雪の降り積もる夜に

原口源太郎

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 本田は藤田たちが戻って来るまでに頭の中をもう一度整理しようとした。色々な事があり過ぎて、下手に考えると余計にわからなくなってしまいそうだった。
 エレベーターのドアが開いた。先ほどまでそこにいた四人の刑事が出てくる。本田は緊張して全身に震えが走った。
「何か話したいことがあるって?」
 本田の前に来て林が尋ねた。
「はい。お忙しところ、申し訳ありません」
「そんなことはいい」
「死亡した被害者についてなのですが、いくつかおかしなところがあると思います」
 本田はそこで言葉を切った。
「何だ? 言ってみなさい」
 林が催促する。
「被害者は頭を殴られた後に机に覆い被さるように倒れています。血液の流れた痕がそれを証明しています」
「うむ」
 林が頷く。他の三人は黙ったまま聞いている。
「そんな状態で被害者はメッセージを書いています。それも雑誌の余白にきちんと書いています。そんなことができるでしょうか」
 本田は林に問いかけた。
「できないとは言い切れん。簡単にはできないし、偶然もあるかもしれない」
「それから、被害者はなぜそんなメッセージを書いたのでしょう。普通なら助けを呼ぶのが先だと思います。机の上にはスマホもありました。しかしそれには触れていないようでした」
「確かにそうだ」
「それならそのメッセージは被害者が書いたものではなく、別の人物が書いたのではないでしょうか。書くとしたら誰か。とどめを刺した犯人が出頭してきた女に罪を被せるために書いたのでしょうか。しかしそんなものがなくても、現場の状況から犯人は誰かということはすぐにわかるはずです。メッセージなど書く必要がないのです。他に書きそうな人物がいたとしたら、交番に来た女です。しかし自分でわざわざ自分が犯人と書くとも思えません。すると、誰もメッセージを書く必要のある人物がいません」
 本田は自分の言っていることがうまく伝わっているか心配になって、刑事たちを見まわした。特別質問のありそうな人はいないようだ。
「そこで私は一生懸命考えました。何でそんなものがあるのだろうか。そう考えているうちに、別の事に気が付きました。エレベーターです。何で四階にあったのだろう。犯人が四階で降りたのではありません。四階には誰もいなかったのですから。それでは犯人か他の第三者がエレベーターを四階に移動しておいたことになります。最後にエレベーターを使ったのは交番に来た女です。エレベーターは一階にあったはずです。それを四階まで上げたのは誰か。マンションの四人の住人か、交番に来た女か、あるいは別の人物か。そして四階にあげた理由は何か。単純に考えれば、殺人は四階に住んでいる者が行ったように見せかけようとしたということになります。しかし二度目に被害者の頭を殴った者は冬美が犯人だというメッセージを見ているわけですし、女の犯行に見せかける細工もしています。エレベーターをわざわざ四階に上げておく必要はありません。それに、このマンションの住人は皆、四階に誰もいないことを知っています。しかし、それを知らない人物がいます」
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