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厄介事-4-
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S駅近くのコインパーキングに車を止めると、吉良は男から受け取ったメモ用紙を乱暴にポケットに突っ込んだ。
「俺が一人で取ってくる。鍵を寄越せ」
「鍵は五番のロッカーの後ろの隙間に隠してある」
「分かった。お前はここで待っていろ」
そう言い付け、吉良は車を降り、駅へ歩きだす。
人ごみを縫うようにして目的のロッカーへ辿り着き、五番ロッカーの裏に手を伸ばせば硬質な感触があった。指先に僅かに触れるそれを必死に手繰り寄せようとするも、何かに引っかかっているのか僅かに動くだけで取る事が出来ない。
通行人の不審げな視線を浴びながら何とか引き寄せ、漸く鍵を手にした時には薄っすら汗を掻いていた。
鍵に付けられた番号札のロッカーを開き、黒い鞄を僅かに開けると白い粉の入った袋が見え、直ぐにファスナーを閉めるとそれを小脇に抱え、駐車場へ向かった。
車を離れていた時間はそう長くない。
鍵を取るのに手間取ったが、精々が十分かそこらだ。
だと言うのに、車に男はおらず、運転席側の窓ガラスが外から割られている事から、拉致は疑いようがなかった。
「ケツに火が付いている奴は目敏いな」
吉良は携帯を取り出すと、マル暴の原木にかけた。
「よぉ。俺のツレが拉致られた。今から言う場所の監視カメラを確認してくれ」
コインパーキングの住所を伝えると、状況を教えろと言う原木の声を無視して携帯を切った。
車を駐車場に残しタクシーを拾うと、咲良組本部へと向かった。
子供の頃から何度となく門を潜ったそこは、吉良の顔を知っている者も多く、すんなりと若頭である咲良智影の居る部屋へと通された。
一見ヤクザには見えない線の細い男は突然の友の来訪に微笑を見せた。
「久しいな」
「お前のところは何時からヤク解禁になったんだ?」
「何の話だ?」
持って来た鞄を側近の一人の前へ置く。側近は鞄の中の粉を確認すると智影に頷いた。
「何処でこれを?」
吉良は無遠慮に幼馴染に近付くとポケットからメモ用紙を出した。
「この場所を根城にしている連中からだ」
「お前が拾ったのか?」
「んな面倒な事、俺がする訳ねぇだろ。妹を輪姦された男が復讐の為に盗んで来たんだよ」
「それで俺にどうしろと?」
「お前の組の事だ。お前が始末つけろ」
そこまで話した所で吉良の携帯が鳴った。
「俺だ。ああ。分かった。今度何か奢る」
必要最低限の会話で携帯を切り、智影へ振り返ると含みのある笑みを浮かべていた。
「何だよ」
「お前のそんな顔、久し振りに見ると思ってな」
「あ?」
「差し詰め、ブツを盗んだ男が連れて行かれでもしたか?」
「……ああ」
「それは大変だ。早く迎えに行かないとな。切羽詰った人間は何でもするぞ」
「お前、楽しんでないか?」
「まさか。お前の大切な奴が酷い目にあっていないか心配している」
「別に大切な奴じゃねーよ」
「へぇ」
にやにやと意味ありげに微笑む幼馴染に舌打ちし。
「何でもいい。車を貸せ」
「好きに使え」
吉良は車だけを借りるつもりだった。
だが……。
「若いの貸してくれるのはありがたいが、何でお前まで付いてくるんだ?」
「俺に恥をかかせた連中に灸をすえる為だ」
「若頭がでしゃばる案件じゃねぇだろ」
「お前が絡んでなければな」
ふふっと楽しげに笑う智影に眉を顰め、吉良は口をへの字に曲げる。
「もう若くない。無茶はしねぇよ」
「そう言う事じゃない」
やはり楽しそうに笑う智影に吉良は窓へ顔を背けた。
そうこうしているうちに車は原木に教えられた住所へと着いた。
S駅近くにある雑居ビルの扉は、咲良組の幹部の名前と顔で開かれ、拍子抜けする程簡単に拉致部屋へ辿り着けた。
雑然とする部屋には強面のチンピラが十人。手足を縛られ椅子に座らされている男を取り囲むように立っていた。
「何だお前等ぁ」
突然現れた吉良達に対し、威嚇するチンピラを智影の側近の一人が殴り飛ばす。
張り詰めた空気を割るように、智影は前へ出た。
「俺は咲良組若頭の咲良智影ってもんだが、何で俺が来たか分かるよな?」
若頭と言う言葉にざわつくチンピラ共をよそに智影は部屋の奥へ進んで行き、袋叩きにされボロボロとなっている男の前で立ち止まった。
「末端の更に下っ端とは言え、躾が行き届かなくて悪かった」
腫れ上がった瞼を何とか抉じ開けて返事の代わりに智影へ向けると、優しい微笑が返された。
「吉良」
智影が首を傾けると、吉良は男へと駆け寄った。
「大丈夫か?」
殴られ過ぎてしゃべれないのか、男は僅かに頷くだけだった。
「こいつを病院に連れて行く。俺の分も頼むぞ」
「ああ。きつめに教育しておく」
震えるチンピラを尻目に、吉良は男と共にビルを出た。
「俺が一人で取ってくる。鍵を寄越せ」
「鍵は五番のロッカーの後ろの隙間に隠してある」
「分かった。お前はここで待っていろ」
そう言い付け、吉良は車を降り、駅へ歩きだす。
人ごみを縫うようにして目的のロッカーへ辿り着き、五番ロッカーの裏に手を伸ばせば硬質な感触があった。指先に僅かに触れるそれを必死に手繰り寄せようとするも、何かに引っかかっているのか僅かに動くだけで取る事が出来ない。
通行人の不審げな視線を浴びながら何とか引き寄せ、漸く鍵を手にした時には薄っすら汗を掻いていた。
鍵に付けられた番号札のロッカーを開き、黒い鞄を僅かに開けると白い粉の入った袋が見え、直ぐにファスナーを閉めるとそれを小脇に抱え、駐車場へ向かった。
車を離れていた時間はそう長くない。
鍵を取るのに手間取ったが、精々が十分かそこらだ。
だと言うのに、車に男はおらず、運転席側の窓ガラスが外から割られている事から、拉致は疑いようがなかった。
「ケツに火が付いている奴は目敏いな」
吉良は携帯を取り出すと、マル暴の原木にかけた。
「よぉ。俺のツレが拉致られた。今から言う場所の監視カメラを確認してくれ」
コインパーキングの住所を伝えると、状況を教えろと言う原木の声を無視して携帯を切った。
車を駐車場に残しタクシーを拾うと、咲良組本部へと向かった。
子供の頃から何度となく門を潜ったそこは、吉良の顔を知っている者も多く、すんなりと若頭である咲良智影の居る部屋へと通された。
一見ヤクザには見えない線の細い男は突然の友の来訪に微笑を見せた。
「久しいな」
「お前のところは何時からヤク解禁になったんだ?」
「何の話だ?」
持って来た鞄を側近の一人の前へ置く。側近は鞄の中の粉を確認すると智影に頷いた。
「何処でこれを?」
吉良は無遠慮に幼馴染に近付くとポケットからメモ用紙を出した。
「この場所を根城にしている連中からだ」
「お前が拾ったのか?」
「んな面倒な事、俺がする訳ねぇだろ。妹を輪姦された男が復讐の為に盗んで来たんだよ」
「それで俺にどうしろと?」
「お前の組の事だ。お前が始末つけろ」
そこまで話した所で吉良の携帯が鳴った。
「俺だ。ああ。分かった。今度何か奢る」
必要最低限の会話で携帯を切り、智影へ振り返ると含みのある笑みを浮かべていた。
「何だよ」
「お前のそんな顔、久し振りに見ると思ってな」
「あ?」
「差し詰め、ブツを盗んだ男が連れて行かれでもしたか?」
「……ああ」
「それは大変だ。早く迎えに行かないとな。切羽詰った人間は何でもするぞ」
「お前、楽しんでないか?」
「まさか。お前の大切な奴が酷い目にあっていないか心配している」
「別に大切な奴じゃねーよ」
「へぇ」
にやにやと意味ありげに微笑む幼馴染に舌打ちし。
「何でもいい。車を貸せ」
「好きに使え」
吉良は車だけを借りるつもりだった。
だが……。
「若いの貸してくれるのはありがたいが、何でお前まで付いてくるんだ?」
「俺に恥をかかせた連中に灸をすえる為だ」
「若頭がでしゃばる案件じゃねぇだろ」
「お前が絡んでなければな」
ふふっと楽しげに笑う智影に眉を顰め、吉良は口をへの字に曲げる。
「もう若くない。無茶はしねぇよ」
「そう言う事じゃない」
やはり楽しそうに笑う智影に吉良は窓へ顔を背けた。
そうこうしているうちに車は原木に教えられた住所へと着いた。
S駅近くにある雑居ビルの扉は、咲良組の幹部の名前と顔で開かれ、拍子抜けする程簡単に拉致部屋へ辿り着けた。
雑然とする部屋には強面のチンピラが十人。手足を縛られ椅子に座らされている男を取り囲むように立っていた。
「何だお前等ぁ」
突然現れた吉良達に対し、威嚇するチンピラを智影の側近の一人が殴り飛ばす。
張り詰めた空気を割るように、智影は前へ出た。
「俺は咲良組若頭の咲良智影ってもんだが、何で俺が来たか分かるよな?」
若頭と言う言葉にざわつくチンピラ共をよそに智影は部屋の奥へ進んで行き、袋叩きにされボロボロとなっている男の前で立ち止まった。
「末端の更に下っ端とは言え、躾が行き届かなくて悪かった」
腫れ上がった瞼を何とか抉じ開けて返事の代わりに智影へ向けると、優しい微笑が返された。
「吉良」
智影が首を傾けると、吉良は男へと駆け寄った。
「大丈夫か?」
殴られ過ぎてしゃべれないのか、男は僅かに頷くだけだった。
「こいつを病院に連れて行く。俺の分も頼むぞ」
「ああ。きつめに教育しておく」
震えるチンピラを尻目に、吉良は男と共にビルを出た。
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