白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人

文字の大きさ
上 下
11 / 13

11

しおりを挟む
 何が起きたか分からなかった。
 いや、分かってはいたが認めたくなかった。
 自分の所為で葵が神社の階段から落ち、流産したのだと。
 生まれなければいいのにと思ったが、こんな形ではなかった。
 自分に言い訳するようにそんな事を考えていると、怒りに顔を赤らめた竜が目の前に立っていた。

「すまない」

 頭を下げると思いっきり胸倉を掴まれた。

「俺に謝る必要はねぇよ。アレはお前の子だったんだからな!」

 竜が何を言っているのか分からなかった。

「何言ってんだ。俺は葵に手を出した事なんか……」
「ふざけるなよ。コスプレパーティーの時に誰ともヤらなかったとでも言うのか?」

 言われてハッとした。
 αの殆どが金持ちだ。
 誰かしらが何かしらのパーティーを定期的に開いている。
 数ヶ月前にもコスプレパーティーがあり、友人に強引に連れて行かれた。
 発情期という事もあり雪路は顔だけ出して帰るつもりだったが、会場内のαとΩの発情期特有の匂いに当てられて興奮状態に陥り、手を引かれるままにヤリ部屋に入った。

「あの時のアリスが葵だって言うのか!?」
「そうだよ。お前と番いたい一心で知り合いに片っ端から頼み込んで潜り込んだんだよ」
「そんな……」
「結局お前に噛んでは貰えなかったって落ち込んでいたけど、後でお前の子が出来たって喜んでいたんだぞ! それを……」

 ――それが本当なら……。

 死なせてしまった子が自分の子だと知り、雪路は息が止まった。

「いいか。葵と番う気がないなら今直ぐ消えろ。二度とそのツラ見せるな!」
「…番う気はある。ただその前に謝らせて欲しい」

 頭を下げ、竜と二人で表室に入り、葵が目覚めるのを待った。
 目覚めた葵は二人の表情から読み取ったのか「赤ちゃん。駄目だったんだね」と呟いた。

「そっか。残念だったな」

 涙を流さないようにと力を込め見開いた瞳から涙を零し、顔を引き攣らせた笑顔が痛々しかった。
 竜に頼み病室に二人っきりにして貰い、ベッド脇に跪くと葵の手を握った。

「すまなかった。不注意で大切な俺達の子供を死なせてしまって」

 葵は驚きに目を見張り、次にほっとしたような表情を見せた。
 だが――。

「あの時のアリスがお前だと気付けなくてすまなかった」

 雪路の言葉にそれまで必死に保っていた笑顔を歪めグシャグシャにした。

「そっか。雪路、俺だって気付いてなかったのか……」

 自分の不用意な発言の所為で葵を更に傷付けてしまったと、慌てて腰を浮かせるが。

「ごめん。帰ってもらえるかな。今、雪路の顔見るのしんどいからさ」

 そう言われ、雪路は病室を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

俺はすでに振られているから

いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲ 「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」 「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」 会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。 俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。 以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。 「無理だ。断られても諦められなかった」 「え? 告白したの?」 「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」 「ダメだったんだ」 「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...