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少し離れた森の茂みで、三人の少年が穴を掘っている。
「こんな穴だけじゃ辛いぞ」
額の汗を拭きながら修が言った。
「向こうの川から水を引いてきたら? 少し上から引いてきて、また下流に戻す」
俊輔が言う。
「ナイスアイディア!」
「思いっきり大変だぞ」
二人の会話を聞いていた翔司が言った。
「まあ、頑張ってやってみよう」
俊輔が言い、三人は川に向かって溝を掘り始める。
「ここでずっと暮らすのかな?」
溝を掘りながら修が言った。
「そんな訳ないだろ」
翔司も手を休めずに言う。
「ここが南海の孤島だとして、昔の人みたいに何年も発見されなかったらどうする?」
「そんな訳ないって」
「でも今は戦争中だぜ」
「そんな暗いこと言うなよ」
「じゃ、明るく、ここで何年も暮らすとして」
「暗いじゃねえか」
「終わりまで聞けよ。何年も暮らすとしたら、ここで結婚して」
「バカバカしい」
「いいだろ。誰と誰がくっ付くと思う?」
「知らねえよ」
「おい、修、手休めるなよ。みんな待っているんだから」
俊輔が二人の会話に割って入った。
「はいはい」
いつの間にか休んでいた修は、再び溝を掘り始める。
「シュンはみゆきとだろ、ショウは真希と。じゃ、俺は梨花とだ」
「何言ってる。あの軍人さんがいるだろ。みんな取られちまうよ」
「うわ、ガーン」
「そんなことになるわけないだろ。すぐに帰れるさ」
俊輔が言った。
「シュンはいいよな。みゆきはお前に惚れているんだから」
「変なこと言うなよ。俺は別にみゆきのことが好きだなんて言った覚えはないし」
「じゃ、嫌いなのか」
「何でそうなるんだよ。ちょっとお前、口閉じてろ」
少し離れたところで他の者たちが作業をしている。小さな木を切ったり、草を抜いたり、地面の凸凹を慣らしたり。
「これが戦争中じゃなかったらいいのに」
「ん?」
みゆきが不思議そうに真希を見る。
「青い海に青い空。白い砂浜。一度来てみたかったんだ」
「私も」
梨花が真希の言葉に同意した。
「ふーん」
「みゆきー。みゆきはいつも冷めているんだから」
「私は夢もロマンもない人だから」
「いつもシュン君シュン君言っているのに?」
「言ってないよ」
「照れてる照れてる」
「照れてない照れてない」
「そう?」
真希がみゆきの顔を覗きこむ。
みゆきはその場を離れて親子のところに行った。
「みゆき、怒っちゃった」
「何も隠さなくていいのに」
みゆきは子供の隣で草むしりを始めた。
「僕はいくつ?」
「よんさい」
「色々あって大変だったね」
「ううん、僕、ちっとも怖くなかった」
「そう、さすが男の子だね」
「お姉ちゃんもいちばんきれいだよ」
「わ、おませちゃんね。でもありがとう」
子供の母親がくすくすと笑った。みゆきが見た母親の初めての笑顔だった。
日が傾き、オレンジの日差しを水面が長く跳ね返す頃、軍人の山田が帰ってきた。
「どうでした?」
俊輔が尋ねた。
「敵国の領地に流れ着いたらしい。幸い戦場ではない」
「昼間のドーンドーンという音は何だかわかりましたか?」
「戦車だ。全く見たことのない大きな戦車だ。これから前線に配備されるところじゃないかな」
「これからどうします?」
「取りあえず食い物だ。それからボートを運んでこよう。必要になるときがあるかもしれない」
軍人と少年たちは波打ち際からボートを運んできて低い木の茂みに隠した。
山田が小さないびきをかいて眠っている。老人夫婦と親子も死んだように寝入っている。
「ねえみゆき、起きてる?」
真希が横になったまま隣のみゆきに小さな声で話しかけた。
「うん」
みゆきも小さな声で返事をする。
「梨花は?」
梨花はスース―寝息を立てている。
「ねえ、みゆき、好きな人いる?」
「うん」
「やっぱり、シュン君?」
「え? さあ」
「いいじゃない、言っちゃいなさいよ」
「ヒミツ」
「帰れないかもしれないのよ。ここで死んじゃうかもしれないのよ」
「だって、ショウ君たちが聞いているんだもん」
「ん!」
真希が顔を上げて横になっている翔司たちを見る。
翔司と修がピクリと動く。
「さて、寝よ寝よ」
「俺は好きだよ」
そう言って翔司ががばっと起き上がる。
「俺は真希が好きだ」
そう言って翔司は再びがばっと寝てしまう。
真希は闇の中で頬を赤く染める。
横になって寝ている梨花の目から涙が一筋流れ落ちた。
「こんな穴だけじゃ辛いぞ」
額の汗を拭きながら修が言った。
「向こうの川から水を引いてきたら? 少し上から引いてきて、また下流に戻す」
俊輔が言う。
「ナイスアイディア!」
「思いっきり大変だぞ」
二人の会話を聞いていた翔司が言った。
「まあ、頑張ってやってみよう」
俊輔が言い、三人は川に向かって溝を掘り始める。
「ここでずっと暮らすのかな?」
溝を掘りながら修が言った。
「そんな訳ないだろ」
翔司も手を休めずに言う。
「ここが南海の孤島だとして、昔の人みたいに何年も発見されなかったらどうする?」
「そんな訳ないって」
「でも今は戦争中だぜ」
「そんな暗いこと言うなよ」
「じゃ、明るく、ここで何年も暮らすとして」
「暗いじゃねえか」
「終わりまで聞けよ。何年も暮らすとしたら、ここで結婚して」
「バカバカしい」
「いいだろ。誰と誰がくっ付くと思う?」
「知らねえよ」
「おい、修、手休めるなよ。みんな待っているんだから」
俊輔が二人の会話に割って入った。
「はいはい」
いつの間にか休んでいた修は、再び溝を掘り始める。
「シュンはみゆきとだろ、ショウは真希と。じゃ、俺は梨花とだ」
「何言ってる。あの軍人さんがいるだろ。みんな取られちまうよ」
「うわ、ガーン」
「そんなことになるわけないだろ。すぐに帰れるさ」
俊輔が言った。
「シュンはいいよな。みゆきはお前に惚れているんだから」
「変なこと言うなよ。俺は別にみゆきのことが好きだなんて言った覚えはないし」
「じゃ、嫌いなのか」
「何でそうなるんだよ。ちょっとお前、口閉じてろ」
少し離れたところで他の者たちが作業をしている。小さな木を切ったり、草を抜いたり、地面の凸凹を慣らしたり。
「これが戦争中じゃなかったらいいのに」
「ん?」
みゆきが不思議そうに真希を見る。
「青い海に青い空。白い砂浜。一度来てみたかったんだ」
「私も」
梨花が真希の言葉に同意した。
「ふーん」
「みゆきー。みゆきはいつも冷めているんだから」
「私は夢もロマンもない人だから」
「いつもシュン君シュン君言っているのに?」
「言ってないよ」
「照れてる照れてる」
「照れてない照れてない」
「そう?」
真希がみゆきの顔を覗きこむ。
みゆきはその場を離れて親子のところに行った。
「みゆき、怒っちゃった」
「何も隠さなくていいのに」
みゆきは子供の隣で草むしりを始めた。
「僕はいくつ?」
「よんさい」
「色々あって大変だったね」
「ううん、僕、ちっとも怖くなかった」
「そう、さすが男の子だね」
「お姉ちゃんもいちばんきれいだよ」
「わ、おませちゃんね。でもありがとう」
子供の母親がくすくすと笑った。みゆきが見た母親の初めての笑顔だった。
日が傾き、オレンジの日差しを水面が長く跳ね返す頃、軍人の山田が帰ってきた。
「どうでした?」
俊輔が尋ねた。
「敵国の領地に流れ着いたらしい。幸い戦場ではない」
「昼間のドーンドーンという音は何だかわかりましたか?」
「戦車だ。全く見たことのない大きな戦車だ。これから前線に配備されるところじゃないかな」
「これからどうします?」
「取りあえず食い物だ。それからボートを運んでこよう。必要になるときがあるかもしれない」
軍人と少年たちは波打ち際からボートを運んできて低い木の茂みに隠した。
山田が小さないびきをかいて眠っている。老人夫婦と親子も死んだように寝入っている。
「ねえみゆき、起きてる?」
真希が横になったまま隣のみゆきに小さな声で話しかけた。
「うん」
みゆきも小さな声で返事をする。
「梨花は?」
梨花はスース―寝息を立てている。
「ねえ、みゆき、好きな人いる?」
「うん」
「やっぱり、シュン君?」
「え? さあ」
「いいじゃない、言っちゃいなさいよ」
「ヒミツ」
「帰れないかもしれないのよ。ここで死んじゃうかもしれないのよ」
「だって、ショウ君たちが聞いているんだもん」
「ん!」
真希が顔を上げて横になっている翔司たちを見る。
翔司と修がピクリと動く。
「さて、寝よ寝よ」
「俺は好きだよ」
そう言って翔司ががばっと起き上がる。
「俺は真希が好きだ」
そう言って翔司は再びがばっと寝てしまう。
真希は闇の中で頬を赤く染める。
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