8 / 9
平和を望む者
終わらない世界を…
しおりを挟む
いつものようにして、会社に訪れる。
椅子に座り業務を済ませる。合間にちょっと
コーヒーを飲んでARグラスでパッとニュースを
見る。
少し重いため息をついて、会社の窓から見える
夕日を見つめる。そして呟く。
「…アムイ社長。お話があります。」
社長も何か考え事に浸りながら夕日を静かに見つめていたからか、突然話しかけられてビクッと体が動いた。
それを隠そうとしたのか、咳を一回した後で
「…な、なんだね。レイグ君。」
と、言う。
俺は知っている。この男が、イグシャニファ政府側についている人間であることを。
最初から知っていた。俺を会社に引き入れた時点で既に俺を利用して出世しようとしているのが目にとれた。
口では優しく、穏やかな人間を演じているが
事実がその嘘を暴いてしまう。
コイツは、俺がグリファンデから渡航してきたところを見ている。
そこで最初に出会った。
……グリファンデ人、グリフ人である俺を売り捌き
会社を出世させる。国のために行動する。それは
戦争のために行動しているのと同じだ。
そういう状況なんだ。今は。
「……社長。なぜ、今なのですが?」
「……ん?、そ、その今って何が?」
とぼけても無駄だ。この男は、ずっと俺の出方を見張っていた。戦争への反対者である証拠を国に差し出せば
もっと出世できるからだ。
…まぁ、最初っから俺はコイツを信用はしていなかったが悪い奴だとは思っていなかった。
この前見みたく、わざと、グリファンデにいる故郷の友が死んだことをハッキリ伝えてその出方を見守った。
俺が行動している間、イグシャニファの奴隷達が
護衛をしてくれた。国の者と戦う覚悟で。
だが、奴らはこなかった。なぜだ。
あの男は俺の事をわかっているのに国に言わないのか?
でもどっちみち、もう遅い。
休憩中に窓から会社の下を見た。
イグシャニファ政府の軍隊が静かにこの会社を囲っているのが見えた。
この483階まで来るのも時間の問題だろう。
「社長。なぜ、今まで俺を見逃した?」
「え……。」
「なぜ、今になって俺を国に売り出すんだ?」
男は少々汗をかいている。何かが怖いらしい。
だが、その恐怖を振り払うように
拳を握り、歯を食いしばった。
「………。息子が殺された。」
「……ッ。」
「どうやら私が君をかぎつけた時、既に政府も
それに気づいていたらしいな。
軍は、私をずっと試していたのだよ。
国のために忠実な人間かどうか。
軍を呼んだのは私だ。
……。私の判断が遅かったばかりに。
軍は息子を殺し、私に軍を呼ばせた。
私も……君も、ここで殺される。必ず。」
「は?………なんで。…なんで判断が遅れた?」
「君が…。平和のために、ここまで頑張っていることを知ったからだ。」
「……。」
「君が一度、会議室で1人、残って作業している時だった。その様子を私は防犯カメラで録画していた。その時、君の声でハッキリ聞こえた。
この世から戦争が無くなればいいのに。」
社長は、その場に座り込む。
「君の今までの行動を全て知っている。
裏で軍事力を奪うために奴隷たちと協力し
日々、ハッキングや情報集めをしていたことを」
「でも、平和を目指している人だからって…。」
「それを目指している本気が伝わったから、
国に売り渡さなかった。
…私は、5th世界壊滅戦争で兵に出されたんだ
あの残酷な惨状を見て、どれだけ平和というものが大事なのかが、いやでもわかった。」
「……社長。」
「平和は、大切だ。レイグ。君だけは、生き延びるんだ。私が囮になる。」
「…は?な、な、何言って…」
窓から軍装ドローンが入り込み、銃を乱射してきた。
社長は走って俺を押し飛ばした。俺は窓から外に放り出され
高層ビルから落ちていく。
「……な、なんで!」
そう叫ぶ。すると下に無重力転換装置が置いてあり
俺の体は宙に浮いた。
「おい!そこのアンちゃん!しっかり捕まってなよ!!?」
「え!?ええ!?。」
七色の派手な格好をした20歳くらいの男がそう言い、ドローン車のブレーキを踏む。
会社からだんだんと距離を置き、離れていく。
だが、軍装ドローンが17台ほど迫ってきて
銃口を定めてきた。
〝そこのドローン。止まりなさい。
これは軍事命令です。止まらなければ
即座に撃ちます。止まりなさい。〟
どういうことだ?
俺は今の状況が掴めず、運転手に問うと
「社長がお前を助けたんよ!」
と言った。もともと、俺を助け出す計画だったらしい。…どうして、そこまで。
俺が…。止めなきゃ。これ以上、
俺に巻き込まれて死ぬ人をもう、増やしたくない。
この運転手も。
ドローンから顔を出して、銃口を定める。
俺が死ねば、この人達は…。なんとか逃げ切れるかもしれない。
俺に巻き込まれなければこの人達は今も、
普通に生活できてたはずなのにっ!
感情に任せてひたすら銃を乱射した。
4機ほど撃ち落としたが、AIにはその精度は劣った。
AIは俺の心臓に目がけて銃弾を放った。
避け切ろうとして心臓には当たらなかった。
だが、腹部にあたった。急死はしない。
でも、死ぬことだけは…確かだ。
「ぐほぉご!!」
「おい!アンちゃん!何してんだ!!」
「…っ。……」
「おい!死ぬな!お前さんのために命はって
ここまで来てるのに!!死ぬなよ!
このやろう!!」
「……う……。」
あぁ。夕日が…かすれて見える。
あぁ。呼吸がしにくい。苦しい。
痛い。
手に、何かあたる。それを視界に入れると
真っ赤に染まったものが目に入った。
あぁ。死ぬんだ。ここで。これが…死なのか。
何も成し遂げることもなく。
これが死……。
こんなにも、残酷なのか。何もわからないまま、
死ぬのか。これが地獄ってやつなのか……。
終わるんだな。ここで。 …モンシュ…。
今行くぞ…そこに。
《約束を、諦めるのか?》
暗闇の向こうから誰かの声が響いて聞こえた。
椅子に座り業務を済ませる。合間にちょっと
コーヒーを飲んでARグラスでパッとニュースを
見る。
少し重いため息をついて、会社の窓から見える
夕日を見つめる。そして呟く。
「…アムイ社長。お話があります。」
社長も何か考え事に浸りながら夕日を静かに見つめていたからか、突然話しかけられてビクッと体が動いた。
それを隠そうとしたのか、咳を一回した後で
「…な、なんだね。レイグ君。」
と、言う。
俺は知っている。この男が、イグシャニファ政府側についている人間であることを。
最初から知っていた。俺を会社に引き入れた時点で既に俺を利用して出世しようとしているのが目にとれた。
口では優しく、穏やかな人間を演じているが
事実がその嘘を暴いてしまう。
コイツは、俺がグリファンデから渡航してきたところを見ている。
そこで最初に出会った。
……グリファンデ人、グリフ人である俺を売り捌き
会社を出世させる。国のために行動する。それは
戦争のために行動しているのと同じだ。
そういう状況なんだ。今は。
「……社長。なぜ、今なのですが?」
「……ん?、そ、その今って何が?」
とぼけても無駄だ。この男は、ずっと俺の出方を見張っていた。戦争への反対者である証拠を国に差し出せば
もっと出世できるからだ。
…まぁ、最初っから俺はコイツを信用はしていなかったが悪い奴だとは思っていなかった。
この前見みたく、わざと、グリファンデにいる故郷の友が死んだことをハッキリ伝えてその出方を見守った。
俺が行動している間、イグシャニファの奴隷達が
護衛をしてくれた。国の者と戦う覚悟で。
だが、奴らはこなかった。なぜだ。
あの男は俺の事をわかっているのに国に言わないのか?
でもどっちみち、もう遅い。
休憩中に窓から会社の下を見た。
イグシャニファ政府の軍隊が静かにこの会社を囲っているのが見えた。
この483階まで来るのも時間の問題だろう。
「社長。なぜ、今まで俺を見逃した?」
「え……。」
「なぜ、今になって俺を国に売り出すんだ?」
男は少々汗をかいている。何かが怖いらしい。
だが、その恐怖を振り払うように
拳を握り、歯を食いしばった。
「………。息子が殺された。」
「……ッ。」
「どうやら私が君をかぎつけた時、既に政府も
それに気づいていたらしいな。
軍は、私をずっと試していたのだよ。
国のために忠実な人間かどうか。
軍を呼んだのは私だ。
……。私の判断が遅かったばかりに。
軍は息子を殺し、私に軍を呼ばせた。
私も……君も、ここで殺される。必ず。」
「は?………なんで。…なんで判断が遅れた?」
「君が…。平和のために、ここまで頑張っていることを知ったからだ。」
「……。」
「君が一度、会議室で1人、残って作業している時だった。その様子を私は防犯カメラで録画していた。その時、君の声でハッキリ聞こえた。
この世から戦争が無くなればいいのに。」
社長は、その場に座り込む。
「君の今までの行動を全て知っている。
裏で軍事力を奪うために奴隷たちと協力し
日々、ハッキングや情報集めをしていたことを」
「でも、平和を目指している人だからって…。」
「それを目指している本気が伝わったから、
国に売り渡さなかった。
…私は、5th世界壊滅戦争で兵に出されたんだ
あの残酷な惨状を見て、どれだけ平和というものが大事なのかが、いやでもわかった。」
「……社長。」
「平和は、大切だ。レイグ。君だけは、生き延びるんだ。私が囮になる。」
「…は?な、な、何言って…」
窓から軍装ドローンが入り込み、銃を乱射してきた。
社長は走って俺を押し飛ばした。俺は窓から外に放り出され
高層ビルから落ちていく。
「……な、なんで!」
そう叫ぶ。すると下に無重力転換装置が置いてあり
俺の体は宙に浮いた。
「おい!そこのアンちゃん!しっかり捕まってなよ!!?」
「え!?ええ!?。」
七色の派手な格好をした20歳くらいの男がそう言い、ドローン車のブレーキを踏む。
会社からだんだんと距離を置き、離れていく。
だが、軍装ドローンが17台ほど迫ってきて
銃口を定めてきた。
〝そこのドローン。止まりなさい。
これは軍事命令です。止まらなければ
即座に撃ちます。止まりなさい。〟
どういうことだ?
俺は今の状況が掴めず、運転手に問うと
「社長がお前を助けたんよ!」
と言った。もともと、俺を助け出す計画だったらしい。…どうして、そこまで。
俺が…。止めなきゃ。これ以上、
俺に巻き込まれて死ぬ人をもう、増やしたくない。
この運転手も。
ドローンから顔を出して、銃口を定める。
俺が死ねば、この人達は…。なんとか逃げ切れるかもしれない。
俺に巻き込まれなければこの人達は今も、
普通に生活できてたはずなのにっ!
感情に任せてひたすら銃を乱射した。
4機ほど撃ち落としたが、AIにはその精度は劣った。
AIは俺の心臓に目がけて銃弾を放った。
避け切ろうとして心臓には当たらなかった。
だが、腹部にあたった。急死はしない。
でも、死ぬことだけは…確かだ。
「ぐほぉご!!」
「おい!アンちゃん!何してんだ!!」
「…っ。……」
「おい!死ぬな!お前さんのために命はって
ここまで来てるのに!!死ぬなよ!
このやろう!!」
「……う……。」
あぁ。夕日が…かすれて見える。
あぁ。呼吸がしにくい。苦しい。
痛い。
手に、何かあたる。それを視界に入れると
真っ赤に染まったものが目に入った。
あぁ。死ぬんだ。ここで。これが…死なのか。
何も成し遂げることもなく。
これが死……。
こんなにも、残酷なのか。何もわからないまま、
死ぬのか。これが地獄ってやつなのか……。
終わるんだな。ここで。 …モンシュ…。
今行くぞ…そこに。
《約束を、諦めるのか?》
暗闇の向こうから誰かの声が響いて聞こえた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる