スーパースター

原口源太郎

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 年度末のテストはもうすぐだ。
 俺は暗い気持ちで講堂を出た。教授はリモート授業の終わった後期の講義で、五回以上欠席した者は採点を厳しくするというようなこと言った。この単位を落とすと進級、さては卒業まで危うくなるかもしれない。もうちょっと真面目に講義に出ていればよかったと、今さら後悔しても遅い。
 日向子に川口の事を訊こうか、俺のことをどう思っているのかを訊こうかと心を奮い立たせて今日は大学に来たけれど、それどころじゃなくなってしまった。テストまでの間、高校生の時のように猛勉強をしなければならない。
「どうしたの、暗い顔をして。元気ないね」
 日向子だった。数人の女友達と一緒にいる。
 日向子を残して他の女の子たちは明るく行ってしまった。
「よう。お前は元気?」
「私はいつも通り元気だよ。誰かさんはテストが目の前に迫って青くなっているところ」
「当たり」
「しょうがないな。またノート貸してほしいんでしょ」
「うん。頼む」
「それじゃ、他の講義の分も含めて明日、部屋に持っていってあげようか」
「いいよ、学校に持ってきてくれれば」
「それじゃ明日の講義の時に」
「うん、悪いな」
「ちゃんと出てきなさいよ」
「はいよ」
 日向子と歩いていると余計に気分が落ち込んでくるような気がした。日向子は誰にでもこんなに明るくて優しいのだろうか。
 俺たちはキャンパスを出て、街の通りを歩いた。
「それじゃ、明日」
 自分のアパートに向かう曲がり角で声をかけると、日向子は不満そうに俺を見た。
「もう帰っちゃうの? 何か用事がある? 付き合いが悪いなあ」
「別に用はないけど」
 今日だけは一緒にいると気分はどんどん落ち込んでいきそうだ。
「じゃ、もう少し付き合って。あ、そうだ。これから北村君の部屋に行っていい?」
「え? 何? バカ言うなよ。俺の部屋なんて、すごく散らかってるし」
 それは事実だ。
「何なら、お掃除してあげようか?」
「いいよ」
 俺は照れて言った。何で急に日向子はそんなことを言い出したんだろう。
「そう。それじゃ、さようなら」
 少し怒ったように日向子は言った。
「えっと」
 何か気の利いたことを言わないと、日向子は機嫌を損ねてしまう。いや、すでに損ねているか。
「じゃあ、明日」
「うん」
 日向子はぷいと踵を返し、つかつかと歩き出す。
 くそ、こうなりゃ、やけくそだ。
「おい、ちょっと待って」
 俺は日向子の前に立った。
「何?」
 言っちまえ。
「俺、お、お前の」
 お前のことが好きだ。
「え?」
 日向子がじっと俺を見る。
「お前のことを信頼してるからな」
 やっぱり言えねえ。
 日向子は俺の目を見て首を傾げた。
「じゃあな」
 俺は顔が熱くなって、走ってそこを離れた。

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