婚活のサラリーマン

彼女は28歳のアメリカ人女性だった

居眠りをしていて、私の手からすべり落ちたiPhoneを、彼女は拾ってくれていた。

「サンキュー」

私は頭を下げた。

この後祖母にお土産の中華饅頭の月餅を買う為、トラムに乗ってコーズウェイベイの百貨店に行く予定であった。

公園を出て、トラムの乗り場に行くと、先程のブロンドの女性がトラムを待っていた。

私は会釈をした。

彼女はニッコリ笑ってくれた。

私は日本から旅行で来ていて、今からコーズウェイベイの百貨店にお土産を買いに行くところだと伝えた。

彼女は、今日は仕事が休みで時間があるので、もしよかったら香港を案内してくれると言ってくれた。

これも旅の出会いってやつなのか。

私は彼女にお礼を言い、一緒に香港を歩いてもらうことにした。

コーズウェイベイの百貨店でお目当ての月餅を買い、私達は昼を食べに行くことにした。

やはり飲茶を勧められたので、彼女の言う通りにおすすめの飲茶レストランに行った。

店の中に入ると、白いテーブルクロスがかけられた丸いケーブルがたくさん並んでいた。

テーブルクロスにはシミがついていたりもしたが、そんなことは海外を旅行するのに気にしてはいけないことなのだと、この数日間で学んだ。

郷にいれば郷に従えだ。

日本には日本のきめ細かい気遣い、おもてなしの文化があり、清潔で素晴らしいが、ここ香港ではとにか
くエネルギッシュで、パワフルだ。

商売にかける情熱は刺激になる。

それでいて困っている人を見ると助けずにはいられない厚い人情もあり、私は香港をすっかり気に入っていた(実際にこの旅行でも何回も香港の人には助けられた)。

彼女は28歳の、香港島の金融機関で働くアメリカ人女性であった。

香港に赴任して1年半ほど経つらしい。

香港島のマンションで一人で暮らしていた。

一番人気の、そうめい茶というお茶を選び、注文し待っていると、蒸籠が乗ったワゴンを転がしながら、おばちゃんが点心を売りにきた。

食べたい点心を指刺すと、おばちゃんは蒸籠を私に渡してくれた。

点心はとても美味かった。

もっと早くに食べるべきであったと思った。

両親への茶器の土産を買おうと思っているが、どこかいい店を知らないか聞いてみた。

飲茶レストランを出て、彼女はおすすめのお店に連れて行ってくれた。

店員に両親へのプレゼントだと伝えると、店の奥からもいろいろな絵柄の茶器を出してくれた。

そのあと私達はSOHOという欧米的な雰囲気を持つエリアにあるスターバックスに入った。

店内にいるお客は白人の人が多く、ここは香港であることを忘れてしまいそうであった。

「ここのエリアには香港にある企業で働いている欧米人達がよく来るのです。私もここのスターバックスはたまに利用しています。」

と彼女は言った。

背の高い白人の男性が彼女に近づき声をかけた。

「ハイ、トニー」

彼女は言った。

知り合いらしかった。

トニーは彼女を肘でこずき、いたずらっぽい笑顔を見せた。

本当に勘違いして冷やかしているのかはわからなかったが、そんなことには気づいていないフリをして、彼に会釈をした。

彼が去り、私は彼女に、何か勘違いさせてしまって悪かったと、Google翻訳を使い、伝えた。

彼女は、ノープロブレム！と言い、笑った。

スターバックスを出て、二人でSOHOをブラブラした後、彼女のおすすめの中華料理を食べに行った(ここのエビのチリソースは絶品であった)。

ヴィクトリアハーバーに面してそびえ立つ高層ビル群が、サーチライトやレーザーを出し、イルミネーションで夜景を演出する、シンフォニーオブライツというショーが20時から行われる。

私達は九龍島から香港島の夜景を見る為、チムサァチョイのプロムナードへ向かった。