スーパースター

原口源太郎

文字の大きさ
上 下
9 / 18

しおりを挟む
 ビリヤード場のカウンターにはバイトの男が一人いるだけだった。七台ある台のうち、六つが空いている。
 俺たちは一番隅にある台を借りた。
 台の上に菱形になるように玉を九つ並べると、中沢がブレイクした。カシャーンといい音がして、まとめられていた玉が台上に散らばった。ゴトン、ゴトンと幾つかの玉が穴に落ちる。
 俺たちがやるのは大抵ナインボールだ。九つの玉を1から順番にポケットに落としていくやつだ。
 ビリヤードが好きで、ビリヤード場でアルバイトをしたこともある中沢はやっぱり上手い。押し玉、引き玉を上手くコントロールするし、手玉をカーブさせたり、二つ三つと球に当てて9番の玉をポケットに落としたりもする。俺が見ていると中沢はプロみたいな腕を持っていると思えるけど、中沢に言わせるとプロなんてこんなもんじゃないとのことだ。
 勝負をしていても、初心者に毛が生えた程度の俺は、一ゲームで二、三度しか突かせてもらえず、一度も俺の番が回ってこずにゲームが終わってしまうこともたびたびある。
 中沢ばかりがポケットにボールを落とし、俺はあまり面白くなかった。中沢だって、俺とゲームをしてて面白いのかなと思う。でも、一人でやるよりはいいのか。中沢と同じくらい上手い原がいたら、俺は自分の番が回ってこずにボケっと突っ立っているだけだ。

 俺は大学に入っても陸上を続けるつもりはなかったが、何か体を動かすことはやりたいと思っていた。球技は難しそうだしと考えている時に、たまたまゴルフ部の勧誘の上級生の話を聞いて、ちょっとやってみようかという気になった。そこで知り合ったのが中沢と原だった。
 俺たち三人だけが初心者で、他の部員たちは皆経験者だった。だから必然的に三人で練習することが多くなり、ゴルフ以外でもよく三人で遊びに行った。ところが半年もしないうちに中沢と原はビリヤードに夢中になり、部活に来なくなった。
 俺はビリヤードよりもゴルフのほうがおもしろかったので、まめに練習には行っていたが、やっぱりジュニアの頃からゴルフをしていた奴らとの技術の差はとてつもなく大きくて、一年後にその頃には幽霊部員と化していた中沢や原と共にゴルフ部を辞めた。それ以来、特に運動はしていない。時々体を動かしたくなったり、走りたくなると近くの公園や川沿いの堤防に行って走った。
「お前、江上と付き合ってるの?」
 出し抜けに中沢が言った。
「何言ってんだよ。付き合ってない」
「そうか。江上って美人だろ。親しくなりたいって思ってる奴は結構いるんじゃね? 早いとこはっきりさせたほうがいいと思ってね」
 中沢が台に覆い被さるようにして構えながら言った。
 日向子のはにかんだような笑顔が頭に浮かんだ。確かに中沢の言う通りだ。
「別にそんな間柄でもないし」
 俺はなぜか焦って言った。体が火照ってきた。
「そうか? それなら何も言わねえけど」
 カン。
 コン。
 ゴトン。
 中沢は次々と球を落としていく。
「好きなのかな」
 ふっと俺の口からそんな言葉が出た。
「そんなこと、俺に訊くなよ」
 そう言って中沢は黄色と白のナインボールを穴に落とした。結局そのゲームも、俺は一度も球を突けなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

闇を泳ぐ

恋愛
兄との恋を守れるのなら闇の中でも泳ぎ続ける――。他に何もいらないから。 私は、必死で闇の中を彷徨い続ける。 深い沼のような闇から浮き出て息をしたいなんて思わない。 この闇から抜け出たいとも思わない。 お兄ちゃんと共にいられるなら、光の届かないこの闇で永遠に泳ぎ続ける――。 心優しい兄    長谷川 春彦(ハセガワ ハルヒコ) 欲しいものはただ一つ。兄だけを想い続ける妹  長谷川 メイ ――ごめんね、お兄ちゃん。 ****************** 兄妹の恋愛になります。 それゆえ、完璧な清々しいハッピーエンドではありません。その点、お読みになる際、ご留意ください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...