代わりでいいから

氷魚彰人

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代わりでいいから①

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 中学一年の時だった。
 ギャンブルにはまり借金を作った親父おやじを見限って母が出て行き、親父は俺を養護施設へと預けた。

『直ぐに迎えに行く』

 そんな言葉を信じて来る日も来る日も待ち続けたが、一ヶ月経っても二ヶ月経っても親父は迎えには来なかった。
 半年が経った頃。親父が施設へ現れた。
 その日は丁度クリスマスイヴだった為、サンタが願いを叶えてくれたのだと柄にもなく考え、やっと帰れるのだと安堵したが退所ではなく一日外泊だと知り陰鬱な気持ちになったのを覚えている。
 親父に連れられたファミリーレストランで遅めの昼食を食べながら、言い訳を聞かされた。
 日雇いの仕事で食いつないでいる事。まだ借金の目処がたたない事。

『早く迎えに行けるよう頑張る。だからお前も我慢してくれ。父さんに協力してくれ』

 そう懇願する親父に俺は『分かった』と頷くしかなかった。






 食事を終え、今日泊まるホテルだと案内されたそこは日雇いの人間の身の丈に合わない豪華なホテルだった。
 クリスマスだからとこんな高そうなホテルなど泊まらなくていいと、何度となく親父に訴えたが聞いては貰えず、部屋に押し込めるように入れられた。
 ベッドに座る中年男の気持ち悪い笑みを見て漸く親父の言った『我慢』と『協力』の意味が分かり後ずさるが、直ぐに背後の親父に肩を掴まれた。
 首を振り『嫌だ』と訴えるが、親父の暗く沈んだ瞳はそれを無視し、心無い声で『ごめんな』と形ばかりの謝辞を呟くと俺を男の方へ押し出した。
 無駄だと分かってはいたが、縋る相手が一人しかいない俺は親父に振り返り手を伸ばそうとするが、男に腕を引かれ出来なかった。
 硬質な金属音に驚き見れば、手には手錠が掛けられていた。もう片方の手に手錠が掛けられている間に親父は出て行き、俺は引き摺られるように連行され、力任せにベッドへと押し倒された。
 非現実的な状況に呆然としていると上着のファスナーが下ろされ、咄嗟に振り払うと男に平手打ちをされた。
 痺れる頬と口内に広がる血の味で漸く現実を認識できた。

 ――酷い事をされる。

 内容は分からないし知りたくもない。
 ただ、恐ろしい事が待っているのは裏切りのショックで鈍った頭でも理解出来た。
 引き裂くようにワイシャツをはだけさせる男を跳ね除けねばと思うのに、暴れれば更に酷い目に遭わされる予感に身体が硬直して動かない。
『助けて』と叫びたいのに声が出ない。
 叫んだところで男は勿論、親父も助けてはくれず、重厚な作りの部屋は俺の声を外に届けてはくれない。
 無駄だと諦めた心は俺から一切の言葉を奪い助けを求めさせない。
 男の舌が身体を這いずる気持ち悪さに涙が零れたが、声は出なかった。
 全てが終わらない限り、解放はされないのだと麻痺した頭で判断した俺はただ時が過ぎるのを待った。
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