白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人

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 何が起きたか分からなかった。
 いや、分かってはいたが認めたくなかった。
 自分の所為で葵が神社の階段から落ち、流産したのだと。
 生まれなければいいのにと思ったが、こんな形ではなかった。
 自分に言い訳するようにそんな事を考えていると、怒りに顔を赤らめた竜が目の前に立っていた。

「すまない」

 頭を下げると思いっきり胸倉を掴まれた。

「俺に謝る必要はねぇよ。アレはお前の子だったんだからな!」

 竜が何を言っているのか分からなかった。

「何言ってんだ。俺は葵に手を出した事なんか……」
「ふざけるなよ。コスプレパーティーの時に誰ともヤらなかったとでも言うのか?」

 言われてハッとした。
 αの殆どが金持ちだ。
 誰かしらが何かしらのパーティーを定期的に開いている。
 数ヶ月前にもコスプレパーティーがあり、友人に強引に連れて行かれた。
 発情期という事もあり雪路は顔だけ出して帰るつもりだったが、会場内のαとΩの発情期特有の匂いに当てられて興奮状態に陥り、手を引かれるままにヤリ部屋に入った。

「あの時のアリスが葵だって言うのか!?」
「そうだよ。お前と番いたい一心で知り合いに片っ端から頼み込んで潜り込んだんだよ」
「そんな……」
「結局お前に噛んでは貰えなかったって落ち込んでいたけど、後でお前の子が出来たって喜んでいたんだぞ! それを……」

 ――それが本当なら……。

 死なせてしまった子が自分の子だと知り、雪路は息が止まった。

「いいか。葵と番う気がないなら今直ぐ消えろ。二度とそのツラ見せるな!」
「…番う気はある。ただその前に謝らせて欲しい」

 頭を下げ、竜と二人で表室に入り、葵が目覚めるのを待った。
 目覚めた葵は二人の表情から読み取ったのか「赤ちゃん。駄目だったんだね」と呟いた。

「そっか。残念だったな」

 涙を流さないようにと力を込め見開いた瞳から涙を零し、顔を引き攣らせた笑顔が痛々しかった。
 竜に頼み病室に二人っきりにして貰い、ベッド脇に跪くと葵の手を握った。

「すまなかった。不注意で大切な俺達の子供を死なせてしまって」

 葵は驚きに目を見張り、次にほっとしたような表情を見せた。
 だが――。

「あの時のアリスがお前だと気付けなくてすまなかった」

 雪路の言葉にそれまで必死に保っていた笑顔を歪めグシャグシャにした。

「そっか。雪路、俺だって気付いてなかったのか……」

 自分の不用意な発言の所為で葵を更に傷付けてしまったと、慌てて腰を浮かせるが。

「ごめん。帰ってもらえるかな。今、雪路の顔見るのしんどいからさ」

 そう言われ、雪路は病室を後にした。
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