18 / 24
18
しおりを挟む
雪美の父、佳一がふらりと部屋に入ってきた。
「犯人の手がかりは何か掴めましたか?」
ソファに座る刑事たちに尋ねる。
「いや、済みません。目撃情報と監視カメラから、娘さんを連れ去ったのに使われたと思われる車の車種が特定されました。現場から20キロ程離れたところで乗り捨てられた該当車両と思われる車を発見したのですが、その後の足取りが掴めていません。車は盗難車でした。犯人はかなり周到に準備をしていたと思われます」
「そうですか」
佳一は力なく言った。
「あと、金の用意の手はずはできました。受け渡しの時はどのように行動すればいいのですか?」
「明日、吉田刑事が来ますので、そのときに打ち合わせをします」
「はい。わかりました」
佳一はまた力なく返事をした。
「大丈夫ですよ。娘さんは無事に帰ってきます。そして必ず犯人も捕まえます」
雪美の父を元気づけるように刑事がった。
「どうだった? 二人だけの夜は」
昼に足立が顔を見せるなり言った。
「何言ってるんですか」
大石がむっとしたように応える。
「お前ら、この頃やけに打ち解けてないか?」
「ないです」
大石は即座に否定した。だが昨夜、自分のことを色々と話してしまった。今までのお互いに何も知らなかった時と何かが違う。
「それで今朝は何を食わせてもらったんだ?」
「ん、・・・・まあ」
大石が口ごもる。
「ん? 雪美ちゃん、何を作ってやったの?」
「スパゲティ」
それまで黙っていた雪美がニコニコして言った。
「ミートスパゲティ?」
「そう」
雪美は嬉しそうに言った。
「やっぱり来てない」
授業の始まる前に、教室の中を見ながら翔司が俊輔に言った。
二人は夏香の机の前まで歩いていった。
「どうだった?」
俊輔が尋ねる。
雪美のスマホに電話をしても繋がらないので、自宅の方にかけてみると夏香が昨日言っていた。
「風邪をひいて寝込んでるんだって」
「風邪?」
「うん。そう言われちゃうと家に行ってみるってわけにもいかない。寝込んでいるところにお見舞いって雰囲気じゃないし、第一、雪美のお母さん、暗に来てもらっては困りますって言っているようだった」
「何だか怪しい」
「土曜日から怪しいよ」
「そうか」
勇介は素っ気無く言った。
「諦めちゃうの?」
「何を?」
「雪美がどうなったか知ること」
「俺たちがどうのこうの言っても仕方がないだろ」
そう言って俊輔は自分の机へと歩いていった。
別にお料理することが嫌になったわけじゃないけれど、スパゲティばかりじゃやっぱり飽きちゃうし、別のものを作ろうと思っても上手くできずにイライラするだけだもん。
雪美は雑誌から顔を上げて男を見た。
「ん? 飯の支度?」
雪美の視線に気が付いた大石が尋ねる。
「うん・・・」
何気なく返事をして、再び雑誌に目を落とす。
みんなどうしているかな。夏香たちはどれほど心配してくれているだろう。俊輔君も心配してくれているのかな。
いけない、いけない。暗くなったりしては。明後日には家に帰れるんだ。
ふたたび雪美は顔を上げて大石を見た。
大石も雪美を見る。
そして立ち上がると部屋を出ていった。
あの人は何を考えているのかわからない。ずーっと同じ姿勢で雑誌、時々スマホ。私だったら耐えられそうにない。かといってお料理も・・・・。今度は大掃除でもしようか。
「おーい、料理教えてやるから来いよ」
台所の方から大石の声が聞こえてきた。
雪美はパッと立ち上がると、急いでいる様子を悟られないように急いで台所へ向かった。なぜそんなふうにしたのかなんて考えもしなかった。
「犯人の手がかりは何か掴めましたか?」
ソファに座る刑事たちに尋ねる。
「いや、済みません。目撃情報と監視カメラから、娘さんを連れ去ったのに使われたと思われる車の車種が特定されました。現場から20キロ程離れたところで乗り捨てられた該当車両と思われる車を発見したのですが、その後の足取りが掴めていません。車は盗難車でした。犯人はかなり周到に準備をしていたと思われます」
「そうですか」
佳一は力なく言った。
「あと、金の用意の手はずはできました。受け渡しの時はどのように行動すればいいのですか?」
「明日、吉田刑事が来ますので、そのときに打ち合わせをします」
「はい。わかりました」
佳一はまた力なく返事をした。
「大丈夫ですよ。娘さんは無事に帰ってきます。そして必ず犯人も捕まえます」
雪美の父を元気づけるように刑事がった。
「どうだった? 二人だけの夜は」
昼に足立が顔を見せるなり言った。
「何言ってるんですか」
大石がむっとしたように応える。
「お前ら、この頃やけに打ち解けてないか?」
「ないです」
大石は即座に否定した。だが昨夜、自分のことを色々と話してしまった。今までのお互いに何も知らなかった時と何かが違う。
「それで今朝は何を食わせてもらったんだ?」
「ん、・・・・まあ」
大石が口ごもる。
「ん? 雪美ちゃん、何を作ってやったの?」
「スパゲティ」
それまで黙っていた雪美がニコニコして言った。
「ミートスパゲティ?」
「そう」
雪美は嬉しそうに言った。
「やっぱり来てない」
授業の始まる前に、教室の中を見ながら翔司が俊輔に言った。
二人は夏香の机の前まで歩いていった。
「どうだった?」
俊輔が尋ねる。
雪美のスマホに電話をしても繋がらないので、自宅の方にかけてみると夏香が昨日言っていた。
「風邪をひいて寝込んでるんだって」
「風邪?」
「うん。そう言われちゃうと家に行ってみるってわけにもいかない。寝込んでいるところにお見舞いって雰囲気じゃないし、第一、雪美のお母さん、暗に来てもらっては困りますって言っているようだった」
「何だか怪しい」
「土曜日から怪しいよ」
「そうか」
勇介は素っ気無く言った。
「諦めちゃうの?」
「何を?」
「雪美がどうなったか知ること」
「俺たちがどうのこうの言っても仕方がないだろ」
そう言って俊輔は自分の机へと歩いていった。
別にお料理することが嫌になったわけじゃないけれど、スパゲティばかりじゃやっぱり飽きちゃうし、別のものを作ろうと思っても上手くできずにイライラするだけだもん。
雪美は雑誌から顔を上げて男を見た。
「ん? 飯の支度?」
雪美の視線に気が付いた大石が尋ねる。
「うん・・・」
何気なく返事をして、再び雑誌に目を落とす。
みんなどうしているかな。夏香たちはどれほど心配してくれているだろう。俊輔君も心配してくれているのかな。
いけない、いけない。暗くなったりしては。明後日には家に帰れるんだ。
ふたたび雪美は顔を上げて大石を見た。
大石も雪美を見る。
そして立ち上がると部屋を出ていった。
あの人は何を考えているのかわからない。ずーっと同じ姿勢で雑誌、時々スマホ。私だったら耐えられそうにない。かといってお料理も・・・・。今度は大掃除でもしようか。
「おーい、料理教えてやるから来いよ」
台所の方から大石の声が聞こえてきた。
雪美はパッと立ち上がると、急いでいる様子を悟られないように急いで台所へ向かった。なぜそんなふうにしたのかなんて考えもしなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる