少年少女たちの日々

原口源太郎

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 俊輔は用心しながら戦車の外に出ると、建物の廊下へと走った。
 人気のない廊下を注意深く進む。
 少し先で銃声が響いた。
 俊輔は走り出す。
 その時、キュンと音がして頬に衝撃が走った。
 俊輔は反射的にその場に身を伏せて辺りを注意深く伺う。頬に手を当てると血が流れていた。
 起き上がると走った。
 パンパンパンと音がして、近くを銃弾が通り過ぎていった。
 一つの部屋に人影が消えるのが見えた。
 俊輔はその部屋に飛び込むと同時にそこに立つ人にけりを入れる。
 よろめいてうずくまったのは軍服姿の女だった。
 女が顔を上げ、俊輔を見て驚いた顔になる。
「子供?」
 俊輔は女から拳銃を取り上げた。
「俺たちは敵じゃない。敵だけど、敵じゃない。船が難破してここに流れ着いたんだ」
「そう。あの子たちも一緒?」
「そう。スパイと間違われた。だから助けに来た。彼女たちはどこにいる?」
「この奥」
「じゃ、俺は行くよ」
 俊輔は用心深く女に拳銃を向けたまま部屋を出ていこうとする。
「もう何もしないわ」
 廊下に出ると、前方から走ってくる足音が聞こえてきた。
 俊輔は慌てて部屋に戻る。
「どうしたの?」
「誰か来る」
「私が話してあげる。みんな事情を知らないだけだから」
 廊下を走ってきたのは軍人に連れ去られた親子と老人、少女たちだった。最後尾を山田が後ろ向きに進んでくる。時々拳銃を構え、後方へと撃っている。
「あとは真直ぐに行くだけでいい!」
 山田が怒鳴った。
 俊輔が廊下に出ると、先頭を走っていた真希が驚いて悲鳴を上げた。
「こっちだ」
 俊輔が先頭に立って走る。
 戦車のところに来ると翔司が主砲の上についた機関銃のところにいた。
 俊輔は老人をハッチのある上部に押し上げる。主砲の横にあるハッチの近くには修がいて、老人を引き上げた。
「敵が来るぞ!」
 俊輔は翔司に言った。
 翔司はガチャンガチャンと音をさせて機関銃を撃てるように準備した。
 俊輔は全員が戦車の中に入るのを手伝った。
 少し遅れて山田がやってきた。太腿が赤く染まり、足を引きずっている。
「お前も戦車に乗れ!」
 山田が言った。
「はい」
 俊輔は戦車に飛び乗った。軍人に手を差し伸べ、山田を引き上げようとする。
 山田は足に力が入らないらしく、なかなか上がらない。
 修が加わり、やっと引き上げた。
 その時、敵の軍人たちが姿を現し、拳銃を撃ってきた。
 ハッチから中に入ろうとしていた山田が転げ落ちる。
 俊輔は慌ててその後を追おうとする。
「来るな! 行け!」
 山田が渾身の力で叫んだ。
 さらに数発の銃声がして、それきり山田の声は聞こえなくなった。
 バリバリバリと激して音がして、敵の軍人たちが倒れた。翔司が機関銃を撃った音だった。
 俊輔はその隙に下に跳び下りて山田を見た。山田は体の数カ所から血を流して絶命していた。

 俊輔は再び戦車に飛び乗り、中に入った。
「行くぞー!」
 修が運転席で叫び、戦車が動き出した。
 主砲上のハッチから戻った翔司が主砲の操縦席に座る。
 中央の部屋では二人の老人と親子、三人の少女たちが身を寄せあっていた。その部屋は人員輸送ができるように設計してあるのか、それだけの広さがあった。
「山田さんは?」
 不安そうな目で梨花が俊輔に尋ねた。
 俊輔は黙って首を振る。
 梨花は両手で顔を覆った。
「泣いている暇はない。みゆきと真希はこっちに来てくれ」
 そう言って俊輔は後方の部屋に行った。
 そこは前方の部屋と同じように狭く、身を屈めて三人がやっと入れるくらいだった。
「これはミサイルを撃ち落とす装置だって山田さんが言っていた。扱いはゲームと同じ、ミサイルや戦闘機を狙って撃つ。この横にあるスイッチを入れれば、多分レーダーと連動して自動でミサイルを撃ち落としてくれると思う。自動にしておけばいいと思うけれど、何かあったら手動に切り替えて対応してくれ」
 俊輔はその後、簡単に扱い方法を説明して中央の部屋に戻った。
 真希はもう泣いてはいなかった。戦車はガタガタ揺れ、時々大きな音がしてビリビリと振動する。
「真希、四人を頼む。何かあったら真希の判断で行動してくれ」
 俊輔の目を見て、真希は強い目で頷いた。

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