に主に千歳が色々と言われていたが、それは必要な注意である。
今もそれは続いているが、今日は主にボーカルとしての仕事が大きかった。
一時間近いステージというのは、やはりまだまだ辛い。
ワンマンをやるには、やはりまだ慣れた環境でないと無理だろう。
充分に暖まったハコで、常連の竜道がどういったパフォーマンスを見せるか。
「余裕があるなら見ていこう」
なさそうな顔色の千歳以外は頷いた。
楽屋に戻って、とりあえず楽器や機材を片付ける。
「ちょっと休憩」
どっかりと千歳は座り込み、月子もさっさと着替え始める。
これまでにも対バンした中では、ロック以外のバンドも当然あった。
だが竜道はそういった中では、一番の大物と言える。
関西のインディーズレーベルで、大きな存在感を持つ竜道。
東京遠征というのもそれなりに多く、今後も関係を深めるかもしれない。
音楽性のジャンルが違うので、微妙と言えば微妙なのだが。
始まった竜道のステージは、既に慣れたパフォーマンスで、この大きなハコを盛り上げていく。
ラップにしてもボーカルのダミ声から聞こえると、むしろそれは個性になる。
もっとも俊の好きなタイプのボーカルではない。
存在感と表現力はあるが、その幅が狭いのだ。
そもそもジャンル違いであるはずの、しかも関西での実績のないノイズを、どうしてツーマンライブに選んだのか。
こちらの事務所からの交渉力もあっただろうが、あるいは壁を超えるために苦しんでいるのか。
「こういう声って、洋楽でけっこうあるよね」
「まあ、ラップだからね」
疲れている千歳は、後ろから暁に抱きつくようにして、竜道のステージを見ていた。
今日のステージは全体を見れば、確かに誰もが活躍している。
しかし序盤を上手く作れなければ、中盤以降はしょっぱい出来になっていた。
そう考えるとやはり、一番の功労者は千歳である。
そんな攻撃的なステージ構成を考えた、俊は別とする。
ノイズの演奏でも充分に盛り上がっていたが、竜道のステージはいつも求められているもの。
想定内に過ぎないのかもしれないが、それでも充分な熱量がある。
HIP-HOPは世界的には大流行であるが、日本ではそれほどでもない。
もちろんいないわけではないが、日本人の感覚にはあまり、ラップなどは馴染まないのかもしれない。
フリースタイルラップなど、相手をどうディスるかというのが肝であったりする。
日本人の感覚的には、あまり合わないのだろう。
ただヤンキー文化的には、これもけっこう受け入れられやすいのか。
元不良のラッパーなどというのはそこそこ聞く。
ストリート系の音楽というのは、やはり攻撃的なものだ。
メタルなども攻撃的なのかもしれないが、あちらはもっと洗練されたものになる。
原始的な、あるいは直球のメッセージ性。
日本の音楽シーンでは、どの時代でも主流にはならなかったものだ。
スキャンダラスなものを、基本的に嫌う国民性からだろうか。
ともあれ竜道の音楽は、特にそのラップが、ノイズよりも空気を熱くする。
だがどちらがより、演奏される音楽を聴いていたかというと、ノイズの演奏の方が受け入れられていたような気もする。
相手を受け入れようと、そういう体勢になっていたのだ。
竜道の場合はもう、最初からそういった点での心配はしていないということなのだろう。
もちろん悪いステージというわけではない。
この規模のハコをしっかりと、己のペースで盛り上げていく。
ノイズは必死であったのに、竜道は余裕すらも感じさせる。
ただその余裕が、本当にあっていいものなのかどうか、そこは微妙だと考える俊だ。
(伸び代がないんじゃないのか?)
ここから先、もっと何かを届ける力がないと、よりムーブメントを作るのは難しい。
そもそも音楽のジャンルからして、難しいというのもあるのかもしれないが。
バンドの力、ボーカルの存在感によって、またそのMCによって、オーディエンスに届けることは出来ている。
だがライブに特に必要な、オーディエンスとの一体感。
それがひょっとしたら、もうこれ以上はないのではないか。
ステージは最後までしっかりと、盛り上がっていた。
しかしMCの間に、ドリンクを買う人間の姿が多い。
ノイズの場合は、MCの時間も少なくして、それで注意を引きつけ続けた。
おかげで休みが少なく、そのため疲労が大きかったのだが。
常に期待以上に盛り上げるというのは、なかなか難しいものだ。
それをずっと続けるというのは、常に成長し続けるというものだからだ。
真っ直ぐに上に行くのではなく、蛇行しながら上に行って、演奏や楽曲の幅を広げなければいけない。
次の神戸では、だいたい普段と同じような、演奏が出来るはずなのだが。
竜道がびしっと〆て、そしてライブは終わった。
アンケートなどを回収したら、やはり竜道メインではあったが、ノイズにもおおよそ好意的なものがあった。
ただジャンルの壁を崩して、完全にこちらに引き込めたとは言えない。
そこまでの力はなかったということだ。
「じゃあ打ち上げ行こうか! ノイズさんも一緒に!」
ここはさすがに、誘われれば拒否することは出来ない。
「すみません、よっとうちのボーカルが片方ダウンしてるんで、ホテルに放り込んでから行きます」
面識のある信吾を残し、俊はぐっすり眠る千歳を担いで、ビジネスホテルに向かったのであった。
なおこれに、月子も同行している。
「月子、竜道の音楽をどう思った?」
「え? う~ん、いいか悪いかはどもかく、わたしのタイプじゃなかったかなあ」
音楽性というものは難しいものだが、技術的なことだけを言うなら、ノイズの方が竜道よりもずっと上だ。
ただ客に何か、パワーを届けるという部分においては、むしろ竜道に軍配が上がる。
月子のハイトーンのクリアな声とは、まるで逆にあるような声でもあった。
俊としても、やはりラップは合わないな、と思ったものである。
他のジャンルの音楽を否定するというのは、自分のインプットを狭めてしまうものだ。
だから注意しなければいけないのだが、好みというのはある。
「もっとメロディーに力を入れないとな」
その部分がノイズの、演奏における長所であるのだから。
細かい分類であればロックからメタル、グランジというものだ。
だがもっと大きな枠で言うなら、西洋のクラシックに対し、アフリカンのブルースというのが対照的だ。
乱暴に言ってしまえば日本の民謡も、日本のブルースなのである。
魂を揺さぶるというものが、ブルースの本質であろうか。
被差別人種であった黒人の間から生まれた、魂の叫び。
それを白人が取り入れたのが、ロックの起源であろうか。
このあたり微妙に色々な説があるが、黒人音楽がロックの源流にあるのは、ほぼ確実である。
EDMのダンスミュージックは、現在のアメリカの主流と言えるだろうか。
とりあえずギターが、かつてほどの地位にいないことは間違いない。
もっとも目立たないだけで、今でも重要な要素ではある。
ノイズの演奏はまず、リズムの激しい曲が続いた。
その中では暁のギターの演奏も目立つ。
アクション自体はむしろ、千歳の方がジャンプしたり、そういった演出は多い。
だが暁はどっしりと構えて、髪ゴムを外してフィーリングで弾いていく。
わざとチューニングを少しずらして、耳に残る音を作ったりする。
ペダルを踏んでエフェクターを存分に使い、まさにリードギターという存在感を示すのだ。
ライブハウスは盛り上がって、オーディエンスの注意はほぼ集めることが出来た。
ここから曲をバラードへ持っていく。
だが月子の圧倒的なハイトーンからの歌声は、R&Bと考えた方がいいだろう。
あまりにも圧倒的な声量。
体を一つの楽器のように、大きく揺らしながら歌う。
千歳から見ると月子の歌は、本当に魂からの叫びに聞こえるのだ。
それに対すると自分は、あの瞬間の感情を思い出し、それに声を乗せる。
何かに、全てに、世界に対する怒り。
まだ足りない。まだまだ足りない。
自分の失ったものに対して、世界はまだ返してくれていない。
その怒りと欲望が、千歳の歌の根底にはある。
ノイズの作曲作詞は、俊がやることが多いので、曲調に上手く詞を乗せることが出来ている。
信吾の作った曲などは、イメージを聞きながらも俊が歌詞を作った。
ツインバードにしても、かなり俊のアドバイスがきいている。
つまりメッセージを伝える部分は、俊の力が圧倒的に大きい。
しかしそのメッセージに説得力を持たせるのが、月子や千歳の歌である。
そして暁のギターは、言葉にならないフィーリングをオーディエンスに伝える。
終盤、一度ギターをスタンドに置いて、暁がTシャツを脱ぐ。
地元では当たり前のこの行為も、知らなければ演出の一つとなる。
特にフロントの三人は、汗だくになりながらも演奏を続ける。
もっとも月子の三味線は、最初の飛び道具としてしか使わなかったが。
最後まで盛り下がることなどなく、ノイズのステージは終わった。
ステージ脇で待機していた竜道のメンバーが、難しい顔をしているのはよく分かった。
上手く行ったステージほど、演奏していた側も疲労度は大きいらしい。
特にこの大阪の場合、アウェイ感によるプレッシャーもあった。
これまでにないタイプの曲の演奏もあり、序盤は上手くノせることも出来ず、注意を引くのみ。
中盤からはしっかりと、ライブハウスを盛り上げることに成功した。
BPMの早い曲だけではなく、しっとりと聞かせるバラードもちゃんと届いていた。
肩を上下させてステージ脇に戻ってきたノイズに対し、竜道のメンバーは声をかける。
「お疲れ! ええ感じにあっためてくれたな」
「いやあ、疲れました」
主に精神的に、俊は疲れていた。
演奏などでは、基本的に調整をするのが俊の役目である。
フロントで訴えかけるのも、それをリズムで支えるのも、俊の役割ではない。
ただ今日は選曲がかなり問題ではあった。
ノイズは仲間内での衝突がない、珍しいバンドだ。
最初は技術的に主に千歳が色々と言われていたが、それは必要な注意である。
今もそれは続いているが、今日は主にボーカルとしての仕事が大きかった。
一時間近いステージというのは、やはりまだまだ辛い。
ワンマンをやるには、やはりまだ慣れた環境でないと無理だろう。
充分に暖まったハコで、常連の竜道がどういったパフォーマンスを見せるか。
「余裕があるなら見ていこう」
なさそうな顔色の千歳以外は頷いた。
楽屋に戻って、とりあえず楽器や機材を片付ける。
「ちょっと休憩」
どっかりと千歳は座り込み、月子もさっさと着替え始める。
これまでにも対バンした中では、ロック以外のバンドも当然あった。
だが竜道はそういった中では、一番の大物と言える。
関西のインディーズレーベルで、大きな存在感を持つ竜道。
東京遠征というのもそれなりに多く、今後も関係を深めるかもしれない。
音楽性のジャンルが違うので、微妙と言えば微妙なのだが。
始まった竜道のステージは、既に慣れたパフォーマンスで、この大きなハコを盛り上げていく。
ラップにしてもボーカルのダミ声から聞こえると、むしろそれは個性になる。
もっとも俊の好きなタイプのボーカルではない。
存在感と表現力はあるが、その幅が狭いのだ。
そもそもジャンル違いであるはずの、しかも関西での実績のないノイズを、どうしてツーマンライブに選んだのか。
こちらの事務所からの交渉力もあっただろうが、あるいは壁を超えるために苦しんでいるのか。
「こういう声って、洋楽でけっこうあるよね」
「まあ、ラップだからね」
疲れている千歳は、後ろから暁に抱きつくようにして、竜道のステージを見ていた。
今日のステージは全体を見れば、確かに誰もが活躍している。
しかし序盤を上手く作れなければ、中盤以降はしょっぱい出来になっていた。
そう考えるとやはり、一番の功労者は千歳である。
そんな攻撃的なステージ構成を考えた、俊は別とする。
ノイズの演奏でも充分に盛り上がっていたが、竜道のステージはいつも求められているもの。
想定内に過ぎないのかもしれないが、それでも充分な熱量がある。
HIP-HOPは世界的には大流行であるが、日本ではそれほどでもない。
もちろんいないわけではないが、日本人の感覚にはあまり、ラップなどは馴染まないのかもしれない。
フリースタイルラップなど、相手をどうディスるかというのが肝であったりする。
日本人の感覚的には、あまり合わないのだろう。
ただヤンキー文化的には、これもけっこう受け入れられやすいのか。
元不良のラッパーなどというのはそこそこ聞く。
ストリート系の音楽というのは、やはり攻撃的なものだ。
メタルなども攻撃的なのかもしれないが、あちらはもっと洗練されたものになる。
原始的な、あるいは直球のメッセージ性。
日本の音楽シーンでは、どの時代でも主流にはならなかったものだ。
スキャンダラスなものを、基本的に嫌う国民性からだろうか。
ともあれ竜道の音楽は、特にそのラップが、ノイズよりも空気を熱くする。
だがどちらがより、演奏される音楽を聴いていたかというと、ノイズの演奏の方が受け入れられていたような気もする。
相手を受け入れようと、そういう体勢になっていたのだ。
竜道の場合はもう、最初からそういった点での心配はしていないということなのだろう。
もちろん悪いステージというわけではない。
この規模のハコをしっかりと、己のペースで盛り上げていく。
ノイズは必死であったのに、竜道は余裕すらも感じさせる。
ただその余裕が、本当にあっていいものなのかどうか、そこは微妙だと考える俊だ。
(伸び代がないんじゃないのか?)
ここから先、もっと何かを届ける力がないと、よりムーブメントを作るのは難しい。
そもそも音楽のジャンルからして、難しいというのもあるのかもしれないが。
バンドの力、ボーカルの存在感によって、またそのMCによって、オーディエンスに届けることは出来ている。
だがライブに特に必要な、オーディエンスとの一体感。
それがひょっとしたら、もうこれ以上はないのではないか。
ステージは最後までしっかりと、盛り上がっていた。
しかしMCの間に、ドリンクを買う人間の姿が多い。
ノイズの場合は、MCの時間も少なくして、それで注意を引きつけ続けた。
おかげで休みが少なく、そのため疲労が大きかったのだが。
常に期待以上に盛り上げるというのは、なかなか難しいものだ。
それをずっと続けるというのは、常に成長し続けるというものだからだ。
真っ直ぐに上に行くのではなく、蛇行しながら上に行って、演奏や楽曲の幅を広げなければいけない。
次の神戸では、だいたい普段と同じような、演奏が出来るはずなのだが。
竜道がびしっと〆て、そしてライブは終わった。
アンケートなどを回収したら、やはり竜道メインではあったが、ノイズにもおおよそ好意的なものがあった。
ただジャンルの壁を崩して、完全にこちらに引き込めたとは言えない。
そこまでの力はなかったということだ。
「じゃあ打ち上げ行こうか! ノイズさんも一緒に!」
ここはさすがに、誘われれば拒否することは出来ない。
「すみません、よっとうちのボーカルが片方ダウンしてるんで、ホテルに放り込んでから行きます」
面識のある信吾を残し、俊はぐっすり眠る千歳を担いで、ビジネスホテルに向かったのであった。
なおこれに、月子も同行している。
「月子、竜道の音楽をどう思った?」
「え? う~ん、いいか悪いかはどもかく、わたしのタイプじゃなかったかなあ」
音楽性というものは難しいものだが、技術的なことだけを言うなら、ノイズの方が竜道よりもずっと上だ。
ただ客に何か、パワーを届けるという部分においては、むしろ竜道に軍配が上がる。
月子のハイトーンのクリアな声とは、まるで逆にあるような声でもあった。
俊としても、やはりラップは合わないな、と思ったものである。
他のジャンルの音楽を否定するというのは、自分のインプットを狭めてしまうものだ。
だから注意しなければいけないのだが、好みというのはある。
「もっとメロディーに力を入れないとな」
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