6 / 15
6
しおりを挟む
太陽が校舎の影を長く伸ばしている。
部室が並ぶ建物の先の木陰に隠れるようにして、野球のユニフォーム姿の鈴木が立っている。
セーラー服姿の青山澄香がおずおずと近づいてきた。
「よう」
青山を認めて鈴木が言った。
青山は無言で小さく頭を下げる。
「部活終わった?」
「ウン」
「俺はグランド整備サボってきちゃった」
そう言って鈴木は口をつぐむ。
二人は無言で地面を見つめる。
しばらくして意を決したように鈴木は顔を上げて青山を見る。
「実はさ、俺、お前のことがずっと好きだった。付き合ってほしい」
青山はうつむいたままでいる。
「今すぐに返事をくれなくてもいい」
「ごめんなさい。お付き合いできません」
鈴木は何も言えずに青山を見つめる。
「ごめんなさい」
青山は小さく頭を下げると足早に去っていった。
鈴木はその後ろ姿を見送ったあと、いじけたように石ころを蹴飛ばした。
部室棟近くの自転車置き場の陰から小さな棒が出て、時々ゆらりと動いている。棒の先に付いているのは小型カメラだ。その下には小さなこうもり傘のようなものが広げてある。そちらは集音マイクだ。
小型カメラを持つ河原が後ろを振り返った。建物の影に隠れて『青山澄香ファンクラブ』のメンバー三人が小型カメラから伸びるケーブルに繋がれたモニターを見ている。
「どうだ?」
河原が小声で尋ねた。
集音マイクの音を聞いていた森下がヘッドホンを外しながらOKのサインを送る。
「よし!」
大崎が大きなガッツポーズを作る。
「今回鈴木が振られるのは目に見えたいたからな。妨害工作をする必要もなかった」
「何言ってる。邪魔するいい方法が思いつかなかっただけだろ」
平が茶々を入れる。
「そんなことはない。我らがアイドル青山澄香様は、こんな一高校の男を相手にするような存在ではないのだ」
平は呆れたように大崎を見る。
「取り合えすこれで本命のナンバー1、ナンバー2,ナンバー3が揃って振られたわけだ」
カメラを撤収してきた河原が会話に加わる。
「他に誰か好きなやつがいるんじゃないのか?」
平が言う。
「いない。澄香様は全国、いや、世界レベルの人だ。本並さんや鈴木、岡本は人気があるといってもせいぜいうちの高校の中だけのこと。レベルの差は歴然だ」
ファンクラブ内でも特に青山を神のように崇めている大崎が力を込めて言う。
「そうそう。あいつらのことなんて気にも止めてないよ」
大崎に次ぐ青山信者の森下が続いて言う。
「でも、好きなヤツくらいいるんじゃないか? 青山から付き合ってくれと言われれば、断るヤツはそういないぜ」
平が言う。
「そうなったらこの世の終わりだ」
と森下。
「誰とも付き合わない。澄香様はうちの高校のヤツなんか相手にするか」
また語気を強めて大崎が言う。
「じゃ、うちの高校のヤツじゃなければ相手にするのか?」
今度は河原が言う。
「澄香様は誰も相手にしない。そんなお方ではない」
大崎は自信を込めて言った。
部室が並ぶ建物の先の木陰に隠れるようにして、野球のユニフォーム姿の鈴木が立っている。
セーラー服姿の青山澄香がおずおずと近づいてきた。
「よう」
青山を認めて鈴木が言った。
青山は無言で小さく頭を下げる。
「部活終わった?」
「ウン」
「俺はグランド整備サボってきちゃった」
そう言って鈴木は口をつぐむ。
二人は無言で地面を見つめる。
しばらくして意を決したように鈴木は顔を上げて青山を見る。
「実はさ、俺、お前のことがずっと好きだった。付き合ってほしい」
青山はうつむいたままでいる。
「今すぐに返事をくれなくてもいい」
「ごめんなさい。お付き合いできません」
鈴木は何も言えずに青山を見つめる。
「ごめんなさい」
青山は小さく頭を下げると足早に去っていった。
鈴木はその後ろ姿を見送ったあと、いじけたように石ころを蹴飛ばした。
部室棟近くの自転車置き場の陰から小さな棒が出て、時々ゆらりと動いている。棒の先に付いているのは小型カメラだ。その下には小さなこうもり傘のようなものが広げてある。そちらは集音マイクだ。
小型カメラを持つ河原が後ろを振り返った。建物の影に隠れて『青山澄香ファンクラブ』のメンバー三人が小型カメラから伸びるケーブルに繋がれたモニターを見ている。
「どうだ?」
河原が小声で尋ねた。
集音マイクの音を聞いていた森下がヘッドホンを外しながらOKのサインを送る。
「よし!」
大崎が大きなガッツポーズを作る。
「今回鈴木が振られるのは目に見えたいたからな。妨害工作をする必要もなかった」
「何言ってる。邪魔するいい方法が思いつかなかっただけだろ」
平が茶々を入れる。
「そんなことはない。我らがアイドル青山澄香様は、こんな一高校の男を相手にするような存在ではないのだ」
平は呆れたように大崎を見る。
「取り合えすこれで本命のナンバー1、ナンバー2,ナンバー3が揃って振られたわけだ」
カメラを撤収してきた河原が会話に加わる。
「他に誰か好きなやつがいるんじゃないのか?」
平が言う。
「いない。澄香様は全国、いや、世界レベルの人だ。本並さんや鈴木、岡本は人気があるといってもせいぜいうちの高校の中だけのこと。レベルの差は歴然だ」
ファンクラブ内でも特に青山を神のように崇めている大崎が力を込めて言う。
「そうそう。あいつらのことなんて気にも止めてないよ」
大崎に次ぐ青山信者の森下が続いて言う。
「でも、好きなヤツくらいいるんじゃないか? 青山から付き合ってくれと言われれば、断るヤツはそういないぜ」
平が言う。
「そうなったらこの世の終わりだ」
と森下。
「誰とも付き合わない。澄香様はうちの高校のヤツなんか相手にするか」
また語気を強めて大崎が言う。
「じゃ、うちの高校のヤツじゃなければ相手にするのか?」
今度は河原が言う。
「澄香様は誰も相手にしない。そんなお方ではない」
大崎は自信を込めて言った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる