Love letter

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
10 / 15

10

しおりを挟む
 昇降口が見える校舎の脇の茂みの向こうで大崎、河原、平、森下が小さくなっている。
 茂みの上に小型カメラ付きの棒と小さな傘の付いた集音マイクがあった。
 平が集音マイクを持ち、河原がカメラの付いた棒を持っている。森下はパソコンのキーボードを叩いて何やら操作している。
「見た?」
 森下がパソコンの画面を熱心に覗き込んでいる大崎に声をかけた。
「見た。今の澄香様の表情は今までと違う。ヤバイかもしれない」
「あの手紙を渡しちゃいけないよ」
 森下が叫ぶように言った。
「おい!」
 大崎は河原と平に合図をする。
 二人は手にしていたカメラとマイクを放り出し、大崎のあとに続いて茂みの陰から飛び出して走った。
「ややや」
 森下が河原の投げたカメラを地面の近くでキャッチし、大事そうに抱え込んだ。

 高校の校門近くに手紙がひらひらと舞い降りてくる。
 大雄は手を伸ばしてそれを受け取ろうとした。
 そこに大崎ら三人が駆け寄り、大雄を押しのける。
「な、なんだ、お前ら」
「手紙をよこせ」
 河原が言った。
「ふざけんな」
 大雄は三人を押し返し、地面に落ちていく手紙を手をのばす。
 体格のいい平が再び大雄を押しやり、手紙を手に取ろうとする。
 その瞬間、またも突風が吹き、手紙を舞い上げた。
「うお」
 平が残念そうに手を握りしめる。
 大雄がすかさず手紙を追って走り出し、あとの三人がそれに続く。

 村沢が付き合っている佐藤麻衣とにこやかに話をしながらやってきた。
 大雄たちに気が付き、足を止める。
「悪いけど、先に帰っててくれ」
 麻衣にそう告げ、村沢は手に持っていたリュックを放り出して駆け出す。
 手紙はひらひらと空を舞い、うっそうと茂る高い銀杏の木の中に消えた。
 木の下に大雄、大崎、河原、平、村沢がやってくる。
「例の手紙か」
 木の上を眺めている大雄の隣に立ち、村沢が尋ねた。
「そう」
「こいつらに邪魔されたのか?」
「いや、俺のミスだ。その後にこいつらがうじゃうじゃと現れた」
「人をゴキブリみたいに言うな」
 二人の会話を聞きつけた河原が言った。
「なんで野村の邪魔をするんだ」
「ヤバイからだ」
「ヤバイ?」
「とにかく手紙がいるんだ」
「お前らには関係ないだろ。人に見せられるか」
 それまで黙っていた大雄が河原に言った。
 そして靴と靴下を脱ぎ、銀杏の木に登り始めた。
「おい、危ないぞ」
「下りてこい」
 村沢と河原が言うが、大雄は忠告を聞き流してどんどん上っていった。

 ブーンという音とともに何かが近づいてきた。森下の制作したドローンだ。
 グラウンドの向こうの少し高くなったところに森下がいて、パソコンの画面を見ながらゲームのコントローラーのようなものを操っている。
 大崎はそれを認めると、河原の背中をそっと指で突いた。
「来い」
 そして平を見る。
「ここを頼む」
 そう告げると、森下の方へと駆け出した。河原もそれに続いた。

 森下は遠くを見ながらドローンを操作していた。
「誰かドローンを頼む」
 大崎と河原が行くと、森下はコントローラーを差し出した。
「操作の仕方がわからん」
 大崎が言った。もちろん河原も同じだ。
「じゃ、ちょっとだけ持ってて」
 放り出すようにして渡されたコントローラーを大崎が受け取る。
 森下はパソコンを操作し、すぐに大崎の持つコントローラーを取り上げた。
「パソコンの上下左右のキーでドローンのカメラを操作できるから。手紙がどこにあるか捜して」
「よし」
 大崎と河原がパソコンに張り付く。
 森下はグラウンドの向こうの銀杏の木の周りを飛ぶドローンとパソコンの画面を見ながらコントローラーを動かす。
「しかし、こんなにまでして手紙を奪う必要があるのか? それにもし手紙を手に入れたとして、それをどうする?」
 パソコンの画面を見ながら河原が大崎に尋ねた。
「手紙の内容を見てどうするか決める。内容を公にするか、あるいは本人に二度とこのような真似をしないよう忠告をするか」
「そんなことして大丈夫か? プライバシーの問題だ」
「うるさい。つべこべ言うな。澄香様を守るためだ」
「澄香様のプライバシーだってないじゃないか」
 河原は小声になって反論した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...