スーパースター

原口源太郎

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 部屋に帰ると、すぐに吉田がやってきた。
「どうだった?」
 俺は両手を目の前で交差して大きな×を作った。
「振られた?」
「そんなんじゃないけど。どうも旗色が悪い」
「なーんだ。今日は帰ってこないかもしれないと思っていたのに」
「実は俺も。なんてね。そんな段階じゃないし」
 俺はわざとつまらなそうに言った。
「まあ、とにかく頑張るのだよ」
「はいはい、頑張る」
「それはそうと、明後日には帰っちゃうんだろ?」
「うん」
「なら、一杯飲もう。しばしのお別れの前に」
「うーん」
 俺は考え込んだ。
「まだほろ酔い程度だろ? パーっと飲んじゃおうよ、パーっと」
 俺たちは近くのコンビニでビールとウイスキーとつまみを買ってきた。
「それじゃ、振られた北村君に」
 そう言って吉田は蓋を開けたビールの缶を突き出した。
「バーカ。取りあえずかんぱーい」
「かんぱーい」
 俺たちはビールをぐいぐいぐいっと飲んだ。
 吉田は柿の種ばかりを食べて、ビールを飲む。吉田の食べ残したピーナッツをさらうようにして俺は口に放り込んだ。
 くだらないことを話しながらビールを飲み、腹が膨れてきたら、今度はウイスキーだ。
 グラスに氷を入れて水を半分ほど注ぎ、あとは口元一杯までウイスキーを入れる。それをかき混ぜもせずにちびちびと飲む。
「北村はさ、卒業して向こうで就職するんだろ?」
 急に真面目腐った顔になって吉田が言った。
「うん。99パーセントそうだろうな。ちゃんと卒業できたらの話だけど」
「じゃ、今年は地元で就職活動か。居なくなっちゃうと寂しくなるな」
「お前はどうするつもり?」
「僕も地元に帰ろうかな」
「そりゃ、漫画家目指すよりは地元に帰って就職したほうがいいだろ。漫画で飯が食えるようになるのはすごく難しいってことは素人の俺でもわかる。親は会社を経営しているんだろ?」
「うん。でも親父の会社に入ろうとは思わないけどね。ここにいたら、いつまでも漫画家を目指してだらだらとした生活を続けてしまう気がする」
「俺もそんな気がする。親だっていつまでも仕送りをしてくれるってわけでもないだろ? とっくに大学を卒業する気がないってことはわかっていると思うし」
「そうなんだよな」
 そう言って黙り込んだ吉田は、少しの間物思いに沈んでいたようだけれど、じきに動き出してグラスのウイスキーをごくごくと飲み干した。
 俺は空になった吉田のグラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぐ。もう面倒くさいから水はなしだ。
 それを吉田はちびりちびりと飲む。
 俺も同じようにウイスキーをグラスに注ぎ、同じようにちびりちびりと飲む。濃い液体が喉を刺激して胃の中に流れていく。
「まあ、あと一年だけ頑張ってみるよ。どうせ卒業できないんだから就活する必要はないし。一年経って売れなかったら僕も地元に帰る」
「そうだな」
「明日起きられなくなるからもう帰るよ」
「うん、おやすみ」
 吉田はグラスに残ったウイスキーを飲み干してから立ち上がった。
「おやすみ」
 そう言って吉田はふらつく足で部屋を出ていった。
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