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部屋でパソコンを付けたまま雑誌を広げていると、ドアのチャイムが鳴った。時計の針は夜の九時を回っている。こんなに時間に訪ねてくるのは吉田くらいなものだろう。
ドアのカギを開けると、吉田は安ウイスキーの瓶を抱えて部屋に入ってきた。すでに顔がほんのり赤味を帯びている。
「畜生、どうもうまく描けない。やっぱり知らない世界のことを描くのは難しい」
部屋に入るなり吉田はくだを巻き始めた。
俺はグラス二つと、冷蔵庫から氷を出してテーブルに置いた。普段、間食をしないから、つまみになりそうな物はない。取りあえず何週間か前に買ってあったチョコレートを持ってきて包みを開けた。
吉田はウイスキーのボトルを持ってきただけで、何もする気がないようだったから、俺が二つのグラスに氷を入れて、ウイスキーと水を加えた。
吉田は俺の差し出したグラスのウイスキーをごくごくと飲んだ。
「それで? 俺の言ったところは描き直したんだろ?」
「うん」
「その先は?」
「それからは鈴木がとんでもない練習をしていると聞いて、ライバルの大山もがむしゃらに練習をする。それから昔のライバルで今は鈴木の練習パートナーをしている男も、また鈴木と戦うために必死にリハビリに励むようになる。さらに鈴木に秘かに想いを寄せる可愛い子が練習風景を遠くから見つめる」
「おいおい、この前に言ってたことと違うだろ。あまり話を複雑にしたら、新人賞の応募枚数を越えちまうって言ってたの、お前だろ?」
「でもね、よく考えたら最初の構想でいくと、ただの根性漫画だけで終わっちゃうから」
「それで規定の枚数に収まるのか?」
「収まりそうにないから困ってる」
「さっさと描かないとオリンピック、終わっちまうだろ。そうしたらオリンピックの話なんて誰も興味を持たねえぜ」
「そうかな」
「そうだよ。最初の構想通りに描け。そしてオリンピック前には仕上げて応募しろ」
「うん。わかった」
そう言って吉田はグラスのウイスキーをぐいっと飲みほした。
俺は空のグラスを取り上げ、ウイスキー少なめの水割りを作った。
吉田は絵のことになると、すごくうるさくてこだわりを持っているのに、肝心の設定のアイデアやストーリーを作ることが上手くできない。いくら絵が上手くても、そんなんじゃ漫画家になるのは無理だろうなと俺は密かに思った。
吉田はまだ愚痴ってる。
俺はそんな愚痴を聞き流しながら、安ウイスキーをちびりちびりと飲んだ。
明日、起きられるかなあ。
ドアのカギを開けると、吉田は安ウイスキーの瓶を抱えて部屋に入ってきた。すでに顔がほんのり赤味を帯びている。
「畜生、どうもうまく描けない。やっぱり知らない世界のことを描くのは難しい」
部屋に入るなり吉田はくだを巻き始めた。
俺はグラス二つと、冷蔵庫から氷を出してテーブルに置いた。普段、間食をしないから、つまみになりそうな物はない。取りあえず何週間か前に買ってあったチョコレートを持ってきて包みを開けた。
吉田はウイスキーのボトルを持ってきただけで、何もする気がないようだったから、俺が二つのグラスに氷を入れて、ウイスキーと水を加えた。
吉田は俺の差し出したグラスのウイスキーをごくごくと飲んだ。
「それで? 俺の言ったところは描き直したんだろ?」
「うん」
「その先は?」
「それからは鈴木がとんでもない練習をしていると聞いて、ライバルの大山もがむしゃらに練習をする。それから昔のライバルで今は鈴木の練習パートナーをしている男も、また鈴木と戦うために必死にリハビリに励むようになる。さらに鈴木に秘かに想いを寄せる可愛い子が練習風景を遠くから見つめる」
「おいおい、この前に言ってたことと違うだろ。あまり話を複雑にしたら、新人賞の応募枚数を越えちまうって言ってたの、お前だろ?」
「でもね、よく考えたら最初の構想でいくと、ただの根性漫画だけで終わっちゃうから」
「それで規定の枚数に収まるのか?」
「収まりそうにないから困ってる」
「さっさと描かないとオリンピック、終わっちまうだろ。そうしたらオリンピックの話なんて誰も興味を持たねえぜ」
「そうかな」
「そうだよ。最初の構想通りに描け。そしてオリンピック前には仕上げて応募しろ」
「うん。わかった」
そう言って吉田はグラスのウイスキーをぐいっと飲みほした。
俺は空のグラスを取り上げ、ウイスキー少なめの水割りを作った。
吉田は絵のことになると、すごくうるさくてこだわりを持っているのに、肝心の設定のアイデアやストーリーを作ることが上手くできない。いくら絵が上手くても、そんなんじゃ漫画家になるのは無理だろうなと俺は密かに思った。
吉田はまだ愚痴ってる。
俺はそんな愚痴を聞き流しながら、安ウイスキーをちびりちびりと飲んだ。
明日、起きられるかなあ。
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