Love letter

原口源太郎

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 その日の夜、河原の同級生の野村大雄が自分の部屋でボソボソと話をしている。
「実は俺、初めて会ったときからお前のことが好きだった。俺と付き合ってほしい」
 そして大雄は考える。
 ちょっと上から目線かな?
「あなたのことがずっと好きでした。俺と付き合ってください」
 これじゃ他人行儀すぎるか?
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
 こんな感じがシンプルで格好いいけど、言われた方としたらびっくりするか?
「うーん」
 頭を抱えこんで考えた後、大雄はベッドに寝転がった。
 そして天井を見て考える。
 初めて青山澄香を見たときのこと。こんな美人がこの世に存在していたのかと驚いた。しかも同じ高校の同じ学年というすぐ身近にいるなんて。
 それからいつも澄香を見ていた。
 だけど悲しいかな、生まれてからの16年間、一度も女子と付き合ったことがない。それどころか女子と二人になって話をするだけで舞い上がってしどろもどろになってしまう。澄香とは視線が合いそうになるだけで慌てて目をそらせてばかりいた。
 そんな状況が一年以上も続いて、せめて澄香と普通に会話ができるくらいになりたい、当たり前のように話をしたいという思いが富士山のようにうず高く積もった。
 だけどそんな仲になれるようなキッカケなんてないし、何をどうすればいいのかもわからない。
 そんなことを考えていて、友達になって下さいとお願いするのも、恋人になって下さいとお願いするのもそれほど違わないんじゃないかと思いあたった。
 どっちにしろ嫌だったら断られるだけだし、うまくいったら・・・・うまくいったら?
 そんな可能性はほぼない。
 とにかく自分の想いを澄香にぶつけたい。振られたっていい。
 そう決心した。

 ところが、だ。どう頑張ってみても澄香を前にして重大なことを告げることは不可能だろう。絶対に頭が真っ白になって言葉が出てこないに決まってる。
 電話なら?
 机の上には半年もかけてやっとわかった澄香の電話番号を書いた紙がある。
 でも、電話をしても澄香の声を聞いた途端に固まってしまって、話もできなくなるなんてことは容易に想像できる。
 本来ならばもっと手順を踏んでいくべきだ。簡単な挨拶や日常会話から初めて、徐々に澄香と話をすることに慣れていく。
 いや、いきなり澄香とじゃ無理だ。まわりにいる普通の女子と話をすることから慣れていって。
 ・・・・誰であろうと無理か。女子という生き物であることに変わりはない。男だったら平気なのに。

 ラインかメールで自分の気持ちを伝えようか。
 それさえ直接送る勇気がない。
 そんなんで俺は澄香と付き合える資格なんてあるのか?
 いや、そもそも澄香は俺のことなんて目もくれない。恋人になってくれる可能性なんてほぼゼロだ。
 いやいや、恋人になってもらおうなんて大それたことを思ってるんじゃない。少しばかり話をしたり、近くにいても平気でいられる仲になれればいい。それで十分だ。澄香と普通に話ができるお友達。それでいい。
「大雄、何やってんの! さっきからご飯だって呼んでるでしょ!」
 階下から母親の怒鳴り声が聞こえてきて、大雄は慌ててベッドから飛び起きた。

 夕食と風呂と宿題を慌ただしく済ませると、大雄はベッドに入った。いつもなら部活で疲れているからすぐに眠り込んでしまうのに、その日は違った。いろいろな考えが頭の中を巡る。
 澄香への告白は手紙にすることに決めた。今どき想いを綴った手紙、つまりラブレターなんて書くヤツはいないだろう。でも、それが一番自分らしいやり方だと思った。
 それで手紙を書いたらどうする?
 やっぱり直接渡すのが筋だろう。郵便で送るのは違う気がするし、教室の机に入れておいたら、他の誰かに先に見つけられてしまうかもしれない。澄香のカバンに入れておけばいいのだろうけど、人のカバンを勝手に開けるのはどうかと思うし、その場面を誰かに見られでもしたらヤバイ。
 だから直接渡すしかない。二人きり、他人が見ていないところでそっと手紙を差し出す。
 いや待てよ。どうやって二人だけになる? 手紙を渡す場所にどうやって澄香を呼び出す?
 いつどこどこに一人で来てくれ。
 そんなこと、澄香に面と向かって言えるか?
 言えない。そんなことを言うこと自体、すでに告白しますと言っているようなもんじゃないのか?

 そこでまた大雄は考える。
 結局、その言葉もまた紙に書いて渡すことにした。手紙じゃなくてメモだ。それなら渡すところを誰かに見られても大丈夫だろう。
 やっとまとまった。
 暗闇の中でスマホのスイッチを入れる。
 時刻は12時を回っていた。
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