Love letter

原口源太郎

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 太陽が校舎の影を長く伸ばしている。
 部室が並ぶ建物の先の木陰に隠れるようにして、野球のユニフォーム姿の鈴木が立っている。
 セーラー服姿の青山澄香がおずおずと近づいてきた。
「よう」
 青山を認めて鈴木が言った。
 青山は無言で小さく頭を下げる。
「部活終わった?」
「ウン」
「俺はグランド整備サボってきちゃった」
 そう言って鈴木は口をつぐむ。
 二人は無言で地面を見つめる。
 しばらくして意を決したように鈴木は顔を上げて青山を見る。
「実はさ、俺、お前のことがずっと好きだった。付き合ってほしい」
 青山はうつむいたままでいる。
「今すぐに返事をくれなくてもいい」
「ごめんなさい。お付き合いできません」
 鈴木は何も言えずに青山を見つめる。
「ごめんなさい」
 青山は小さく頭を下げると足早に去っていった。
 鈴木はその後ろ姿を見送ったあと、いじけたように石ころを蹴飛ばした。

 部室棟近くの自転車置き場の陰から小さな棒が出て、時々ゆらりと動いている。棒の先に付いているのは小型カメラだ。その下には小さなこうもり傘のようなものが広げてある。そちらは集音マイクだ。
 小型カメラを持つ河原が後ろを振り返った。建物の影に隠れて『青山澄香ファンクラブ』のメンバー三人が小型カメラから伸びるケーブルに繋がれたモニターを見ている。
「どうだ?」
 河原が小声で尋ねた。
 集音マイクの音を聞いていた森下がヘッドホンを外しながらOKのサインを送る。
「よし!」
 大崎が大きなガッツポーズを作る。
「今回鈴木が振られるのは目に見えたいたからな。妨害工作をする必要もなかった」
「何言ってる。邪魔するいい方法が思いつかなかっただけだろ」
 平が茶々を入れる。
「そんなことはない。我らがアイドル青山澄香様は、こんな一高校の男を相手にするような存在ではないのだ」
 平は呆れたように大崎を見る。
「取り合えすこれで本命のナンバー1、ナンバー2,ナンバー3が揃って振られたわけだ」
 カメラを撤収してきた河原が会話に加わる。
「他に誰か好きなやつがいるんじゃないのか?」
 平が言う。
「いない。澄香様は全国、いや、世界レベルの人だ。本並さんや鈴木、岡本は人気があるといってもせいぜいうちの高校の中だけのこと。レベルの差は歴然だ」
 ファンクラブ内でも特に青山を神のように崇めている大崎が力を込めて言う。
「そうそう。あいつらのことなんて気にも止めてないよ」
 大崎に次ぐ青山信者の森下が続いて言う。
「でも、好きなヤツくらいいるんじゃないか? 青山から付き合ってくれと言われれば、断るヤツはそういないぜ」
 平が言う。
「そうなったらこの世の終わりだ」
 と森下。
「誰とも付き合わない。澄香様はうちの高校のヤツなんか相手にするか」
 また語気を強めて大崎が言う。
「じゃ、うちの高校のヤツじゃなければ相手にするのか?」
 今度は河原が言う。
「澄香様は誰も相手にしない。そんなお方ではない」
 大崎は自信を込めて言った。
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