似た女

原口源太郎

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殺しに来た男・1

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 不意に男が手を放した。
 私は全身の力が抜けて、その場に倒れ込んだ。
「お前は誰だ? 美穂じゃないのか?」
 のどが痛くて声が出せずに、咳ばかりが出た。
 私は男を見て、人違いだと知らせるために、何度も首を横に振った。
 男がポケットから何かを取り出して、私の顔を見る。
「これはお前か?」
 男が見せたのは写真だった。
 どこかで撮られた写真・・・・あのダイエットの時のだ。
「わ・・・た、し、です」
 何とか出せるようになった声で答えた。
「あの野郎!」
 男は叫ぶように言い、家から飛び出していった。

 私は警察に電話しようと、這うようにして居間まで行った。
 スマホを手にしたまま、私は考えた。
 警察に何て言えばいいのだろう。誰か知らない男に殺されそうになった。男は殺す相手が私でないことに気が付いて去っていった。
 それ以外に何もわからない。
 しばらく考えていると、また玄関のドアが開く音がした。
 私はドアのカギをかけることすらしていなかったことに気が付いた。
 またあの男が入ってきた。
「さっきは済まなかった」
 男は素直な感じに頭を下げた。
 私は恐怖に凍り付いて何も言うことができなった。
「ムショを出たとき、昔の仲間から、今の美穂が使っているというあんたの名前と住所を教えてもらい、その時にこの写真も渡された。今の美穂の姿だと。てっきり俺は信じちまっていたが、あいつも美穂とグルだったわけだ」
 男の話を聞いても、さっぱりわからない。でも、あのダイエットの事と関係があるとすると、ミホというのは私に似た女社長で、私は身代わりにされそうになったのかもしれない。
「俺には美穂を捜す手がかりが何もねえ。それで、この写真に覚えがあるのなら、何でこれが俺のところに来たのか教えてくれ」
 この人はミホという人を捜し出して復讐するつもりらしい。
 私は男の事情を教えてもうことを条件に、半年前の出来事を話した。
「そういうことか。俺たちの盗んだ金でいい思いをしやがって。ダイエットの会社なんて嘘っぱちだ。すんでのところであんたが別人だと気が付いてよかったぜ」
 そう言うと、男はいきさつを話してくれた。

 十年ほど前に二人組の男が銀行に押し入ったことがあった。一人が拳銃でその場にいた女性客を撃って怪我をさせた事件で、かなり世間を騒がせたから私も覚えている。
 強盗の計画と段取りとメンバー集めをミホという女が行い、私の目の前にいる男ともう一人が実行役になり、もう一人未成年の子が逃走用の車の運転手で、四人での犯行だった。
 運転手だった子は、半年前に街で私に声をかけた男に違いない。
 私と話をしている男が金を集める役で、もう一人が拳銃で脅す役だった。
 銀行に押し入った時、フロアにいた客の一人がパニックになって騒ぎ、脅す役の男がつい発砲してしまった。皮肉なことに、それで現金を奪うことはうまくいったらしい。
 ところが、その後金を手にした女が裏切り、警察がアジトに踏み込んで二人を逮捕した時には、女と若い男の姿と金はどこにもなかった。
 男は簡単ないきさつを語り終えると、私に背を向けた。
「悪かったな」
 もう一度そう言って男は小さく頭を下げた。
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「お願い、もうやめて。これ以上罪を重ねるのはやめて」
 男は一瞬足を止めたが、すぐに動き、部屋を出ていった。
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