15 / 15
15
しおりを挟む
ラ・シュー基地に帰還すると、ユウはすぐにヨーロッパ地域への異動を願い出た。
ヨーロッパでは両軍とも軍備の増強が続き、間もなく大きな戦いが起こるといわれている。
スカイはキャスに言われた、死に急ぐなという言葉を何度も口にしてユウのヨーロッパ行きを思い留まらせようとした。
ユウはダブルドラゴンとの戦いで心に傷を負っていた。
あの時、スカイから敵のFマシーンが出撃したと連絡があり、十分警戒をしていたつもりだった。それなのに一瞬の攻撃でユウのF104は破壊された。さらにとどめを刺す時間は十分にあったはずなのに、敵のFマシーンはそれをしなかった。
戦いの場を何度も経験し、スカイには及ばないにしろ、大抵のパイロットよりもF104を上手く扱えると自負していたユウにとって、それは屈辱的なことだった。敵のFマシーンはユウのF104を子供扱いしているとしか思えてならなかった。
だからこそ、激しい戦闘が行われる地で自分の力を試し、技量を上げて再びあのFマシーンと戦いたい。それがユウの異動を願い出た理由だった。
数週間後にユウの配属転換の連絡が入り、ユウは慌ただしく荷物をまとめてラ・シューを出ていった。
やがて東ヨーロッパで大規模な戦闘が始まった。
Fマシーンの新たな供給は途絶え、スカイたちはルー・ソシア部隊が残していった腕の曲がったF104を修理して使用した。連邦軍はその地域での勢力を維持する気はないようで、ラ・シューはすぐに前線基地としての役割を失い、スカイはあちこちの基地を転々として過ごした。
ヨーロッパでの戦いは凄惨を極め、日々入ってくる情報は宇宙同盟軍にとっていいものではなかった。
やがて数カ月にも及んだヨーロッパで戦闘は同盟軍の敗北という形で終えることとなった。
連邦軍が次々と戦場に投入したダブルドラゴン型の移動要塞は終戦時にほとんどが存在していたが、宇宙同盟軍は数多くのFマシーンを失った。
ヨーロッパでの敗戦の数日後に宇宙同盟軍は地球連邦軍と平和条約を結び、地球上からの撤退を表明したが、実際には同盟軍の敗北だった。
スカイは戦争が終わると退役し、母が一人で暮らす故郷の宇宙ステーション№10に帰った。
ユウは激戦のヨーロッパで何度も死にそうになりながらも生き延び、数々の功績を挙げた。戦争中は戦いが終わったら地球に残って暮らしたいとスカイに語っていたが、結局ユウも生まれ故郷の宇宙ステーション№21に戻っていった。
スカイは宇宙に帰ってからもユウと連絡を取り合い、いつかお互いのステーションを訪ねるという約束をし、その日が来るのを楽しみにして過ごした。
そしてもう一人、スカイには終戦後に連絡を取る人がいた。
父からスチファニーの連絡先を聞き、宇宙に戻ってからスカイはびっくり箱を開けるような気持ちでスチファニーと初めてのコンタクトを取った。宇宙ステーション№17に暮らすスチファニーは突然の連絡に驚いたが、スカイのことは覚えていた。
宇宙ステーション№17は宇宙に暮らす人々が増え、さらに増え続けることを想定して作物を供給する方法を研究する実験棟としての意味合いを持って建造された。狭い場所でいかに効率よく多くの食物を育てられるか。あるいは逆に広大な空間を作ってそこで食物を育てるといった施設があった。
戦争が始まると、その巨大な空間は同盟軍が地上用のFマシーンの動力性能のテストに使ったり、パイロットの操縦訓練の場として使用された。戦争時に連邦軍が宇宙ステーション№17を攻撃しようとした理由はそこにあった。しかし実際にステーション№17が攻撃されることはなかった。
終戦を迎えると連邦軍は多くの人をステーション№17に送り込み、軍事関係の物は徹底的に排除された。やがて連邦軍の多くの人が去ると、宇宙ステーション№17は戦争前の穏やかな姿を取り戻した。
スカイはそれほど大きくはないステーション間連絡船に乗り、シートに座った。エンジンが始動し、微かな振動が伝わってくる。
スチファニーはスカイが想像していたように、いや、それ以上に美しくなっていた。幼い頃の記憶は断片的でしかないが、それでもいくつものスチファニーと過ごした場面を覚えている。自分より幼かったスチファニーはどれほど自分の事を覚えていてくれるのだろうか。
そんなことを思いながらスカイは宇宙ステーション№17へと向かう船の中から、ゆっくりと遠ざかっていくステーション№10の巨大な宇宙ドックを見ていた。
終わり
ヨーロッパでは両軍とも軍備の増強が続き、間もなく大きな戦いが起こるといわれている。
スカイはキャスに言われた、死に急ぐなという言葉を何度も口にしてユウのヨーロッパ行きを思い留まらせようとした。
ユウはダブルドラゴンとの戦いで心に傷を負っていた。
あの時、スカイから敵のFマシーンが出撃したと連絡があり、十分警戒をしていたつもりだった。それなのに一瞬の攻撃でユウのF104は破壊された。さらにとどめを刺す時間は十分にあったはずなのに、敵のFマシーンはそれをしなかった。
戦いの場を何度も経験し、スカイには及ばないにしろ、大抵のパイロットよりもF104を上手く扱えると自負していたユウにとって、それは屈辱的なことだった。敵のFマシーンはユウのF104を子供扱いしているとしか思えてならなかった。
だからこそ、激しい戦闘が行われる地で自分の力を試し、技量を上げて再びあのFマシーンと戦いたい。それがユウの異動を願い出た理由だった。
数週間後にユウの配属転換の連絡が入り、ユウは慌ただしく荷物をまとめてラ・シューを出ていった。
やがて東ヨーロッパで大規模な戦闘が始まった。
Fマシーンの新たな供給は途絶え、スカイたちはルー・ソシア部隊が残していった腕の曲がったF104を修理して使用した。連邦軍はその地域での勢力を維持する気はないようで、ラ・シューはすぐに前線基地としての役割を失い、スカイはあちこちの基地を転々として過ごした。
ヨーロッパでの戦いは凄惨を極め、日々入ってくる情報は宇宙同盟軍にとっていいものではなかった。
やがて数カ月にも及んだヨーロッパで戦闘は同盟軍の敗北という形で終えることとなった。
連邦軍が次々と戦場に投入したダブルドラゴン型の移動要塞は終戦時にほとんどが存在していたが、宇宙同盟軍は数多くのFマシーンを失った。
ヨーロッパでの敗戦の数日後に宇宙同盟軍は地球連邦軍と平和条約を結び、地球上からの撤退を表明したが、実際には同盟軍の敗北だった。
スカイは戦争が終わると退役し、母が一人で暮らす故郷の宇宙ステーション№10に帰った。
ユウは激戦のヨーロッパで何度も死にそうになりながらも生き延び、数々の功績を挙げた。戦争中は戦いが終わったら地球に残って暮らしたいとスカイに語っていたが、結局ユウも生まれ故郷の宇宙ステーション№21に戻っていった。
スカイは宇宙に帰ってからもユウと連絡を取り合い、いつかお互いのステーションを訪ねるという約束をし、その日が来るのを楽しみにして過ごした。
そしてもう一人、スカイには終戦後に連絡を取る人がいた。
父からスチファニーの連絡先を聞き、宇宙に戻ってからスカイはびっくり箱を開けるような気持ちでスチファニーと初めてのコンタクトを取った。宇宙ステーション№17に暮らすスチファニーは突然の連絡に驚いたが、スカイのことは覚えていた。
宇宙ステーション№17は宇宙に暮らす人々が増え、さらに増え続けることを想定して作物を供給する方法を研究する実験棟としての意味合いを持って建造された。狭い場所でいかに効率よく多くの食物を育てられるか。あるいは逆に広大な空間を作ってそこで食物を育てるといった施設があった。
戦争が始まると、その巨大な空間は同盟軍が地上用のFマシーンの動力性能のテストに使ったり、パイロットの操縦訓練の場として使用された。戦争時に連邦軍が宇宙ステーション№17を攻撃しようとした理由はそこにあった。しかし実際にステーション№17が攻撃されることはなかった。
終戦を迎えると連邦軍は多くの人をステーション№17に送り込み、軍事関係の物は徹底的に排除された。やがて連邦軍の多くの人が去ると、宇宙ステーション№17は戦争前の穏やかな姿を取り戻した。
スカイはそれほど大きくはないステーション間連絡船に乗り、シートに座った。エンジンが始動し、微かな振動が伝わってくる。
スチファニーはスカイが想像していたように、いや、それ以上に美しくなっていた。幼い頃の記憶は断片的でしかないが、それでもいくつものスチファニーと過ごした場面を覚えている。自分より幼かったスチファニーはどれほど自分の事を覚えていてくれるのだろうか。
そんなことを思いながらスカイは宇宙ステーション№17へと向かう船の中から、ゆっくりと遠ざかっていくステーション№10の巨大な宇宙ドックを見ていた。
終わり
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
バーチャルアイドル「アリス」の配信と本音
クライン・トレイン
SF
突如現れたバーチャルアイドル「アリス」
ぶりっこキャラという設定を活かして様々なモーションをするアリス
そんなアリスにリスナーはメロメロだった
そして配信も形を変えていく
バーチャル空間という技術領域を使って
様々な形でリスナーを獲得していくアリス
その果てにあるアリスの配信と本音
リスナーとのやり取りは技術が加速していくにつれて
配信もバーチャル空間配信を活かした配信へと切り替わっていく
アリスの目的は製作者(マスター)が知っている
フォルスマキナの福音
れく
SF
いじめられていた主人公・時風航汰はある日、夜の学校に呼び出され、そこで現実とは思えない光景を見てしまう。近未来の七賀戸町で起こる機械生命体と突然変異種との戦い。
※処女作「幽霊巫女の噂」と同一舞台・近未来設定のお話です。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。
遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。
その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
薄い彼女
りゅう
SF
今年、大学四年になる神岡龍一は迷っていた。
就職先を決められないのだ。
そんな時、付き合っていた彼女の一言で彼の人生は大きく変わることになった。
彼女はこう言ったのだ。
「私には予知能力があるの」
もちろん、この一言で彼の人生は変わるのだが、それよりも驚いたのは彼女の存在確率が極めて低いという事実だった。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる