Love letter

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
7 / 15

しおりを挟む
 その日の夜、野村大雄は自分の部屋で机に向かって悩んでいた。
 机の周りには丸められた便箋がいくつも転がっている。
「貴殿のことを以前からお慕い申し上げておりました。貴殿とのお付き合いを申し込みたく・・・・」
 文字を口にしながっら書いていたが、突然手を止め、書きかけの便箋を切り取り、丸める。
「ウー、畜生、ダメだ」
 大雄は丸めた紙を放り出し、両腕を組んで考える。
「やっぱり口で言うのが本筋だろうな。でも、それができりゃ苦労しないんだよな」
 再び机に向かい手紙の内容について考える。
「日々、夏の暑さが増す今日この頃ですが、あなたは元気でお過ごしとのことと・・・・」
 大雄は書きかけた便箋を丸めて放り投げた。

 やがて時刻は過ぎ、ほとんどの人が寝静まった真夜中になった。
 突然の叫び声が闇をつんざく。
「よーし、できたー!」
 大雄の声。

 翌日の朝、登校中の大雄は後ろから声をかけられた。
「野村」
 大雄が振り向くと村沢がいた。
「よう」
「おはよう。何だ、眠たそうだな。何して遊んでた?」
 村沢は大雄と並んで歩く。
「遊んでない。手紙を書いてた」
「手紙? 誰に?」
「でかい声出すな。このことは誰にも内緒だ」
「なんの手紙だよ」
「そのうち話す。ところで村沢は麻衣と付き合うようになったきっかけは何だった?」
 麻衣というのは一学年下の村沢の彼女だ。
「は? なんだよ、いきなり」
「男と女が付き合うのって、難しいか?」
「さあ、俺はそんなに難しくなかったけど。手紙って、ラブレターか?」
「ん、まあ」
「誰に渡すんだよ」
「それは・・・それよりお前のことを聞かせろ」
「麻衣に付き合ってくれって言われた。それから付き合ってる」
「女の子の方から告白してきたのか? お前も麻衣ちゃんのことが好きだったのか?」
「いや。だけど中学の時から知っていたし、かわいい子だなとは思ってたよ」
「他に好きな人はいなかった?」
「いた。でもメチャクチャ好きとか、そういうんじゃなかったし、今じゃ麻衣のことを一番大切に思ってる」
「うへ、キザってえセリフ」
「俺のことを話したんだからお前のことも話せ」
「手紙を出す相手は青山だ」
「やっぱり。この前、岡本が告って振られたって聞いたぜ」
 その時、大雄と村沢の間に一人の男が割り込んでくる。
「今、青山の話をしてなかったか?」
 大雄と村沢の顔つきが変わる。割り込んできたのは河原だ。
「いや」
「青い山並みがきれいだなって」
「お前らがそんな話をするか。そうだ、いいことを教えてやろう。鈴木が振られた」
 大雄がおっといった表情を見せる。
「いつの話だ?」
 村沢がすかさず尋ねる。
「昨日。付き合ってください、ごめんなさい。いつものパターンだ」
「お前ら、そんな覗きみたいなことばかりして悪趣味だぞ」
 河原と言い合うのは村沢だ。大雄は黙って二人の会話を聞いている。
「青山澄香のファンクラブ会員としては当然のことをしてるまでのこと」
「いい迷惑だろうに」
「遠くで暖かく見守っているだけだ。だからファンクラブの正式名称は『青山見守り会』だ。迷惑なわけがない。何なら野村もファンクラブに入れ。村沢は確か彼女がいるんだったな?」
「遠慮しとく」
 大雄が即座に言った。
「だいたい何人いるんだよ、そのファンクラブに」
「会員番号5番まで。だから野村が入れば会員番号6番になってメンバーは六人になる。ちなみに俺は会員番号4番だ」
「そんなおかしな野郎どもが五人もいるのかよ」
 村沢が皮肉を込めて言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...